災難
「あーおかえりなさい…ってどうしたんですか? そんな疲れた顔して」
「内村さん…聞いてくれます?」
「まぁ私で良ければ」
命からがら町役場まで戻ってくると、住民課から見えていたのか、内村さんが声をかけてきた。
俺はドサッと住民課の受付の椅子に腰を下ろして、今起こったことをありのまま伝えた。
「秋原さんが別の仕事でいなかったので、一人で町の散歩兼見回りをしていたんですよ。そしたらなんか急ににわとりに襲われて…別ににわとりには悪いことした覚えはないんですけど、怒ってる風でした。そのにわとりから逃げられたと思ったら、今度は猫に追いかけられて、町中走っちゃってました…疲れた」
「はい、コーヒーです」
「あーどうも」
内村さんは自分の机に置いていたであろう未開封の缶コーヒーを俺に渡してくれた。
あとで新しいのを返そう。
「俺、なんか呪われてるんですかね?」
「アハハ。動物に好かれてるんじゃないですか? 手厚い歓迎とか」
「歓迎ですかぁ?」
「動物なりの歓迎だと考えるんです。そうすれば少しは気が楽になりますよ」
そう笑顔で言う内村さん。
内村さんはポジティブな人だ。
「もしその動物達がツンデレだったとしたらと考えるんです。町長のことが好きだけど、愛情表現も言葉もうまく伝えられないから、そうやって町長のことを追い掛け回してるんですよ。きっと。いえ、そうに違いないです」
俺は内村さんを見た。
内村さんはいたって真剣な顔で俺を見ていた。
「…はい?」
「もし擬人化でもしたら町長の総受けですか? でもそんなことになったら秋原さんが黙ってないよなぁ…うーん」
「えっと、なんの話でしたっけ?」
総受け? なにそれ?
ってか秋原さんが出てくるところなかったはずなんだけど…
顎に手を当てて何やら考え込む内村さん。
「う、内村さん?」
「あっ。ごめんなさい。今度のイベントで書く本のこと考えてました」
「ほ、本?」
「あー! 内村さん! ダメですって、町長にその手の話は伝わりませんよー」
「榊君、助けて…」
「榊君が…攻め…だと?」
「こらっ。仕事中ぐらいはそーゆー発言控えてくださいって言ってるじゃないですか」
受付で何か閃いたのか、目を輝かせる内村さん。
榊君は榊君で呆れた顔をしてため息をつく。
「榊君のケチー。狭心症で倒れますよ?」
「ご心配ありがとうございます。町長もほら、さっき秋原さんが探してましたよ」
「えっ、本当? 町長室にいるかなぁ?」
「さっき戻ってきたところだったんで、そっち向かってるかもしれませんよ」
「ちょっと行ってみます」
俺は二人にそう言って、町長室へと向かった。
その後ろからは、二人の話し声が聞こえてきた。
「榊君と町長本出してもいい?」
「ダメです。仕事してください」
「じゃあアッキーにだけでも連絡を…」
「…連絡だけですよ?」
その日の夜、俺が見た夢は、喋る動物たちがいる森に迷い込んだ夢だった。
オバハンに追いかけられた町長は、野良猫集団にも追いかけられてそうです。
アニマチオンの照井さんと内村さんはオタ仲間です。
そして真面目だけど、甘い榊君。
はたして二人の薄い本はでるのぐぼらぁぁあああ!




