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一善一膳

「オムライス食べたい」


そんな声が俺の耳に届いたのは、秋原さんと一緒に町を歩いていたお昼時だった。

俺と秋原さんは、自分たちの足で歩いては、こうやって町の様子を見て回るのを習慣にしている。二人で歩いているのは、秋原さんが監視役としてくっついてきてるだけ。時間が空いているならまた昼寝でもしてればいいのにと言ったら怒られた。プライドが高い秋原さん。

そして町役場から駅へと歩いていた時に先程のオムライス発言が聞こえてきた。

何やらお兄ちゃんっぽい少年が、スマホをいじっている。

妹のほうがオムライス発言をしたようで、お兄ちゃんの手を引っ張って、今にもしゃがみこんでしまいそうだった。

そんな二人を周りの人は微笑ましげに眺めていた。


「どこか行くところ…ですかね?」

「みたいですね。町長、ちょっと待っててください」


そう言うと、秋原さんがスタスタと歩いて二人の元へと歩いていった。

俺も少し後ろからついて行く。


「君たち、どうしたの?」


二人の前にしゃがみこんで声をかけた。


「えっ、えっと…」

「オムライス食べたいの」


突然話しかけられて困っているお兄ちゃんに対して、妹ちゃんはだるくなってきたのか、少し泣きそうな声でそう言った。

妹ちゃんの言葉に、お兄ちゃんが慌てて付け加える。


「えっと、妹がオムライスを食べたいっていうから、今探してて…」

「オムライス…あっ、じゃあお姉さんがいいお店教えてあげようか」


『お姉さん』って歳でもなかろうに…


「うおっ!」


頭の中でそう考えたのと同時に、クルっと秋原さんがこちらを向いたので、思わず声をあげてしまった。

しかし、どうやら秋原さんはそーゆー意図で見たわけではなく、『案内してもいいか』という意図だったようだ。びっくらこいた。

俺はそんな秋原さんに向かって頷くと、秋原さんはまた二人の方に向き直った。


「じゃあそのへんだから行こっか」

「うんっ」

「あ、ありがとうございます」


仲良く手をつなぐ兄妹。

そんな二人を引き連れるかのように先導する秋原さん。


そしてやってきたのは、前にやってきた洋食屋さんの『流星』。

…秋原さんもここ知ってたのか。隠れ家的な存在にはできなかったか。がっくし。


カランカランと扉を開けて中に入る秋原さん。それに続いて二人も入っていく。俺は最後尾。


「すみませーん」

「あっ、いらっしゃい」

「オムライスを食べさせたいんですけど、おいしいのってできますか?」

「アハハ。このビストロ『流星』を舐めてもらっては困りますねー。おまかせくださいませ」


なんて挑戦的な発言…と思っていたのだが、店主もさほど気にした様子もなく、笑顔で厨房へと向かっていった。

すでに俺よりも常連になってるのかよ。『秋原さん! 今度俺の隠れ家的なお店教えますよ!』とか自慢しなくてよかった。恥かくところだったわ。


「さぁここに座って」


俺もまだ座ったことのないテーブル席に二人を座らせると、秋原さんと俺も二人の向かいに座った。

その時、妹ちゃんが口を開いた。


「おじさんとおばさんは恋人同士なの?」

「おばっ!?」


俺はそんなに気にしてないけど、秋原さんには大ダメージだったようだ。

怒る気持ちを押さえつけたように秋原さんが言う。


「お、お姉さんとこの人はそんな関係じゃないわよー」

「じゃあどんな関係?」

「この人、実は町長さんなんだよー」

「えっ!?」


ちょうどオムライスを持ってきた店主さんが驚いていた。


「町長さんとは露知らず…」

「いえいえ。こちらこそ隠す気とかは無かったので、気にしないでください」

「町長、ここ来たことあったんですか?」

「前に一回だけですけどね。店主さんとは、向こうのショッピングモールのカフェでもう一回会いましたけど。それこそ、秋原さんこそここの常連だったんですか?」

「えっ!? いや、別に常連というわけでは…」

「フフフ」


何か隠したげな秋原さんと、小さく笑う店主さん。

この二人の関係はいかに…


「おいしー!」


こんな話をしている中、妹ちゃんのその声に、大人3人は笑顔になった。

子どものこーゆー声が聞こえるのは、町長としてはたまらなく嬉しい。

これからも元気な子どもが増えていって欲しいと思った。





「もしかして、あの店主さんとお付き合いしてるんですか?」

「はぁ? 付き合ってませんよ?」


『はぁ?』って…俺、一応上司なんだけど。

今回は、とにあさんのキャラをお借りしました。

そしてまたまた店主さんに登場してもらっちゃいました。


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