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住民課

30日の昼過ぎの町役場。


「どーも、ご苦労様です」

「え? はぁ…どうも」


おかしいな。

かれこれ1週間は経っているはずなのに、なかなか町役場の事務員の人たちに顔を覚えてもらえてない気がする。とりあえず今挨拶した掃除のおばちゃんには覚えてもらえてないのは確かだ。

町長室に入ると、秋原さんがソファに座って静かに寝息をたてていた。

秋原さんもなんやかんやで激務だろうし、疲れているのだろう。そっとしておいてあげよう。

俺は置いておいたひざ掛けを秋原さんの足に掛けると、残っていた書類をまとめて抱えて、他に必要なものだけ持って町長室を出た。

うむ。出たはいいけどどこで仕事しようか。

思い切って自分の家まで行くのも手だ。なんせ隣なんだし。

でも家に帰っちゃったら母さんもいるし、犬のゴローなんかもいて、なかなか仕事に集中できない気がする。それにおれのやる気スイッチも入らない気がする。『家=くつろぐところ』って感じだし。


「町長? どうしたんですか?」

「あ、榊原君」

「…榊です」


間違えた。

榊君は、町役場の職員の一人。確か25歳だったはず。


「そんなことよりどうしたんですか? そんなに書類抱えて」

「いや実はね…」


かくかくじかじかうんぬんかんぬん


「ってことがあって、今仕事出来る場所探してるんだ」

「あー…ならうちの部署来ます? 今日は人少なくて机空いてますし」

「ホント? じゃあちょっとお邪魔しちゃおうかな」


そんなこんなで下の階の『うろな町住民課』にやってきた。

住民課は、主に住民の転入や転出を主に仕切っていて、新しくこの町に住み始めた人は、必ずここに来ることになっている。他にも戸籍関係や住民票、印鑑証明なんかもここの管轄になっている。


「あれ? 一人だけ?」

「内村さんもいるんですけど、今はお昼行ってます」

「今から? ずいぶん遅いね。忙しかったの?」

「いや、なんていうかタイミングが悪かったってやつですかね。僕と入れ替わりでお昼行こうとしたら、2人来ちゃって…」

「あらま、ご苦労さま」

「いえいえ。仕事ですので。じゃあこの机使ってください」

「ありがとう。使う時がきたら遠慮なく言ってね」


そして榊君と俺は仕事をはじめた。

俺は持ってきた書類に目を通す。

『うろな町の教育のあり方』

『交通予算の増額』

『近隣市町村の合同会議』

『高速道路の建設』

『漁業組合より』

『電力供給のお願い』

『下水処理施設のバージョンアップ』

様々な書類に目を通しては、ハンコを押したり押さなかったりしていく。

そして押さなかったものには、それぞれ理由を記入していく。本来はここまでやることではないのだけど、俺の考えを知ってもらうためにも、ここまでする必要があると考えての行動だ。これだけは秋原さんがなんと言おうと譲れない。言われたことはないけど。でもこれで遅くなって提出が遅れたり、遅くまでかかってしまうようでは町長失格だと思っているので、そこのところも計算しながら仕事を進めていく。

そんな俺の斜め向かいでは、榊君がカタカタとパソコンに打ち込んでいる。きっとさっき来たと言っていた住民のデータを入力しているのだろう。


「あんまり見られていると気になるんですけど」

「あっ、ごめん」

「いえ。町長のほうも仕事が山積みですか?」

「今はまだ慣れてないからこんなんだけど、もうちょっとした慣れてくるはず」

「ってことは、今は山積みってことですか」

「そういうことです。榊君は? さっきの住民さんの処理?」

「はい。新しく転入してきた住民です。また人増えましたね」

「おー。この調子でドンドン活性化していってもらいたいもんだね。ちなみにどんな人?」

「二人とも男性で、一人は高校生で、もう一人はツチノコ探しに来た人です」

「ツチノコ?」

「ほら、山の方で出るっていうじゃないですか」

「あー懐かしー! 子どもの頃よく探しに行ったわ!」

「町長もですか。僕も探しに行ったんですよねー。まぁみつかりませんでしたけど」

「だよね。誰がいるって言い出したんだか。もう一人の高校生は、一人で来たの?」

「はい。えっと…椋原さんっていうところの娘さんが、拾い癖があるみたいで、犬やら猫やらをよく拾ってきちゃうらしいんですけど、今回拾ってきたのがこの高校生っていう噂ですよ」

「拾ってきた? 拾ってきたほうも拾ってきた方だけど、拾われた方も拾われた方だよね」

「それで結局居候してるみたいです。住所も椋原さんのところですし」

「へー。ちょっと今度見に行ってみようかな」

「野次馬ですか?」

「違うって。状況把握」

「一緒じゃないですか」

「「ハハハハ」」


俺と榊君が笑いあっていると、上の階から降りてきたらしい秋原さんが、その笑い声に惹かれるようにこちらにやってきた。


「おはよー」

「おはようございます」

「あっ、おはようございます。…じゃなくて、なんでこんなところにいるんですか」

「秋原さんが寝てたから」

「起こしてくれたら良かったじゃないですか。私だって仕事あるんですから」

「仕事中に寝てるのはどうかと思うけどねぇ」


そう言った俺は榊君のほうを見ると、榊君は俺の顔を見たあとに秋原さんを見て、また俺を見てクスクスと笑った。

秋原さんの顔がみるみるうちに赤くなる。


「ふ、ふざけないでください!」

「こらこら。一応町役場なんだから大きい声出したらダメですよ」

「すみません。ほら町長、戻りますよ」

「秋原さんも起きたことですし戻りますかねー」

「お疲れ様です」

「じゃあツチノコに進展があったら教えてね」

「アハハ。わかりました」


そう言って座りながらペコリトおじぎをした榊君にヒラヒラと手を振り、住民課を後にした。

今回はここもとさんの川崎さんと、ディライトさんの日比野くんと椋原さんをチラッとだけ登場させました。


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