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マジシャン町長 うろな夏祭り短編

 ついにこの日がやってきた。

 去年は散々練習したにも関わらず、『地味』で『見えない』というダブルパンチによって満足感を台無しにされてしまった。去年の雪辱を晴らして見せる!

 そんな想いで挑む。

 とはいえ、素人がやるマジックなんて、トランプを使ったりコインの瞬間移動だったり……まぁそんなもんだ。だから『すごいけど地味』というのはどうしようもないんじゃないか?

 そう思った。

 ならばその『見えない』を解消すれば良いのだ。

 だからと言って大きなモニターを買うとかっていうのはせず、もうステージを離れてマジックをすればいいじゃんという結論に至った。

 完璧だ。

 秋原さん相手に何回も練習したし、ミスしないように何度も練習した。

 これで失敗したらもう今年はダメなのだろう。そういう年なのだろう。そう思うことにした。


 そして当日。


「さぁ皆さんお待ちかね! 今年もやって参りました、我が町の町長のマジックショーでございます! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! あ、そこの女の子もお父さんも見て行ってくださいな!」


 ステージ上では榊君がマイクを使って台本に書かれた通りの台詞で客寄せをしている。ステージから見えた親子も誘っていたが、お客さんが多いに越したことはない。少ないよりいい。グッジョブ。


「それでは町長に入場してもらいましょう! どうぞ!」


 入場のBGMが鳴り、それに合わせて俺がステージ脇の階段をのぼ……らずに、ステージ前に用意しておいた、特設のマジック台(普通の会議用長テーブル)のほうへと登場した。

 自腹で買ったシルクハットを取って大きくアピールすると、パチパチパチという拍手の中で、『今年は頼むぞー!』というやじが聞こえた気がした。そんなに去年はダメだったのだろうか?

 そしてこれは町の予算で『お祭りの経費』ということで買ったピンマイクに向かって話す。もちろん職権乱用じゃないよ? このあと来るアイドルさんのために買ったやつの性能テストも兼ねてるんだ。うん。


「皆さん! 今年もよろしくお願いします!」

「「アハハハハハ」」


 そう言ってお辞儀をすると、なぜか笑われた。

 気にせずつづけよう。


「えーと、去年は地味だの見えないなど言われましたので、今年は下に降りてみました。なので、皆さんもっと近くまで来ていいんですよ?」

「タッキー! もっと前行ってみようぜ!」

「俺たちも行こうぜ!」


 町の元気な小学生が何人か目の前に来たのをきっかけに、そのへんでビールを飲んでいる人を除けば、ほぼ全員が来たことになる。ちょ、ちょっと予想よりも多いけど、まぁ大丈夫だろう。


「それでは始めていきます」


 パチパチパチパチ。


「えーまずはここに取り出したるは何の変哲もない新品のトランプ。わざわざ昨日買ってきました」

「アハハハ」

「これを誰かに……じゃあそこの君に」

「よっしゃ!」


 一番最初に寄ってきていた子どもに封を開けてもらうと、中からそれを取り出してよーく混ぜた。

 そこからは特に何の変哲もないマジックだ。

 きっとテレビで見たこともある人が多いであろう、『引いたカードを当てる』マジックだったり、『一番上に選んだカードが浮き上ってくる』マジックだったりと、いくつかのマジックを披露するたびに、歓声と驚きの声が上がっていた。

 今年は大成功だ。


「町長スゲェ!」

「これどんだけ練習したのー?」

「ほぼ毎日かな。去年はみんなにボコボコに言われたからね」

「スゲェ! 魔術の力ってすげぇ!」

「種明かししてよー!」

「いや、それはちょっと……」

「マジシャンに種明かしをさせたら普通の人間になっちゃうでしょ?」

「あ、そっか」


 なんやかんやと言われているが、これは素晴らしい結果だ。

 そんな中、遠くの方で昼間から飲んでいる組から声がかかった。


「町長ー! こっちでもマジックしてくださいよ!」

「喜んでー!」


 俺はギャラリーとなったちびっ子たちを引き連れてそちらへ向かうと、またトランプのマジックを始めた。

 何度も言うが、今年は大成功だ!

 これで去年の雪辱は晴らせただろう。大満足です。













「町長ー。どこ行くんですかー」


 ステージにぽつんと残され、客席にはさっき呼び込んだ親子しか残っていない。みんな町長の移動と共に遠くへ行ってしまった。

 こっから見る限りだと、なんだが満足そうな町長。きっとこっちの声なんか聞こえないくらい浮かれているのだろう。

 ふとその親子の女の子と目が合い、なんとも言えない微妙な空気が流れた。次のステージまではあと十分以上ある。


「えっと、君は町長のマジック観に行かなくていいの?」

「んー……どうする? 正親さん?」

「えっと、観に行った方がいいんですかね?」

「た、多分……」


 自分と同じくらいの歳のお父さんにそう言うと、娘さんとなにやら話し始めた。


「じゃあ行こっか、瑠璃ちゃん」

「うん」

「いってらっしゃーい」


 こちらに向かって手を振る二人を見送り、ステージに取り残された僕は、遠目で町長のマジックの成功を祝いながら、『なんてステージ進行泣かせな町長だ』と悪態をついておいた。




おしまい。

トランプマジックは封印と言ったな。あれはウソだ。


千月さんより、ちびっ子四人組(存在のみ)をお借りしました。


それと特別ゲストの瑠璃ちゃんと正親が出てきています。

気が向いたらそちら視点の短編も書きます。

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