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一周年を終えて

 今日はなんだかいろんな人に会った気がする。とても疲れたけど、心地の良い疲れだった。

 こうして考えてみると、もしかしたら誰かが裏であーだこーだと仕組んでいたのではないかと思うような節もあったが、そんなことは考えてはいけないのであろう。他人からもらった誕生日プレゼントの値段を調べるのと同じ感覚だ。

 そんなわけで、家に帰ってきたあと、リズさんからもらった魚を焼いて秋原さんと一緒にお酒を飲み、俺の一周年を振り返っていた。

 祝ってもらった人のことを思い出し、その人との思い出を思い出し、それを秋原さんと話しながら笑ったり、時にはしんみりしたりとしているうちに、いつの間にか時間はさらさらと流れていて、外もすっかり静まり返っていた。

 爺さんとは仲が悪いというわけではないのだが、なんとなく秋原さんと一緒にいるところを見られるのが気恥ずかしいので、家族が帰ってくる前に秋原さんを送るために、共に外へと出た。とはいえ、俺が起きる前にどこかに行ってしまった家族は、一体どこへ行ったのだろうか? 帰ってきたら聞いてみよう。

 秋原さんと共に出た外は、すこし肌寒い気もしたが、お酒を飲んだ後の身体には気持ちがいいくらいだった。


「寒くないですか?」

「俺は大丈夫。秋原さんは?」

「私も全然」

「なんで聞いたのさ」

「心配してあげたんじゃないですかー」

「そういうことですか。ありがとうございます」

「いえいえいえいえ」


 秋原さんの家は、町役場から一駅離れたところにある。つまり町役場の近くにある俺の家からも一駅離れたところにある。普段なら駅まで送っていくところなのだが、今日は二人とも歩きたい気分ということで、並んで歩いていく。

 家を出たらすぐに見える町役場。

 俺は財布にカードキーが入っているのを思い出した。


「ちょっと役場寄っていってもいいですか?」

「役場ですか?……いいですよ」

「……仕事はしませんよ? もちろんですよ。仕事されるなら、私が警報機を鳴らしてでも止めます」

「鳴らしたら警察とか消防とかに迷惑かかるのでやめてもらえますか?」

「天狗さんとかも駆けつけそうですね。鳴らしてみましょうか」

「楽しんでます?」


 カードキーを使って中に入り、警備のロックを解除し、非常口を案内するための明かりだけがついている廊下を歩く。

 そして向かう先は町長室。

 そこの扉を開くと、見慣れた町長の席が目に入る。

 電気をつけるとさらにいつも通りが目に映る。


「一年前、ここで仕事を始めたんですよね」

「あの時の町長は全然仕事できませんでしたもんね」

「そんなことないでしょ。午前中に書類業務して、午後から教育の会議出たりするために、秋原さんが作った文章を完璧に暗記したりしたでしょ」

「でも余計なひと言でお偉いさんたちからは、終わってからグチグチ言われてましたけどね」

「結果として良い方向に結び付いたんだから良いと思うけどなぁ」


 懐かしさを感じて、二人でクスリと笑う。


「なんかアレですね」

「知ってます? 『アレ』とか『コレ』とかの指示語をたくさん使い始めると、歳をとった証拠なんですって」

「マジですか。困るんですけど」

「じゃあ町長も気を付けてくださいよ」

「善処します」

「で、なんですって?」

「こう改めて思い浮かべるとあっという間ですけど、いろんなことがあった一年だったなって思って」

「まだ一年しか経ってないんですよ?」

「俺からしてみれば今までで一番濃い一年だったよ」


 俺は一年お世話になっていたデスクに手を置いた。

 手のひらに伝わる温度は冷たかったが、なんだか温かみも感じた。


「やっぱり町長っていうのは、大変かな」

「大変、ですか?」

「うん。でも楽しい。いろんな人に出会えて、いろんな人のことを考えて、いろんな人にお世話になって。人との関わりがこんなに楽しいものだとは思わなかった」


 窓の外を見ると、明日も晴れそうな、綺麗な星空が見えた。


「それに」


 秋原さんを見る。


「秋原さんとも仲良くなれたし」

「……恥ずかしいので面と向かって言わないでください」

「照れちゃって」

「照れますよ。面と向かってそういうことを言われるのは、その、まだ慣れません」


 顔を赤くしてこちらを見る秋原さん。

 

「秋原さんがいたから俺がこうして動いていられるわけだし、とても助かってるよ」

「私は何もしてませんよ。町長の力です」

「俺にとって秋原さんの存在は大きいよ。ありがとう」

「……いえ。こちらこそありがとうございます。今年一年、とても楽しい思いをさせていただけた気がします」

「楽しめたのは秋原さん自身の結果じゃないの?」

「……そっくりそのまま言い返したばっかりじゃないですか」

「あ」


 俺は秋原さんをまっすぐ見る。

 秋原さんも背筋を伸ばして俺を見る。


「「これからもよろしくお願いします」」


 ほとんど同時に同じ言葉を言ったので、二人して笑ってしまった。


 そうだ。

 これからが本番なのだ。

 一年目が上手くいったからと言って、二年目も上手くいく保証なんてどこにもない。保証がないなら、自分で何とかしなければならないのだ。

 ……とか臭いセリフを心の中で言ってみたが、うろな町ならそんな保証なんて必要ない気がする。

 俺の周りにはいろんな人がいる。

 秋原さんをはじめとして、役場の人たちや商店街の人たち、学生や先生、お店で働いている人たちやこの町に住む人たち。

 違う形の歯車を持ったいろんな人が集まったこの町で、上手くその歯車をかみ合わせて、町を動かしている。俺はそれを回すだけだ。かみ合わないところを調整したり、新しい歯車をはめる場所を作ったり。

 これからもいろいろとあるだろうが、この町の人たちならなんの心配もしなくてもいいと思う。

 このうろな町は平和だ。

 平和じゃないところもあるけど、基本的に平均的に平和だ。

 こんな町は見たことない。

 

 俺はこの町の町長になれて幸せ者だ。

 

 これからもこの町の町長として頑張っていきたいと思う。


 この町で暮らすすべての人たちに、幸せが訪れることを願う。


 これからもこの町で楽しく過ごしてほしい。


 そんな想いを込めて、俺は秋原さんだけじゃなくて、その後ろに見える町の人々全員に頭を下げた。



 本当に、ありがとう。





おしまい。

というわけで、発展記録は完結とさせていただきます。


もうネタ切れですし、とてもいいタイミングで良い機会が来たので、完結とさせていただきます。


町長の言葉が僕の言葉だと思って受け取っていただければなと思います。


とくにあとがきとして書くことは無いので、この後書き欄で締めさせていただきます。


うろな町はまだまだ続いていきますが、本当に、ありがとうございます。

そしてうろな町をこれからもよろしくお願いします。ぺこ。



シュウでした。

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