女子力(ティッシュ)
榊くん視点です
「榊くん榊くん」
「なんですか?」
向かいのデスクに座る内村さんからの話題提供が始まった。
暇なときはこうして作業をしながら話しかけられることが多い。
作業と言っても、そこまで複雑で頭を使う作業ではないので、話していても支障はないので付き合っている。
「あれ? 坂本くんだっけ?」
「榊であってますよ。内村さんまでなんなんですか。しかも言い直すとか、完全に僕の名前読んでから思い出したでしょ」
「そんなことはどうでもいいのさ。昨日ネットで見たんだけどね、女子力って些細なところから見られてるらしいよ」
「女子力、ですか」
少し腰を浮かせて向かいの内村さんのデスクを見てみたが、この人と女子力は無縁だと思った。口が裂けても言えないけど。
僕には気づかずに、作業を続行している内村さんが続けた。
「でね、女子力といえば何を思い浮かべる?」
「女子力っていえば、みんなでお鍋とか食べてるときに、何も言わずに取り分けたりしてくれる女性ですよね」
「ほうほう。そーゆー子が好みかいね」
「そうですね。家庭的な人にはちょっと惹かれますね」
「でも最近の女子力っていうのは、いろいろあるんだわさ」
「さすがに僕だって知ってますよ」
「ホントにぃ?」
「テレビでいろいろ見ますもん」
女子力は現代女性のバロメーターみたいなもので、それが不足していると男性にモテないんだとまで言われている。でも男性としては、それを狙ってやらない子のほうが可愛く見えるわけで、意図的にやってる子なんかはちょっとダメ。僕個人の意見だけど。
例えばお鍋じゃなくても、サラダを取り分けるとか、料理の盛り付けが綺麗とか、部屋着が可愛いとかエトセトラ。いろいろあるけど、人が見ていないところでも何気ない女性らしさを見せていくのが女子力らしい。
「そういう内村さんは女子力高いんですか?」
「私? 私は超高いよ」
「嘘はいけませんって」
「嘘じゃないし。今日だってちゃんとお化粧してきたし、靴履いてて見えないのにも関わらず、足にマニキュア塗ってんだよ?」
「それ、普通じゃないですか」
「あとは、パジャマ着てるし、お昼ご飯はサラダスパスタだし、部屋だって掃除してるよ?」
「あんまり女子力関係なくないですか?」
「んーそうかな? 最近の女子たちが頑張りすぎなんだよ」
やっぱり女子力とは無縁だったみたいだ。聞いた項目全部が、普通すぎた。部屋なら僕だって掃除してるから、僕も女子力が高いことになってしまう。
「でも秋原さんとか女子力高そう」
「わかります。きっちりかっちりしてそうですもんね」
「家に戻ってまでトイレットペーパーを三角に折ったかどうか確認する的な?」
「いや、それはわからないですけど。良いお嫁さんになりそうですよね」
「秘書課にいるくらいだから、町長の良い女房になるんじゃない? 今だってちゃんと町長の女房役を……ハッ! もしかして町長の女房役を取られたから嫉妬して」
「ません。町長だって秋原さんとお付き合いしてるんですから、僕と町長でそーゆー妄想するのをいい加減にやめてくださいよ」
「大丈夫。BLはファンタジーだから」
「全然大丈夫じゃないです」
「ケチー。榊くんのケチー」
「ケチじゃないです」
まったく。油断も隙もあったもんじゃない。
ここで話題は終了らしく、会話は途切れた。
いつも内村さんとの会話は唐突に終わる。
作業をしていると、窓口のほうに誰か来たらしく、内村さんが対応をしていた。って言っても、いつもの世間話が長くなってるけど。
「でね……あれ? なんか眼鏡についてますよ」
「あらホント。よく気がつくわね」
「女子力高いですから。えへん」
そう言ってわざわざ振り返って僕を見てくる内村さん。
「ティッシュとかあったりしない? さっき使い切っちゃってポケットティッシュ無くなっちゃったのよ」
「あ、私のティッシュあるんで、ちょっと待っててくださいね」
そう言って自分のデスクの下にあるカバンをガサゴソとし、中からティッシュを取り出した。
「はいどーぞ」
「ありがとうねぇ。それにしても……」
窓口のおばあちゃんが渡されたティッシュをまじまじと見る。
僕もそれを呆れた目で見ていた。
「内村さん、BOXティッシュなんて持ち歩いてるの?」
「え? 大きいほうが便利じゃないですか」
僕は、内村さんに女子力を求めるほうが無理だということを、改めて思い知らされたのだった。
久しぶりのこの二人。




