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結婚(仮)

「なぁ。お前らは結婚しないわけ?」

「え?」


久しぶりに会った鹿島さんと呑んでいた時、急にそう言われた。

いや、鹿島さんはお酒に強い(俺基準)から酔って勢いで言ったとかそーゆーのではないと思うから、素で聞いてきたのか。


「な、なんでまた?」

「ほら、清水っているだろ? あいつは実際半年とかそのくらいで結婚したわけじゃん。だからお前んとこはどうなのかと思って」

「俺のとこは、まだそんなとこまで進んでないってば。まだ町長業務だって満足にできてないし、それにほら、心の準備だって」

「はぁ……」


鹿島さんは猪口に熱燗を注ぎながらため息をついた。

何もそこまで呆れなくたって……。


「まぁお前らがそれでいいならいいけどさ。まぁ酒の肴に困って聞いただけだから気にすんな」








そう言われたものの、気にはしなくても意識はしてしまう。

結婚かぁ。人生にいっぱいいっぱいであんまり考えてなかったかも。


「町長。手が止まってますよ」

「あ、ごめんなさい」


秋原さんにそう言われて止まっていた手を動かして『承認』のハンコをペタペタと押していく。


「……何か考え事ですか?」


手に持った書類を確認しながら秋原さんが訪ねてきた。

んー……


「秋原さんは結婚願望あるもんね?」

「ぶはっ!!」


盛大に噴き出された。

そして立ち上がる秋原さん。


「い、いきなり何言ってるんですか!」

「いやいや。聞いただけだから。大声出すとまた誰かに噂されるよ」

「今のは町長が悪いじゃないですか……で、いきなりどうしたんですか?」


落ち着いて座りなおしたのを見て続ける。


「昨日鹿島さんに言われて、秋原さんはどうなのかと思って」

「け、結婚ですか? んー……したくないと言えば嘘になりますけど、そんなに焦るようなことじゃないかと思ってる自分もいます。でも結婚は女の夢でもありますからね」

「……」


相手は俺ってことでいいんだよな?

これは相手を俺だと仮定して話を進めていっていいんだよな?


「でも町長のことだからそんなところまで……って、なんでそんなに嬉しそうな顔してるんですか」

「え? いや、俺じゃなかったらどうしようって思ってたから」

「町長以外に誰がいるんですか」


そう言って顔を赤くする秋原さん。表情はいつも通りだが、照れてるようだ。


「町長はどうなんですか?」

「俺? 俺は結婚してもいいかなって思ってるよ」

「……何でこの人はそういうことをサラッと」


顔を反らしてどこか悔しそうに言う秋原さん。


「な、なんか変なこと言った? ……あ」


これ、プロポーズじゃん!


「と、とにかく! 今は仕事中なので、仕事しましょう! 仕事仕事!」

「そ、そうですね……」


……変な空気になってしまった。

職務中の職務に関することなら気を付けているんだけど、こういうプライベートな場所だとどうしても自分の発言に責任を持てていないことが多くなってしまう。

俺と秋原さんは、少し複雑な空気になってしまったまま、仕事をつづけたのだった。

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