新年
年が明け、新年がスタートしてから二週間が経過しようとしていた。
各所に新年の挨拶に出向き、三が日に貯まっていた仕事を片付け、簡単な新年会も終え、いつも通りの日常へと戻りつつあった。
すっかり冷えてしまったうろな町も、山の方では白く雪の姿も見える。
そんな冬の商店街を、俺は秋原さんと見回りも兼ねてパトロールという名の散歩をしていた。
まぁ……デートっぽいけどね。
「寒くない?」
「はい。大丈夫です。こう見えて結構厚着してるので」
「さいですか」
白い息を吐き、コートに手を突っ込んで歩く。
俺の顔を知っている人は、声をかけたりペコリとお辞儀をしたりと、なんらかのリアクションをとってくれる。初売りを終えた商店街も静けさを取り戻していた。あ、こういうのは心の声で抑えとかないと、口に出していたら周りからどんな目で見られるかわかったもんじゃない。
とはいえ、今日は三連休の真ん中の休日である。
明日は成人式。町役場の近くにある公民館で行われる。
一応そこで挨拶みたいのをするのだが、その挨拶よりも、荒れたやんちゃな成人が出ないかどうかだけが心配だ。
去年見に行った時も少数の成人がなんやかんやとハメを外していたが、他は特にそういう様子は見えなかったから、今年も平和に終えてくれることを祈ることにする。
「明日の成人式では変なこと言わないでくださいね。しっかり原稿通りに読んでくれればいいですからね」
「なんで毎回それ言うんですか。そんなに信用無い?」
「前例がありますからね」
初演説の教育を考える会での発言をまだ引きずっているのか、毎回これを言われる。それ以降は『しっかり原稿通り』を心がけて、秋原さんが作ってくれた原稿通りに読んでいる。一字一句間違え……たりすることもあるけど、九割は間違えずに読んでいる。
「でも成人式か。懐かしいですねー。まさか自分があの壇上に立ってしゃべることになるなんて思いもしませんでしたよ」
「町長はこの町で成人式を?」
「そうですね。生まれも育ちもこの町なんで。秋原さんは違うんですか?」
「同じだったら面識あるじゃないですか。私は高校だけこっちでした。で、大学出てからこっちに戻って来たんです。って前も聞かれませんでしたっけ?」
「あ、あれ? そうだっけ?」
「まぁいいですけど。だから成人式は地元でしました」
「ふーん。荒れてました?」
「荒れてないですよ。荒れるのなんて一部の地域だけじゃないですか。少なくともこの町は大丈夫ですよ。平和の代名詞みたいな町ですし」
そう小さく笑って言う秋原さん。
「平和だからこそこの町に戻ってきたわけですしね」
「そんなに平和なんですか?」
自分で住んでるとよくわからないから、こういう他評は気になる。これも町長としての性なのだろうか。
「平和ですよ。時々大きな事件もありますけど、それ以上に町自体の雰囲気が平和そのものです。どこでも笑顔で満ちてますし、防犯意識も高い、そしてなにより町の統率が取れています。住むならこんな町がいいなと思わざるを得ません」
「はぁ。すごい町ですね」
「ふふふ。何言ってるんですか。その町の町長じゃないですか。もっと誇ってください」
「あー、そこまで言われると実感わかないかなー、なんて」
ここまで言われると、素直に喜んでいいものかわからなくなってくる。まるで全然違う町のような気もしてくるから不思議だ。
「まぁそんな町の町長の秘書をできて、私は幸せ者だと思います」
「そう言っていただけると光栄です」
目を合わせると、ほぼ同時に笑った。
「じゃあおだててもらったお礼にお蕎麦でもご馳走しましょうか」
「あ、私まだ年越しそば食べてなかったんです」
「ちょうど良かったです。じゃあ行きましょー」
「町長って、時々テンション高くなりますよね」
「……べ、別にいいじゃんっ」




