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町長、お散歩する。

昨日頑張ったからというわけではないが、今日の平日は時間に余裕ができた。

町長になってからというもの、全然街の様子を見ることができずに、学生さながら机にかじりついての座学ばかりだった。秋原さんは頑張って俺に町長のノウハウを叩き込んでくれてるんだけど、座りっぱなしも疲れる。

そこで気晴らしに散歩することにした。

いろいろな人とすれ違うのだが、まだ全然顔を知られていないせいもあって、全然声をかけられていない。今後は町民にも顔を知られて、小学生とかに『町長だー!』なんて言って囲まれる日とか来るのかなぁとか想像してしまう。頑張ろ。


「ん? こんなところに洋食屋なんてあったのか」


昼は食べ損ねたし、ちょっと遅い昼食でも食べるか。

そう思って、俺は洋食屋の扉を開いた。

中は結構洒落ていて、オシャレにジャズとか流れている。


「いらっしゃいませー」


厨房から青年が出てきた。

他に従業員も見えないところから、彼が店主のようだった。

若いのにえらいなぁ。


「大丈夫ですか?」

「あっ、どーぞどーぞ」


そう言われてテーブル席に座るのもなんだったので、とりあえずカウンター席に座った。

メニューを見て、全部美味しそうだったのでどれを食べようか迷ってしまった。

ここは店主のオススメでも食べてみよう。


「オススメってなんですか?」

「オススメですか? うーん…いつも食べにくる方なんかは、いつもこれとか食べてますよ」


『エビフライとハンバーグの欲張りディナー』と書かれた料理。

ディナーか…

そんな俺の表情を見て察したのか、店主は小さく笑って言った。


「でもオススメって言っても、まだ営業してから1年ちょっとなので、なんとも言えないんですよね」

「そうだったんですか。どうりで知らないわけだ」

「この町では長いんですか?」

「まぁ長いですね。小さい頃から住んでますから」

「故郷ってやつですね」

「そうですね。小さいけど好きな町です」

「俺もまだ住み始めてからあんまり経ってないですけど、結構好きですよ。あとはお客さんがもうちょっと入ってくれればもっといい町ですね」

「あはは。善処します」

「ありがとうございます」


きっとお客として『常連になってくれると嬉しい』ということを言ってるのであって、俺が町長だとは気づいてないのだろう。冗談には冗談で返した。


「話しててもアレなんで、何食べますか?」

「じゃあ…オムライスで」

「ありがとうございます。お客さん、いい人みたいなんでサービスしちゃいますよ。デミグラスソースとか付けちゃいましょうか?」

「あっ、じゃああの卵をナイフで割ったらトローっとするオムライスに出来ます?」

「あれでいいんですか? 任せてください。では少々お待ちくださいませ」


ペコリと頭を下げて厨房へと下がっていく店主。

とても面白い人だ。

それに俺の人生経験上、初対面で冗談が通じる人はいい人だ。

しばらくしてオムライスを持って戻ってきた。


「はい、お待たせしました。オムライスでございます」

「おぉー。じゃあいただきます」


ナイフとスプーンを手に取り、さっそく食べ始める。

バターライスの上に乗っかったオムレツ大の卵を縦にナイフを入れる。するとトローっとした半熟卵がバターライスに広がっていく。


「おぉ…」


半熟卵と一緒に思わず声が流れ出る。

それを見ていた店主が小さく笑ったのが聞こえた。


「あっすみません。これテレビとかでは見たことあったんですけど、実際に食べるの初めてで」

「いえいえ。お気になさらずに。作った料理で喜んでくれてるのを見るのはやっぱりいいものですね」

「じゃ、いただきます」

「どうぞ」


店主とこの町のことやらこの店のことやら店主がこの町にきた経緯なんかを聞きながら、楽しくオムライスを食べた。


「ありがとうございました」

「ごちそうさまでした。また来ます」

「はい。お待ちしてます」


満腹満足で店を出た。

それにしてもいい店見つけたもんだ。秋原さんには内緒で、時々食べに来よっと。

さーて。戻って仕事の続きでもするかな。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

『うろな町』計画は、まだまだ参加者を募集中です。

詳細はこちらをどうぞ。

http://kyodo765.jimdo.com/


今回は綺羅ケンイチさんの『うろな町、六等星のビストロ』のお店に行ってみました。

美味しかったですw


次回もお楽しみに!

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