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葬儀

10月20日。

鍋島サツキさんの葬儀です。


町長組への催眠効果は効き始めております。

催眠効果に関しましては、寺町さんの『人間どもに不幸を!』の10月12日のお話をご覧ください。

俺と秋原さんは、町役場の代表ということで、先日町内で亡くなった鍋島サツキさんの葬儀へとやってきた。

あれだけニュースにもなった事件だったにも関わらず、葬儀はひどく小さなもので、参列者もチラホラとしかやってきていないようだった。

喪主と思しきねずみのような雰囲気の男性にお辞儀をし、線香をあげた。

『不良少女』という肩書きからは想像できないような明るい笑顔の遺影に向かって手を合わせる。

素行は悪かったらしいが、こんな若く他界してしまうとは非常に残念だ。まだまだこれから更生の余地はあったろうに。

手を合わせながらそんなことを思った。


葬儀場を出ると、見知った顔の少年がこちらを向いてペコリとお辞儀をしてきた。隣にいた秋原さんが『あっ』と声を出した。

俺は一歩前に出て彼の前に出た。


「えっと、稲荷山くん、だっけ?」

「はい。今日はサツキの葬儀に来てもらって、ありがとうございます」

「稲荷山くんは鍋島さんとは仲良かったのかい?」

「…はい」

「そっか。寂しいかもしれないけど、頑張ってね」

「はい」


互いにお辞儀をして別れた。

何か言いたそうな感じはしたが、なにも言ってこなかったところを見ると、きっと鍋島さんが亡くなってしまって悲しかったのだろうと思う。

ぶつけようのない怒りを、あの歳で必死に抑えているのかと思うと、本当に残念な事件だったと思う。


町役場に戻り、町長室で明日のことを秋原さんと打ち合わせがてら話していると、突然秋原さんが言葉に詰まったかのように口を閉ざした。


「秋原さん?」


見ると、秋原さんは泣いていた。


「えっ、ちょっと、いきなりどうしたんですかっ?」


急に泣き出した秋原さんに慌てていると、秋原さんは泣きながら笑顔を作っていた。


「いや、なんか自分でもわかんないんですけど、なんか涙が出てきちゃいまして…すみません…」

「と、とりあえずこれで拭いてください」

「すみません。ありがとうございます」


ポケットからハンカチを取り出して秋原さんに渡した。

受け取った秋原さんは、流れてくる涙をハンカチで拭いていたが、なかなか収まらない謎の感情に困っているようでもあった。


「とりあえず座って落ち着きましょう」


秋原さんをソファに座らせて、自分もその隣に座った。そしてなだめるために背中をトントントンと叩いてあげた。


「すみません」

「いえいえ。葬儀でしたからね。いろいろとクルものがあったんですよ。気にしないでください」


そう言って秋原さんをなだめた。

秋原さんは、真面目でしっかりしていて仕事もできる。その反面、意外と情に厚く尊敬されたり信頼されたりしている。そんな彼女だからこそ、今回の葬儀では何かクルものがあったのだろう。アテられたというか感じ取ったというか。そんな感じの何かが。


「……なんか」


静かに泣いていた秋原さんが、急に話し始めた。俺はトントンするのを止めて話を聞いた。


「なんか鍋島さんの遺影を見たら、そんな不良行為に走るような子に思えなかったんですよ。私自身、鍋島さんと面識があったわけではないのでなんとも言えないんですけど、あの遺影を見る限りでは、明るくて可愛い感じの印象を受けたんです。だからこそ、その印象が残ってて、思い出し泣きというか、思い出したら可哀想だなって、思って悔しくて…」


その続きは言葉にならず、俺の腕の袖を強く掴んで俯いて泣いた。

言われてみるとそんなような気もしてきたが、今は秋原さんをなだめるのが先だと思った。

俺の右腕にしがみつくようにしている秋原さんの背中に左腕を回して、そっと抱き寄せた。

驚いたのか、一瞬だけ泣き止んだ秋原さんだったが、また思い出したかのように俺の腕の中でグスングスンと泣いていた。

俺は秋原さんが泣き止むまでの間、抱きしめたままジッとそばから離れることはなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は寺町さんのタカトくんをお借りしました。

…早く結婚しちゃえばいいのにコンビでした。


次回もお楽しみに!

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