お祭り前半
今日は夏祭りだ。
前からちょくちょくと準備はしてきたが、いざ当日になってみると少し緊張する。
朝早くから集まってくれた町役場の皆と一緒に設営に励む。今日は町役場の人間だけではなく、工務店のタカさんにも手伝いをお願いした。
さすがに本業(?)なだけあって、てきぱきと指示出しから設営までを動いてくれてとても助かった。
「やっと一息つけますね」
設営が一通り終わったところで、秋原さんがやってきた。
「ですね。でもこれからが本番なんですよね」
「町長としての、町に関わる初仕事ですよ。しっかりと頑張ってくださいね」
「任せてください。とは言っても、そこまで仕事はないんですけどね。最初と最後の挨拶ぐらいしか…」
「何言ってるんですか。マジックがあるじゃないですか」
「あっ。せっかく忘れてたんだから思い出させないでくださいよ」
「忘れてどうするんですか。あれだけ練習したんですから大丈夫ですよ」
その後いろいろとあったのだが、大きな問題になることもなかったので、結果オーライとなった。
本部にいたり、見回りとしてブラブラとしていたけど、やっぱりいい町だと思った。
平和でみんな表情が明るい。
こんな町を任されて最初はどうなるかと思っていたけど、秋原さんを始めとした町役場のみんな、商店街の人たち、地域の人たちなど、ここの町の人達はみんな『悪いことは悪い。良いことは良い』と言ってくれる大人が多いから、とても助かっている。
最初こそ『一生懸命頑張ろう』と思ってはいたけど、今ではいい意味で力を抜くことができている。
これも前町長のじいちゃんのおかげかもな。
そしてなんやかんやでマジックをする時間になり、俺は本部で待機していた。
手にはマジックで使うトランプを持っている。
「おー。今年も賑わってるな」
「…じいちゃん」
座っていると、ふいに後ろから声をかけられた。
もう前線を離れてほぼ隠居生活をしている前町長こと、うちのじいちゃんだった。
「やっぱりお前に任せて正解じゃったな」
「俺は何もしてないって」
「ホホホ。まぁ謙遜するな。町長となったんじゃから、それなりに自信を持っていいんじゃ。謙遜するばかりが礼儀じゃないぞ。時には思いきり自慢してやれ。そのほうが人気が出るわい」
俺がハハハと笑うと、じいちゃんもホホホと笑った。
「まだ見てくの?」
「んー? お前が何かするっていうからこの時間に来たんじゃ」
「それを誰から聞いたんだよ」
「ワシの元秘書じゃ」
「…秋原さん?」
「ホホホ」
余計なこと言わなくていいのに…
「そろそろ時間じゃろ? 行っておいで」
「はいよ。頑張ってくるわ」
「町長。そろそろお時間…あっ」
俺を呼びに来た秋原さんが、じいちゃんに気づいて、姿勢を正してペコリとおじぎをした。
じいちゃんは笑顔で手を前に出しての挨拶だった。
俺は立ち上がって秋原さんのもとに歩み寄った。
「町長…前町長来られてたんですね」
「さっき来たみたい。覗きに来ただけみたいだけど」
「やっぱり孫の晴れ舞台を見たかったんじゃないですか?」
「ばんなそかな」
「ははは。では頑張ってください」
「了解です」
そして緊張してステージに上がると、
『よっ! 待ってました!』
『町長さん、頑張ってー』
『町長がんばー』
などの声が聞こえる。
ステージに一人呼んではトランプのマジックをぺぺぺーとしていく。
自分的にはミスなしで完璧だったのだが、何故か失笑混じりの拍手が多かった気がした。
そして全部終わり、拍手とともに壇上から降りると、秋原さんが出迎えてくれた。
「どうだった?」
「なんか地味でした。やっぱり遠くからも見えるように派手なのにするべきでしたね」
そーゆーことか。
来年は大型モニターを準備して、手元がよく見えるようにしようと心に留めておいた。
マジックまでです。
じいちゃん初登場。
じいちゃんはもう何もしてません。
ただのじいちゃんです。




