37.ダンジョン攻略とライブラリーの発見
「いくよっ!」
「おう!」
「アラビアータ」
ボクたちはダンジョン【深林底海】に突っ込んでいく。
ここ【深林底海】は、浅い層は密林を、深い層は砂漠もしくは海の底を模したダンジョンだそうだ。上の方ではゴブリンやコボルトといった獣型のモンスターが、深い層ではオーガやトロール、おまけにドラゴンなどの幻獣モンスターが出現するらしい。
ダンジョンの成り立ちはよく分かっていないけど、一説によると超古代文明時代の武器庫の成れの果てだと言われている。出現するモンスターたちは、無尽蔵に生み出される人造兵士というわけだ。
「おらっ!」
ギフトの力で黒い魔力の甲冑を纏い【黒騎士】となったグラウは、有り余る魔力で剣を創り出して迫り来るゴブリンたちを切りつける。
グラウの刃を食らったゴブリンたちは一撃でまとめて真っ二つになった。
「すごいね……ひと振りでこれだけの威力なんて」
「オレ様もドン引きだぜ。もしかして最強?」
「カルボナーラ」
グラウによって斃されたモンスターたちは、光の粒子となって魔石に変わる。その魔石を残らずエスメエルデが拾うと口の中へ放り込んだ。
「あいつ、魔石喰ってんな……」
「魔石はエスメエルデが稼働するためのエネルギー源だからね。おかげでエスメエルデも本気を出せるよ。ドロップアイテムもどうせろくなのがないし、飛ばしていこう」
さらに深く潜ると、次の層ではガーゴイルが空から、オーガーたちが地上から襲いかかってくる。
「上から横からめんどくせぇな」
「エスメエルデ!」
「戦闘モード、モデル【ブラスト砲】起動します──」
「うぇっ!? あいつ喋った!? しかも腕が変形してる!?」
エスメエルデの両腕が砲台に変化する。
たくさん魔石を吸収してるんだ、今日は全力でいけるぞ!
「発動──【エナジーブラスト】」
バリバリバリ!
空気を切り裂くような音と共にエスメエルデが魔力の電撃を放つと、周りのモンスターたちが一撃で魔石と化していく。
「……すげぇな……なんだよ今の」
「これ、この前グラウがくれたメモリーカードで実装したモードだよ」
「は、マジか?」
ブラスト砲なんてものは普段使いするには魔石の無駄だし使い道もないけど、今回のようにダンジョン攻略では抜群の効果を発揮するよなぁ。
プレゼントとして貰ったときはどう使おうかと思ってたけど、こうなるとグラウには感謝かな。
「ホムンゴーレムってすげぇんだな……」
「エスメエルデは特別だよ」
「とても家庭用には見えないな、王城にいるホムンゴーレムより強いんじゃないか?」
「強いよ、でも誇る気はないけどね」
エスメエルデの真の機能はライブラリアンであるボクのサポート機能であって、戦闘機能なんて別にいらないんだけどね。
◆
ボクたちは順調にダンジョン【深林底海】を突き進んでいく。
魔石の効率化などを無視して戦闘モードを解禁したエスメエルデ。〝災厄級″ギフト《虚蝕餐鬼》の真の力を解放して大気中の魔力を無尽蔵に使っては暴れ回るグラウ。
二人とも動力源をその場で調達できるタイプだから相手が無限に湧くモンスターだろうがスタンピードだろうが無関係なんだよね。
おかげでボクは自分を温存したまま、最深部まで辿り着くことに成功していた。
【深林底海】の最下層──ディープオーシャンフォレスト。
まるで海の底にいるような不思議な雰囲気の場所だ。木々が海藻のように茂り、波に揺れるように怪しげに蠢いている。
「なんかここ変だな」
「たぶんライブラリーへの異空間の道が開いてるせいで、このダンジョンが暴走化してるんだよ」
ライブラリーへの道の開闢こそが、ダンジョンの異常の原因に違いない。ボクでも気づいたくらいだから、おそらくひと月前に調査に来たフロイド兄さんもすぐに気づいたことだろう。フロイド兄さんたちはダンジョン内に大量発生したモンスターたちを一通り掃討したあと、ライブラリーの入り口に突入したと騎士隊からも聞いている。
「スタンピードってことは、異様なモンスターが出るかもしれないってことか?」
「うん、ここのボスはドラゴンらしいよ。もっとも既にフロイド兄さんが討伐したとは聞いてるけど……」
ぐぉぉぉぉ──。
地の底から響くような唸り声。これは──たぶんドラゴンが再出現したに違いない。普通なら龍クラスのモンスターは簡単には復活しないはずなんだけど、これもスタンピードの悪影響かな。
「おい、向こうからなんか来るぞ!」
「マルガリータ」
「どうやらボスのお出ましみたいだね!」
出現したのは、鱗一枚が人間一人分ほどの大きさの巨大な龍──ドラゴン。
先に討伐した騎士団の情報によると、なんでもエルダーグリーンドラゴンというらしい。
「グラウ、エスメエルデ、いける!?」
「まかしとけ、これでオレ様も龍殺しだっ!」
「アーリオオーリオ」
掛け声とともにグラウの黒い剣と、エスメエルデの紫の電撃がドラゴンに襲いかかる。
目も眩むような、強烈な攻撃。
ぐぅぅがぁぁぉーーーっ!!
地を揺らすような、ドラゴンの絶叫。
巨大な緑色のドラゴンはその強烈な一撃を受けると、大した抵抗もなく──絶叫と大きな魔石だけを残して、綺麗に消滅していたんだ。
「えっ?! うそ……ドラゴンを一撃?」
「くくく、やはりオレ様は最強だな」
「フォカッチャ」
ちょっと二人とも、強すぎでしょ。
こりゃ下手するとフロイド兄さんと良い勝負かもしれないなぁ……。
◆
ドラゴンをわずか一撃で粉砕したボクたちは、さらに先に進む。
しばらく行くと、真の目的地である虹色に輝く裂け目を見つけた。ここがフロイド兄さんが見つけたライブラリーの入り口かな。試しに頭だけ突っ込んで中を覗き込むと──。
「あっ!」
虹色に輝く空間の中にふわふわと浮くように見える大きな建物。その入り口らしき門の横に超古代文明文字で書かれているのは──【病】の文字。
実物を初めて見た、これが本物のライブラリーか。
「なるほど、フロイド兄さんはこれを見て中に飛び込んで行ったんだね」
だけどここは異空間だ、不用意に飛び込むと酷い目に遭う。
ボクの薬物ライブラリアンとしての知識と知見によると、この異空間に漂ってるのはどうやら──睡眠系の霧のようだ。
とてもじゃないけど生物が長居できる場所じゃない。ここで平気なのはホムンゴーレムかグラウ、そして──このボクくらいだ。
なるほど、だからフロイド兄さんは帰ってこれなかったのかと納得する。
最強と言われるフロイド兄さんの《勇者》のギフトだけど、実は弱点がある。それは──状態異常に弱いこと。おそらくここ異空間の罠に嵌ってしまったのではないだろうか。
でも無駄に生命力の強いフロイド兄さんのことだ、きっとまだ生きているに違いない。
だからボクもここからは本気で救いに行く。迷うことなく、この異空間を制するための力を使う。
ボク専用特撰魔法薬──【天限突破】の出番だっ!
懐から小瓶を取り出すと、一気に喉の奥に流し込む。
【天限突破】は、《勇者》のギフトの効果を擬似的に再現するために、様々な希少薬剤を大量にぶち込んで作った特別な魔法薬だ。
その効果はまさに人としての限界を突破するためのもので、体力や筋力、魔力を3倍に、睡眠や毒などの状態異常への耐性を10倍以上に激増させることが出来る。
あまりにも強力な薬物を使い過ぎたせいで、ボク以外が使うと猛毒になっちゃうのが欠点なんだけど……ぶっちゃけフロイド兄さんの《勇者》のギフトよりも強力だったりする。みんなにはナイショだけどね。
これにグラウのギフトによる闇の衣を併せれば、状態異常なんてほぼ無効だ。
「いたっ! フロイド兄さんだっ!」
おかげでボクは、建物の中で漂うように眠るフロイド兄さんの姿をすぐに発見することができた。
ただ、その横には──未知のホムンゴーレムの姿があったんだ。




