表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/165

第百六十三話 「はじまりの町の町長さん」

「この町の、町長さん……?」


 思わぬ人物の名前が挙がって僕は驚愕する。

 他の町と同様に、ヒューマスの町にも当然“町長さん”がいる。

 名前はソラリス・セレーヌスさん。

 けどみんななぜか口を揃えて“ソラリスおじさん”と呼んでいる。

 実際に僕は顔を合わせたことはないけど、遠目にそれらしい人物を何回か見たことがある。


 年季の入った白髪と、白い口髭を蓄えた腰の曲がっているおじいさん。

 肉付きは普通くらいだけど、姿勢が悪くてダボッとしたローブのようなものをいつも着ていたから、最初は小太りのおじいさんだと勘違いしていた。

 一番最後に見たのは一ヶ月くらい前のことで、西区の工業区で枯れ木のような白い杖をついてのんびりと通りを歩いていた。

 もしかしたら小さい頃に会って話をしたことがあるような気もするけど、おぼろげな記憶すぎて鮮明には思い出せない。

 そんなソラリスおじさんが、僕に会いたがってる?


「なんで僕に会いたがっているんでしょうか? 僕、何か悪いことしましたっけ?」


「どうしてネガティブな理由に繋げたがるの。普通に会って話をしたがってる感じだったから、変に警戒しなくても大丈夫だよ」


 それならよかった。

 何かあずかり知らないところで迷惑をかけてしまって、お叱りの言葉でも送られるのかと思ってしまった。


「でもそれならギルドつてじゃなく、育て屋に直接会いに来てくれたらよかったんですけど」


「実はもう何回か行ったんだってさ。でも毎回タイミングが悪くていつも留守だったみたいで。今日の朝も尋ねたけど会えなかったから、朝方にギルドに来て伝言をお願いされたんだ」


 そうだったのか。

 最近は嬉しいことに依頼も増えてきて、毎日のように外出してるから無理もないことである。

 今朝もちょうどランさんと魔獣討伐をするために、早くに家を空けてしまったから。

 でもその時はポストに手紙を投函してくれたらいいんだけど、おそらくそこまでして早急に会わなければいけないわけではないから、ギルドに伝言を頼むくらいにしたのかな。

 あるいは手紙を出すのが億劫だったからとか。


「とりあえずはわかりました。お伝えしていただいてありがとうございます。さっそく今から行ってみようと思います」


「あっ、ソラリスおじさんの家わかる? 西区の工業区の奥にある、赤い屋根のお屋敷なんだけど」


 そこまで教えてもらえれば充分なので、僕はテラさんにお礼を言ってからギルドを後にした。

 そして完全に帰路をそれて、西区の工業区に続く通りを歩き始める。

 やがて工房が立ち並ぶ光景が目に飛び込んできて、職人たちの声や金槌の音などが忙しなく耳を打ってきた。

 自ずと、見習い鍛冶師のフランの手助けをした時のことが脳裏に蘇ってくる。


 普段はほとんど訪れない場所だけど、ローズとコスモスが武器を壊した時に特注品を作ろうと思って工業区へやってきた。

 その時に工房で怒声を浴びせられていた見習い鍛冶師のフランがいて、彼の光る才能を見い出した僕はフランに特注品製作を頼んだのだ。

 結果的にフランは隠されていた鍛冶師の才能を覚醒させ、天啓を宿した武器を製作できるようになり、競売会では異例の落札価格を叩き出す鍛冶師へと昇華した。

 今でも彼が手がけた武器はローズとコスモスの助けになっており、多くの駆け出し冒険者たちも彼の武器に背中を後押しされている。

 現在では『鍛冶師フランの神器』は高い希少性がつき、それを求めて遠方から冒険者が押し寄せてくるほど。

 そして一作を手がけるのに時間を要するため、彼の武器を熱望する冒険者たちは数多くいるそうだ。

 すっかり大きくなったなぁと親心に近いものを感じながら通りを歩いていると、不意に背中をちょんちょんと何かにつつかれた。


「んっ?」


「あっ、やっぱりロゼだった!」


 振り返るとそこには、亜麻色のミディアムヘアと淡褐色の丸い瞳が特徴的な、女の子に見紛うような小柄な男の子がいた。

 僕の顔を見るなり愛らしい笑みを浮かべて、前にかけたエプロンを指先で少し直している。

 今まさに僕が頭に思い浮かべていた人物……フラックス・ランことフランが目の前に現れて、思わず僕は頷いてしまった。


「そうだよな。普通後ろから声をかける時は、目を隠して『だ~れだ?』なんてやらないよな」


「えっ? う、うん。そもそもボクの身長だと難しいと思うけど」


 つい先日テラさんに仕掛けられたことを思い出してそうぼやいてしまう。

 まあそれは置いておいて、僕は改まってフランに挨拶を送った。


「久しぶりフラン。元気そうでよかったよ」


「ロゼの方もね。まあ、駆け出しの冒険者たちからロゼの活躍はそれなりに聞いてたから、元気にやってるのは知ってたけど」


 あっ、そうなんだ。

 フランの活躍を僕が耳にしていたのと同じように、フランも駆け出し冒険者たちから僕の育て屋の現状を聞いていたようだ。

 おそらくフランの方が圧倒的に忙しい身だろうけど。


「それより工業区に来るなんて珍しいね。ロゼっぽい背中を見かけた時びっくりしたよ。また看板の製作とか依頼しに来たの? それならボクが引き受けるよ」


「今の多忙な名匠フランに看板なんて手作りさせたら、とんでもない罰が当たりそうだからやめておくよ」


「め、名匠って、そんなに大した鍛冶師じゃないよボク……」


 フランは片手で亜麻色の髪を撫でながら、恥ずかしそうに謙遜した。

 有名になろうと忙しくなろうと、フランはどこまでも変わらず穏やかで誠実な人物のままのようだ。


「今日は工業区じゃなくて、こっちの方に住んでる人に用事があって来たんだ。町長のソラリスおじさんなんだけど、さすがにフランも知ってるか」


「もちろんだよ。この辺りで結構見かけることが多いし、重そうな荷物を持ってる時はお屋敷までよく荷物を運んでるよ。いつもその時、お茶を一杯淹れてくれるんだけど、それがすごく美味しくてさ……!」


 実にフランらしいエピソードだと思って心が安らぐ。

 と同時に、その話から大事なことを思い出して、ついでにフランに尋ねることにした。


「そうだ、ソラリスおじさんの好きなものとか知ってる?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ