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第百六十二話 「会いたい人」

 その後、昼下がりまで時間をかけて魔獣討伐を行った結果……

 小さな魔獣も合わせて、討伐総数はなんとか五十にまで到達させることができた。

 朝方と比べて昼前後の魔獣討伐は、色々と試したりしていたので効率がかなり落ちてしまった。

 おかげで試したいことのほとんどは完遂できたけど、そこまでしてもなおランさんの天職にはなんの変化もあらわれることはなかった。


 僕側に戦果が傾かないように、ランさんの活躍の場面を増やしたり。

 戦っている最中に僕が怪我を負って、ランさんに治療をしてもらったり。

 少し危険ではあったが、ネモフィラさんの事例を参考に、ランさんに魔獣の攻撃を受けてもらったり。

 可能性のひとつひとつを細かく探ってみたけれど、結局『大聖女』の天職のレベルは“1”のまま。

 そして帰るのが遅くなるのもあれなので、僕たちはやむなく森を後にして町に戻ることにした。


 帰り道、ランさんは申し訳なさそうに俯き加減で、僕はそんな顔をさせてしまったことに心苦しさを感じていた。

 やがてヒューマスの町の入り口に到着し、人が行き交う広場の端にふたりで寄る。


「改めて、今回は本当に申し訳ございませんでした。まるで力になれずに」


「ロゼ様が気を落とすことは何もありませんわ。すべてはわたくしの天職がいけないことなのですから」


 とはいえ、僕は育て屋として成長の手助けを頼まれた身だ。

 その期待にこたえられなかったのは事実。

 だから僕は今回のことを深く反省して、次に生かせるように考え続けることにした。

 ランさんが試せることはまだまだあるはず。

 彼女自身もまだ諦めている様子はないので、次で必ず成果を出せるように思考を止めないようにしておこう。


「では、申し訳ないんですが、明日は別の用事があるので次は明後日ということで。それで大丈夫そうですか?」


「はい。一ヶ月はこの町に滞在することを見越して来ていますので、しばらくはいつでも問題ありません。引き続きよろしくお願いいたします」


 そうして次に会う約束をして、僕たちはそこで別れることにする。

 ……と、その時。


「んっ?」


 手を振りながら背中を向けようとしたランさんを見て、僕は不意に眉を寄せた。

 その視線が気になったのか、ランさんもピタッと止まって首を傾げる。


「どうかしましたかロゼ様?」


「あっ、いえ、なんでもありません」


 慌ててかぶりを振ると、ランさんは少し不思議そうにしながらも今度こそ後ろを向いて去っていった。

 残された僕はその場で佇んで顔をしかめる。

 なんだろう? 立ち去りかけたランさんからどことなく“違和感”を覚えたんだけど。

 でもどこが変なのかはよくわからない。

 もしかしたら彼女の天職のことを考えすぎていて、僕も頭が疲れているのかもしれないな。

 そう思うことにして、大人しく自宅に帰ることにした。

 今日はもう休んで明日の依頼に注力できるようにしよう。


「はぁ、疲れた……」


 ランさんの天職を成長させてあげられなかった後悔をいったんは飲み込みつつ、僕は帰路を歩き始める。

 もう少しで夕暮れになるだろうという時間帯。

 通りは駆け出し冒険者や商人、町の住人たちが行き交って賑やかな喧騒に包まれている。

 民家の方からは晩ご飯のものと思しき香りが立ち込めて、自然と空腹を自覚させられてしまった。

 平和な街並みを見て、改めてのどかな場所だと感じていると……


「おーい、ロゼー」


 不意に前の方から誰かに呼びかけられた。

 声のした方に視線を移して目を凝らすと、人ごみの隙間からこちらに向かって手を振る青年の姿が見えてくる。

 金髪碧眼で上背がかなりある、スタイルのいい青年。


「あっ、スイセンじゃん」


 つい先日も顔を合わせたスイセン・プライド。

 最近は町の外に出て依頼を受けることも多くなっているようで、ヒューマスにはあまりいないと言っていたが……

 奇しくも二日続けて出会うことができた。

 彼は軽く手を振りながらこちらに寄ってきて、僕は思わず目を細くして問いかける。


「二日続けて会うなんて奇遇だな。もしかして最近依頼をサボってるわけじゃないよな」


「まさか! 今現在この町で最も伸び盛りの期待の星であるスイセン・プライドが、困っている人々を放って呑気にふらついているはずがないだろう」


 ハハハッと盛大な笑い声を上げて周囲の視線をかっさらっている。

 いつも通り元気そうでよかったと呆れていると、こうして出会ったのが奇遇ではないことをスイセンは教えてくれた。


「実は君のことを探していたんだよ、ロゼ」


「えっ、僕のことを? なんで?」


「俺はついさっきギルドに依頼を受けに行ってね、その時にテラ氏から『ロゼを見かけたらギルドに顔を見せるように伝えてほしい』と頼まれたんだ」


 へぇ、テラさんが……

 僕になんの用事だろう?

 特に会う約束とかはしてなかったと思うけど。


「ていうか、『僕を見かけたらギルドに顔を見せるように伝えてほしい』って言われたんだろ? ニュアンス的に“たまたま会った時でいいから”って感じなのに、なんでそれでスイセンは“積極的”に僕のことを探してたんだ?」


「何を言っているんだい! 愛しのアリウム氏の友人であるテラ氏の要望なのだから、積極的に叶えようとするのは当然のことじゃないか!」


「……そ、そうすか」


 どこまでもアリウムさん優先で生きてる奴だな。

 おかげでテラさんが僕に用事があることがわかってよかったけど。


「まあ、俺が受けた依頼もそこまで急ぎのものでもなかったからね。少しロゼを探すくらいの時間は充分にあったんだよ」


「それでテラさんからの伝言を伝えるために、僕のことを探してくれてたってわけか。助かるよスイセン」


 ちょうどランさんの手助けも終わったばかりで、家に帰る途中だったし。

 帰りがけにギルドに顔を見せてみようかな。


「でもなんの用事だろう? こんな風にテラさんに呼ばれることなんてなかったんだけどなぁ」


「さあ? デートのお誘いじゃないかい?」


「んなわけないだろ」


 なんでもかんでも色恋に結びつけるなよ。

 ともあれスイセンに改めてお礼を告げて別れた後、僕は家に向けていた足をギルドの方角に修正した。

 程なくしてギルドに辿り着くと、昼間の依頼から帰ってきた冒険者と、夜の狩りに向かう冒険者でごった返している景色が映る。

 こんな時に来てしまったことを申し訳なく思って、一度出直して空いてくる時間帯にまた来ようかと考えていると……


「あっ、ロゼくーん!」


 先にテラさんに見つかってしまった。

 テラさんは受付の方から駆け寄って来て、あまり疲れた様子ではなかったので少し安心する。

 ただタイミングが悪いのは事実なので、開口一番に謝罪を送っておいた。


「ごめんなさい、こんな忙しい時に来てしまって」


「ううん、別に大丈夫だよ。こんなの慣れっこだし。それよりスイセンくんに話を聞いてギルドに来てくれたんだよね?」


「はい、テラさんが僕のことを呼んでると聞いて……。それでなんの用事ですか?」


 もしかして先日のランさんの治癒活動について、ギルドの上の方から注意でもあったとか?

 そうだとしたら嫌だなぁと思っていると、それはただの杞憂に過ぎなかった。


「君に会いたいって言ってる人がいるの。だからギルドつてでその旨を伝えてほしいってお願いされてさ」


「えっ、僕に? ど、どんな方ですか?」


「この町の町長の……ソラリスおじさん」

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