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第百五十九話 「大きな壁」


 火鹿(フレアバンビ)

 この森でよく出くわす、すっかり見慣れたおなじみの魔獣である。

 気性が荒くて人を見掛けるとすぐに襲いかかってくるし、森で採れる貴重な薬草を食い荒らしたりもする。

 当然討伐依頼も頻繁に出されている討伐推奨魔獣なので、今回の標的にさせてもらうことにした。

 対処方法を知っていればまるで怖くない魔獣だし、ランさんの初戦闘には適任だろう。

 向こうもこちらに気が付いたようで、鋭い目を僕たちに向けてくる。


「では、先ほどお伝えした通りの流れで」


「わかりました……!」


 後ろに立つランさんにそう声をかけると、僕は一歩前に出て、手ぶらで火鹿(フレアバンビ)と対峙した。

 そして鹿が頭をブルブルと揺らして、火炎息吹の“事前動作”を見せたので、すかさず地面を蹴って肉薄する。

 火を吹かれる前に素早く後ろへ回り込み、右手を手刀の形にして鹿の首に叩き込んだ。


「よっ」


 ズドッ! と火鹿(フレアバンビ)の首筋に手刀が入る。

 それによって意識を奪えはしなかったものの、火鹿(フレアバンビ)は口の端から火の粉を撒き散らしながらよろめいた。

 なんとか両脚で踏ん張って体勢を整えようとしたので、再び僕は疾走して火鹿(フレアバンビ)の目前に迫る。

 流れるように右脚を振り上げ、横に薙ぐように蹴りを繰り出し、顔面に強烈な追撃を加えた。

 鹿の頭がぐわんぐわんと揺れ、先ほどよりも大きくよろめき、これを確かな隙と捉えた僕はメイスを持って待つランさんに告げる。


「今です!」


「――っ!」


 合図を送ると、ランさんは両手でメイスを振り上げながら駆け寄ってきて、力いっぱいにそれを振り下ろした。

 瞬間、金属のヘッドの部分が、火鹿(フレアバンビ)の脳天に直撃する。

 鈍くて重い音が響くと、火鹿(フレアバンビ)は体ごと地面に叩きつけられ、そのあまりの威力に僅かに地面もえぐれて土が舞った。

 鹿の体は地面に横たわり、背中から尻尾にかけて迸っていた炎も消えて、絶命したことを知らせてくる。

 まさか一撃で倒せるとは思っていなかったのか、ランさんはしばしポカンとした様子で振り下ろしたメイスと鹿を交互に見ていた。


 やがて討伐に成功したことを自覚して、パッと嬉しそうな笑みを浮かべてこちらを見てくる。

 僕も僕で事前に話し合っていた通りの動きができて人知れず安堵した。

 僕が先陣を切って隙を作る。

 そこにランさんが入ってきて攻撃を加える。

 捻りのないシンプルな作戦だったけど、上手くいってよかった。

 にしても、意外とランさんに躊躇いみたいなものがなくて驚いたな。

 魔獣相手とか関係なく、ここまで大きい生き物を初めて殺生するってなると、躊躇する人は結構多い気がするんだけど。

 ともあれ無事に魔獣討伐が成功したので、さっそくランさんに尋ねる。


「上手くいってよかったです。それで天職に何か変化は起きましたか?」


 見ようと思えば、僕の『神眼』のスキルで天啓を確認することはできるけど、やはり覗き見になってしまうので直接問いかける。

 するとランさんはすかさず手をかざし、「天啓を示せ」と口早に唱えた。

 羊皮紙のような紙が手元にあらわれて、彼女と一緒に紙面を確認してみる。


【天職】大聖女

【レベル】1

【スキル】

【魔法】神聖魔法

【恩恵】筋力:F100 敏捷:F100 頑強:F100 魔力:E150 聖力:E150


「……変わってない、か」


「……ですね」


 レベル“1”。

 火鹿(フレアバンビ)を討伐する前とまったく変わっていない。

 その結果にランさんは残念そうに眉を下げる。


「“魔獣討伐に成功した”と、神様に認めてもらえなかったということでしょうか? それともわたくしの天職は、やはり何をやっても成長しないとか……」


「いえ、諦めるのはまだ早いですよ」


 やはりこのやり方だと、僕の手柄の方が大きいように見えるから、神素の分配量は僕の方に偏っているんだと思う。

 たとえ『応援』スキルの効果があっても、ランさんに分け与えられた神素は微量のはずだ。

 だから……


「一匹だけだとまだわからない、というのが正直なところです。なのでこれからどんどん魔獣を討伐していきましょう。それにランさんの一撃には迷いがなかったので、この魔獣よりも強い魔獣に挑んでみてもいいかもしれませんし」


「そ、そんなにわたくし、乱暴に見えましたか……」


 ランさんは恥じらうようにメイスを後ろに隠しながら、片手で白い髪を撫でる。

 火鹿(フレアバンビ)を倒して殺生を行ったということにも後悔をしている様子などはなく、精神的にも安定しているように見えた。

 このままどんどん討伐を続けていっても問題はなさそうだ。

 というわけで僕たちはさらに森の奥へと進んでいき、しばらく魔獣討伐を続けたのだった。


 火鹿(フレアバンビ)だけではなく、蟻型の魔獣、鳥型の魔獣、猪型の魔獣などなど……

 手順も変わらず、僕が先陣を切って隙を作り、そこにランさんがトドメの一撃を入れていく。

 特に手間取ることもなく、ふたりとも無傷で魔獣討伐を成し遂げていき、ランさんは次々と討伐数を積み重ねていった。

 それからおよそ一時間が経ち、魔獣の討伐総数も十五にまで到達したが……


 ランさんのレベルは変わらず、なぜかずっと“1”のままだった。


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