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79話 仮婚約

 伊集院秀樹、光輝、ひまりの3人は田舎の祖父母の家へとリムジンで向かった。

祖父母と伊集院秀樹は初対面ということだ。

事前に祖父母には伊集院秀樹が祖父母の家に来ることは伝えてある。


 3人でリムジンを降りて、光輝は祖父母の家の玄関を開ける。



「ただいまー……爺ちゃん、婆ちゃん、伊集院秀樹さんとひまりを連れてきたよ」


「おお……そうか。中に入ってもらっておくれ」



 爺ちゃんの声が居間から聞こえてくる。

光輝の後に続いて居間へと入ると、爺ちゃんと婆ちゃんが座卓に座っていた。

伊集院秀樹はスーツ姿で玄関へ入ると深々と一礼する。



「伊集院秀樹と申します。以前に息子さん夫妻……充さんと真由美さんには、娘のひまりを助けていただき、感謝しています。その節は大変、お世話になり、ありがとうございました」


「かたぐるしい挨拶はいらんわい。息子夫婦は警察官としての職務を全うして殉職した。それで良いのじゃ。ひまりちゃんが助かったこと、息子夫婦も喜んでおるじゃろう。もう謝罪しなくてもよい。早く座りなさい」



「それでは失礼いたします」



 伊集院秀樹は礼儀正しく正座の姿勢で座る。

爺ちゃんと婆ちゃんも対面に正座で座る。



「今回は孫の光輝が無茶を言ってすまなかったのう。あれはわしの入れ知恵じゃ。ひまりちゃんをマスコミから守るために、嫁にもらえと言ったのはわしですじゃ。本当に遠路まで申し訳ない」


「確かに光輝くんと婚約すれば、一般人扱いとなり、ひまりを追いかけまわすマスコミもいなくなるでしょう。ただ2人はまだ17歳です。光輝くんは結婚できる年齢でもない。そこで仮婚約という形では話を進めさせていただくのはどうでしょうか?」


「それで良いと思う。これはひまりちゃんを助けるための措置じゃ。年を経て、2人の心が変わることもある。仮婚約という形で良いじゃろう。もし2人が大学を合格して、社会人になっても、付き合っているようなら正式な婚約とすれば良い」



 するとひまりが頬を膨らませて怒った顔をする。



「私がお嫁にいくのは光輝だけ。光輝以外に考えられないし」


「ひまりちゃんも光輝もまだ若い。これから色々と人生経験をすることになる。その間に心変わりすることもあるかもしれん。だから仮婚約にしておいたほうが良いのじゃ。わかってくれ……ひまりちゃん」


「そんなの私……わかんないし。わかりたくないし」


「ひまり……お爺様のお言葉を聞きなさい。仮でも婚約できるんだ。これ以上のワガママを言ってはいけない」



 ひまりはプイっと顔を背ける。

伊集院秀樹もひまりの態度に困っている。

ここは光輝が説得するしかない。



「ひまり……俺達はまだ17歳なんだ。子供なんだよ。今回のことはマスコミ対策でするんだ。でも、このまま、大学へ進学して、大学を卒業して、社会人になっても、ひまりと俺がきちんと付き合っていれば、爺ちゃん達も正式に婚約を認めてくれると言ってるだから、後は俺達次第だよ。俺達が頑張ればいいだけさ」


「お父様……私、光輝のお嫁さんになるために頑張る」



 ひまりは機嫌を直して、伊集院秀樹に笑顔を向ける。

伊集院秀樹はとてもやさしい目でひまりを見て、頭をなでる。

伊集院秀樹がひまりのことを、すごく愛していることが伝わってくる。



「それでは今回は仮婚約ということでお願いいたします」


「うちの光輝に勿体ない娘さんじゃ。こちらこそ光輝をお願いいたします」



 爺ちゃんと婆ちゃんは伊集院秀樹に深々と頭を下げる。

光輝も一緒に頭を下げる。

伊集院秀樹とひまりも深々と頭を下げる。


 これで一応、仮婚約の話は両家の賛同を得たことになった。


 伊集院秀樹が、頭を上げて、真剣な眼差しで光輝を見る。



「光輝くん、ご両親の墓へ連れていってもらえないか。今回のことをご報告しておきたい。そして過去の事件のことでの感謝を述べたい」


「ここから歩いて30分ほどかかります。細い道なのでリムジンは無理ですよ」


「歩いていきたい。是非、案内してほしい」



 光輝、ひまり、伊集院秀樹の3人は祖父母の家を出て、墓所への道を歩く。

冬が近いとはいえ、炎天下の中を歩くのは暑い。しかし、伊集院秀樹はスーツをビシッと着こなして、暑い顔ひとつせずに静かに歩いている。


 墓所について、光輝は自分の両親が眠る墓へと伊集院秀樹を案内する。



「以前の事件ではひまりを助けていただきありがとうございます。ひまりは元気です。あなた方のおかげです。感謝します。この度は、息子さんの光輝くんと娘のひまりが仮婚約となりました。どうか天国から見守ってあげてください」



 伊集院秀樹は墓の前でしゃがみ込み、いつまでも目をつむって拝み続けていた。

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