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78話 伊集院秀樹の決断

《伊集院さん、ひまりを俺の嫁にください》



 光輝は意を決して伊集院秀樹に伝える。

スマホの向こう側で息を呑む音が聞こえる。



《少し待ってほしい。どうして君はそんなことを言い始めたんだ? ひまりとの交際は認めたが、さすがに結婚は早すぎるだろう……》



 光輝は先ほど実爺ちゃんと話したことの全てを説明する。

伊集院秀樹はそれを黙って、じっと聞いている。



《確かに一般人の光輝くんの嫁になるとすれば、ひまりも一般人の扱いになるから、マスコミに追いかけられることはないだろう。しかし、君達は17歳だ……君は18歳にもなっていない。結婚もできない年齢だ》


《ですから、ひまりと婚約をしたいんです。婚約者としてなら、俺もひまりを守ることができます》


《光輝くんのことは私も気に入っている……将来は婚約も良いと思っている。しかし、事が急すぎる。少し考える時間をもらいたい。これは君にとってもひまりにとっても大変重要な未来がかかっている問題だからね》



 確かに伊集院秀樹の言う通りだ。

これは光輝とひまりの未来がかかっている。

早計に判断してよいものではない。

光輝は自分が焦りすぎて、とんでもないことを提案してしまったことに気づく。



《すみません……ひまりを助けたくて、早計な考えを口にしてしまいました。これは爺ちゃんからの一つの提案です。他にひまりを助ける方法があるなら、その方法をしたほうが良いと思います。失礼します》



 伊集院秀樹との連絡を終えた後、スマホをベッドの枕元に放り投げて、光輝はベッドに倒れ込む。

父親の伊集院秀樹からすると、「そうですか」とひまりを婚約させるわけがない。

あれだけ可愛がっているのだから、手元に置いておきたいに決まっている。

なんて恥ずかしいことを言ってしまったんだと、光輝はベッドで悶えた。







 しばらく時間が経った後にひまりから光輝のスマホに連絡がくる。



《光輝……お父様から聞いたんだけど……私と結婚したいって言ってくれたって本当?》


《ああ……本当だ……ひまりを嫁にくださいって言った》


《嬉しい……》



 ひまりはスマホの向こう側で嬉し泣きをしているのが伝わってくる。

ひまりが泣き止むまで、光輝は黙って待つことにした。



《私からも光輝のお嫁さんになりたいって、お父様に伝える。きちんとお父様と話をするね》


《いや……ひまりのお父様に任せておくのが1番だと思う。これは俺だけが考えたことじゃないんだ。俺の爺ちゃんの意見も入っている。そのことも、ひまりのお父様に伝えてある。一番悩まれているのは、ひまりのお父様だと思う》



 光輝は、これまで爺ちゃんと話した内容をひまりに伝え、爺ちゃんに後押しされて、結婚を決意したことをひまりに伝える。

そして、伊集院秀樹にその件については断られたことを伝える。



《うん……色々と私のことで考えてくれたことはわかったし……でも、私も自分の意志をお父様に伝えたい。それでお父様に考えてもらいたいと思う。だから今からお父様と話をしてくるね》



 そう言ってひまりはスマホを切ってしまった。

こればかりは、ひまりの願いであったとしても、伊集院秀樹は良い返事を出さないだろう。

一人娘のひまりを簡単に、光輝の嫁にするはずがない。

それに光輝はまだ結婚できる年齢に達していない。


 マスコミ対策とはいえ、大胆な提案をしてしまった。

伊集院秀樹に、違う意味で迷惑をかけたと後悔する。

ひまりが、伊集院秀樹に訴えれば、また悩み事が1つ増えることになるだろう。

そのことが気がかりで仕方ないが、ひまりの近くにいないので、ひまりを説得することもできない。

自分の軽率な行動について反省するばかりだ。


 光輝は何も食べずに、ベッドに横たわって、そのまま眠ってしまった。







 スマホのバイブの振動で目を覚ます。

連絡してきたのは伊集院秀樹だ。

すぐにスマホを取る。



《光輝くん……ひまりが泣いて、泣いて……私に迫ってくるんだ。助けてくれ》


《やっぱりそうなりましたか……俺が余計なことを申し出た事で迷惑をおかけして、申し訳ありません》


《私は光輝くんのことを気に入っている。光輝くんのご両親に恩もある。だからと言って簡単にひまりを光輝くんの元へはやれないことは理解してくれていると思う》


《はい……そのことは理解しています。ですから俺が迷惑をかけたと思っています》


《君は理解が早くて助かる》



 伊集院秀樹は悩みこんだ声で光輝と話をする。

ひまりの追及に、苦しめられたのだろう。

伊集院秀樹の声には元気がない。



《君は結婚の年齢に達していない……それに大学も卒業していない。まだ高校生だ。だから仮の婚約ということでいいだろうか? あくまで仮の約束だ。君がきちんとした社会人になれば、ひまりと正式に婚約するというのはどうだろうか?》


《はい大丈夫です。それでお願いします》


《それでは光輝くんの祖父母殿にもご挨拶に行かねばならん。私の休日にご挨拶に行くこととしよう。これはあくまで仮の婚約であるということを忘れないでくれ》


《はい……ありがとうございます》



 スマホの向こう側で、ひまりが喜びの声をあげているのが聞こえる。

これで伊集院秀樹の休日に、光輝の祖父母に伊集院秀樹が会いに行くこと決定した。

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