77話 爺ちゃんからのアドバイス
《毎日、家に帰ってくると、ひまりが部屋で泣いているんだ。光輝くんとスマホで連絡した後も泣いているんだよ》
伊集院秀樹がスマホに連絡してきて、ひまりの状態を伝えてくる。
ひまりの状況はとても酷いようで、伊集院秀樹も困り果てているようだ。
《しかし、マスコミがいる以上、俺の部屋へひまりを戻すことはできません。ひまりに被害が及びます》
《今、マスコミ各社へ連絡をして、ひまりは一般人なので、追いかけないように呼びかけている所だ。芸能プロダクションなどからの、ひまりへの誘いは全て断っている。ひまりを芸能人にするつもりはない》
伊集院秀樹からその言葉を聞いて、光輝は内心で安堵する。
ひまりが芸能人になれば、光輝はひまりと一生会えない可能性もある。
《それでもマスコミというのは執拗だからな。ひまりが芸能人になるまで追いかけようとするかもしれん》
《それは困りものですね。芸能人になったことがないので、マスコミの執拗さは知りませんでした》
《何か妙案があれば良いのだが……このままではひまりが可哀そうだ》
《俺のほうでも考えてみます。また、こちらからも連絡します》
そう言って光輝はスマホを切る。
スマホをベッドの頭元へ放り投げて、ベッドに座り込む。
部屋の電気は点けていない。
立ち上がってダイニングへ行く。
ダイニングも広く、静かだ。
ひまりのエプロン姿を思い出す。
ひまりが、キッチンに立って、包丁で料理を作っている姿を思い出す。
そこには元気があった。
そこには明るさがあった。
そこには可愛さがあった。
しかし、今は何もないダイニングの空間だけがある。
隣の部屋へ行く。
そこにはひまりの荷物が沢山置いてあり、鏡台も置いてある。
部屋の中にはひまりの香りが漂っている。
優しくて甘い香り。
つかの間、ひまりがいなくなっただけなのに、なぜか切ない。
胸が苦しく、張り裂けそうなほど、辛い。
ひまりに会いたい。
ひまりを抱きしめたい。
今、この家にはひまりはいない。
マスコミが張り付いている以上、ひまりをこの家に戻すことはできない。
どうすればいいだろう。
どうすれば、ひまりと一緒に暮らすことができるのだろう。
光輝は必死で考える。
しかし、答えは出て来ない。
自分の部屋へ行き、スマホで爺ちゃんへ連絡する。
《どうした? 光輝? 元気がないのう》
《爺ちゃん、知恵を貸してほしい。俺とひまりを助けてほしい》
《何があったんじゃ? 詳しく話してみよ》
光輝はマスコミのことを爺ちゃんに相談する。
爺ちゃんは黙って光輝の説明を聞いて、そのまま黙っている。
そして一言、光輝に告げる。
《嫁にもらえ!》
《は? 俺はまだ17歳だぞ。結婚できる年齢じゃない。爺ちゃん、年で頭おかしくなったのか?》
《バカはお前じゃ。嫁にもらえと言ったのは、婚約しろという意味じゃ。一般人と婚約すればマスコミも追いかけてこんじゃろう。それに芸能プロダクションからもオファーはなかろう》
《それでいいのか? 爺ちゃんと婆ちゃんは俺がひまりと婚約することに賛成なのか?》
《充と真由美さんが守った命じゃ。次に光輝がその命を守ることに、反対なんかするものか。大賛成じゃ》
しかし、結婚や婚約をこんなに簡単に決めていいのだろうか。
もっと真剣に何年も付き合ってからの話だと思うけど……
《結婚というのは、勢いじゃ。考えてするもんじゃない。勢いでするもんじゃ。わしと婆さんも勢いじゃったな。充と真由美さんも勢いで結婚したようなもんじゃ。職場結婚じゃからな》
勢いで結婚なんて決めるものではないと思うけど……
大人の知り合いが1人もいない。
誰にも相談できない。
《わしと婆さんは大賛成じゃ。後はひまりちゃんのご両親が決めることじゃ。よろしく伝えておいてくれ。男だったら腹を決めろ》
そう言って爺ちゃんは連絡を切った。
光輝の頭の中は混乱する。
このことを、そのまま伊集院秀樹に話していいものなのだろうか。
何て言えばいいんだろう。
いきなり、ひまりをくださいなんて、とても言えない。
光輝はベッドに横たわり、ゴロゴロと体を動かして悶える。
やはり、爺ちゃんからの提案ということで、伊集院秀樹に相談するしかないだろう。
そして、自分がひまりを嫁にもらいたいことを伝えるしかない。
それしか、ひまりを取り戻す方法がないなら、やるしかない。
しかし、世間一般での結婚は18歳以上からだ。
17歳の光輝が結婚を考えていいのだろうか。
まだ早すぎないだろうか。
世間では、まだ少年の部類に入る年齢だ。
スマホを持った手をクルクルと回して、伊集院秀樹に連絡しようとしては何回もやめる。
考えるだけで動悸が激しい。
本当に他の手立てはないのか。
結婚なんて、婚約なんて早すぎる。
しかし、光輝には何も思いつかない。
ひまりを取り戻したい。
爺ちゃんの言うように、男だったら腹を決めないといけない。
光輝は意を決して、伊集院秀樹に連絡をした。
《どうしたんだい光輝くん。妙案でも浮かんだのかな?》
《伊集院さん、ひまりを俺の嫁にください》




