74話 文化祭
文化祭が始まった。
学校が始まると同時に、校門が一般客に開放される。
近隣の住民の方々が、少しずつ三雲高校へと集まってくる。
校門に近いグラウンドでは焼きそばやソーセージなどが焼かれて、屋台が売られている。
2年A組の教室では、女子が制服に猫耳、兎耳、犬耳などのカチューシャをつけて、接客にあたっている。
男子の大半はタレントの被り物や、馬や犬などの動物の被り物を被って、廊下に出て宣伝したりしている。
雄太と武彦は被り物を被って、外に出たいと言っていたのだが、ラテアートを書ける生徒が少ない。
光輝だけでは手が回らない。
そこで雄太と武彦も裏方に回ることになった。
そして、渚も時々、裏方を手伝ってくれている。
家庭用のエスプレッソの機械を、伊集院秀樹が買って、クラスに贈呈してくれたおかげで、クラスでエスプレッソの機械を買わなくてすんだ。
普通ならエスプレッソの機械だけで、クラスの予算など飛んでしまっていただろう。
本格的なエスプレッソのカフェラテが飲めるとあって、客足はまずまずといったところだ。
結局、光輝はハート型とリーフ型の2種類しかラテアートはできなかったが、お客様には好評である。
武彦と雄太は時々、ラテアートが斜めになったりしていたが、高校生の文化祭の催し物ということで、
お客様に喜ばれていた。
パンケーキなどもメニューとして出したので、光輝は裏方で大忙しだ。
ひまりの猫耳をゆっくりと鑑賞している暇もない。
「光輝……カップル2名様……ハート型のラテアートでお願いだって……パンケーキも2つ」
「わかった……すぐに用意する」
ひまりの猫耳はとても似合っていて可愛い。
その可愛いひまりが、ニャンニャンポーズをして接客するのだ。
カップルだけではなく男子だけの客も多い。
普通は清楚でおっとりした雰囲気の渚もニャンニャンポーズをしている。
これも意外と似合っていて、とても良い。
「武彦、雄太もサボってばかりいないで、少しは手伝ってくれ。パンケーキは任せたぞ」
「だってよー。俺達も渚や若菜のニャンニャンポーズを見たいじゃん。外の連中が羨ましいよ」
武彦がパンケーキをレンジにいれながら、ぶつぶつと文句をいう。
「できれば俺も渚にニャンニャンポーズされてみてーな」
雄太もブツブツと独り言を呟いている。
「それば文化祭が終わった後に、渚にお願いしてくれ……今は忙しい」
いつの間にか、光輝が裏方の指揮役になっていた。
ラテアートを完全にマスターしているのが、光輝だけなので仕方がない。
そうしていると教室内が一気に騒がしくなった。
光輝も何が起きたのか、表に回ってみると、ひまりの父親である伊集院秀樹がスーツ姿でテーブルに座っている。
ひまりの文化祭を見に来たのだろう。
「おい……俳優でタレントの伊集院秀樹がテーブルに座ってるぞ……どういうことなんだ?」
クラスの生徒達がヒソヒソ話をしている。
クラスの生徒達は、ひまりが俳優の娘であることは知られているが、伊集院秀樹の娘であることは知られていない。
そのため、生徒達は騒然とする。
「ニャンニャン……お父様……今日は何になさいますか」
ひまりがにこやかに伊集院秀樹に話しかける。
伊集院秀樹も娘のニャンニャンポーズに顏をほころばせる。
「おすすめのものでいい。光輝くんはどうしてるんだ?」
「裏方でラテアートを書いてるの。とっても上手いんだよ」
「ではそれをいただこう」
「わかったニャン」
ひまりが伊集院秀樹の注文を取って、裏方にいる光輝に伝える。
光輝はすぐにカフェラテを作って、リーフ型のラテアートを施す。
すると渚がそれを受け取って、伊集院秀樹の元へ持っていく。
「ひまりのお父様、お久しぶりです。今日は文化祭に来てくださって、ありがとうございます」
「おお……ひまりの友達の渚ちゃんではないか。夏以来だね。元気にしていたかい?」
「はい……元気にひまりと仲良くしています」
伊集院秀樹は渚に会えたことが嬉しかったのだろう。
渚と話し込んでいる。
それを見たクラスの皆が驚いて注目する。
「ひまりに時々、家に連絡を入れるように言っておいてくれ。最近、忘れられているようなんだ」
「では、そのように、ひまりに伝えておきます。学校内ではそのことは内密にしてくださいね」
渚だけがひまりと光輝の同棲のことを知っている。
伊集院秀樹に柔らかく釘を刺しておく。
「美味い。それにしても見事なリーフだ。素人が書いたとは思えない。光輝くんは手先が器用だな」
「光輝に伝えておきます。きっと喜びますわ」
渚はニャンニャポーズを決めて、伊集院秀樹から離れて、裏方へ入ってくる。
「ひまりのお父様が光輝のラテアートを褒めてたわよ。それにとても美味しいって」
「それは嬉しいな」
伊集院秀樹はカフェラテを飲み終えると席を立って、クラスの皆に笑顔で手を振る。
「娘のひまりのことを、これからもよろしく頼む」
伊集院秀樹が明かしたことで、ひまりが伊集院秀樹の娘であることが、一気にクラス中に広まった。
それから後も、2年A組のコスプレ喫茶は繁盛し、カップルや男子生徒達が次から次へ、客として入ってくる。
やっと光輝が落ち着けた時には、文化祭が終わる30分前だった。
2年A組の売り上げは予想以上に上回った。
小室先生の提案で、売り上げの中から、自動販売機でジュースを買ってきて、クラス皆に振舞われる。
クラスの皆は配られたジュースを飲んで、みんなで乾杯をした。




