70話 皆で遊園地①
夜に渚から、ひまりのスマホに連絡があった。今度の日曜日に遊園地へ遊びに行かないかという遊びの誘いだ。
発起人に雄太らしい。
はじめ、雄太は渚と2人で遊園地へデートに行きたいと申し出たそうだが、渚はバッサリと断ったという。
すると雄太から妥協案が出て、皆で遊園地へ行こうということになったらしい。
「それいい……私の家から車を出すわ。駅前に集合して皆で遊園地へ行きましょう。私も光輝と遊園地へ行ったことないし」
ひまりは即答して、スマホを切った。
光輝に相談することはなかった。
ひまりは興奮して、胸に手を置いて、光輝に迫ってくる。
「光輝……私達ってデートしたことないよね……わたしデートしたい。今度、渚達、皆で遊園地へ行くんだって……私も光輝と行きたい……一緒に行ってもいいでしょう」
既に渚との連絡は終わっている。
今更、光輝が反対を言い出せるはずがない。
日曜日は何も予定がないから、ひまりの提案を却下する必要もない。
「いいんじゃないか……皆で遊園地へ行ったほうが楽しいし……ひまりが行きたいなら、俺も賛成だよ」
「わーい! 光輝とデート! 光輝と遊園地!」
ひまりはダイニングを跳ねて回る。
ただ1つひまりが間違っていることがあると思う。
これは友達同士で遊びにいく計画であって、決してデートではない。
説明すると、厄介なので、ひまりには誤解させておくことにした。
◇
日曜日の朝がやってきた。
柴田さんがリムジンで迎えに来てくれている。
皆とは駅前で集合になっている。
ひまりと光輝はリムジンに乗り込んで、駅前の皆と合流するため、アパートを出る。
リムジンを見つけた武彦と雄太が手を振っている。
その隣には若菜と渚がいる。
全員がリムジンに乗ると、初めて乗った雄太と武彦が興奮している。
渚は以前から乗ったことがあるのだろう。
おっとりとリラックスしてソファに腰かける。
若菜は初めてなので、やや緊張しているようだ。
「ひまりってスゲー所のお嬢様なんだな。こんな車で送り迎えしてもらってるなんてさ」
学校では、ひまりは芸能人の娘であることを隠している。
雄太と武彦も、ひまりの父親である伊集院秀樹のことを知っているだけで、詳細までは知らない。
詳しく知っているのは渚だけだ。
雄太が光輝に質問する。
「光輝はひまりの家に行って、伊集院秀樹さんと、ゆっくりと話をしたことはあるのか? もう交際を許してもらっているのか?」
「ああ……ひまりの家に行ったことはある。伊集院秀樹さんはひまりの父親だ。きちんと話をして交際を許してもらった」
伊集院秀樹からは既に結婚の話まで出ているが、それを雄太に説明するつもりはない。
雄太に言えば武彦も乗ってきて、話がうるさくなるに決まっている。
このことはひまり以外は誰も知らない。
「いいよな……光輝にはひまりがいて」
武彦が羨ましそうに光輝とひまりを見る。
ひまりは武彦の視線から逃げるように、光輝の背中へ隠れる。
それを見た渚と若菜がクスクスと笑う。
遊園地へは高速に乗って3時間ほどの距離にある。
そこから一般道に乗り換えて、1時間ほどで遊園地へ到着する。
遊園地に着いた頃には昼を過ぎていた。
チケット売り場でチケットを買い、光輝達だけ遊園地の中へ入る。
柴田さんは適当に近くの観光名所を巡ってくるそうだ。
柴田さんがリムジンで退屈せずにすんだことに、光輝はホッと胸をなでおろす。
チケットと遊園地の地図を持って、皆でどれに乗ろうかと相談する。
「やっぱりジェットコースターだろう。ここのジェットコースターは有名だからな」
そう言って、雄太と武彦が走っていく。
渚と若菜は手をつないで2人の後を追いかける。
その後ろを光輝とひまりが歩いていく。
雄太と渚がペアーを組み、武彦と若菜がペアーを組む。そして光輝とひまりだ。
その順番でジェットコースターへ乗る。ジェットコースターはゆっくりとした速度で上昇していき、最高到達地点から一気に落下していく。
雄太と渚は嬉しそうに両手をあげて喜んでいる。
若菜と武彦は必死に安全バーを握りしめて、目をつむっている。
隣を見ると、ひまりは目を輝かせて、両手をあげて喜んでいる。
もちろん光輝も両手をあげて、大声をあげる。
ジェットコースターは好きなほうだ。
ひまりも好きそうで良かった。
若菜と武彦は少し苦手だったようで、ジェットコースターから降りると2人でフラフラしている。
渚と雄太は元気いっぱいだ。
「もう1回乗ろうぜ」
ジェットコースターが気に入った雄太が皆に言う。
「俺はパス」
「私も……」
武彦と若菜はジェットコースターをパスした。
ひまりと光輝はもちろん、雄太と渚に続いて乗り込む。
合計、3回もジェットコースターに乗り、やっと雄太は納得して、満足な笑顔をしている。
渚もすごく嬉しそうだ。さすがスポーツ万能だけのことはある。
ひまりと光輝も大満足で若菜と武彦が休んでいるベンチへ向かう。
ベンチでは若菜と武彦が仲良さそうに、2人で寄り添って話している。
ここはそっとしておいたほうが、いいのではないだろうか。
光輝はそんなことを考えたが、雄太が近づいて、せっかくの雰囲気を壊れてしまう。
「お前達もジェットコースター、乗れば良かったのに……最高だったぜ」
雄太に話しかけられ、慌てて若菜が武彦と距離を取る。
渚が少しお腹をさすって、笑顔になる。
「遊ぶのもいいけど……もうお昼過ぎよ。皆で少しだけでも昼食と取らない?」
「そういえば、私も少し……お腹が空いたかも」
地図を見ながら渚が歩いていく。その隣を雄太が歩く。
武彦と若菜は、仲良く話しながら前を歩いていく。
ずいぶんと仲良くなったようだ。
ひまりは光輝の腕に自分の腕を絡めて、喜んで寄り添って歩く。
傍から見れば3組のカップルのデートに見えるかもしれないと、光輝は嬉しく思った。




