63話 香織からの願い事
2学期の始業式が終わり、香織に声をかけられる。
「2人で話したいんやけど、ええかな?」
「私、先に教室に行ってるね」
ひまりは光輝を残して、ひまりが先に教室へ歩いていく。
光輝と香織は人が少ない部活棟へ続く廊下を歩く。
今は部活の時間ではないので、通っている人はいない。
ここなら、香織と2人で話していても、誰に聞かれる心配もない。
「2学期早々、どうしたんだ?」
「あんな……あたし、もうすぐ転校すんねん……都会の大学進学高校……もう編入テストも面接も合格してん」
「俺のせいなのか?」
香織は黙って顔を横に振る。
光輝を追って三雲高校まで転校してきたのに、光輝は香織をフッた。
香織が三雲高校にいる意味はなくなった。
それならば、大学に進学しやすいように、都会の進学高校に通ったほうが良いと考えたのだろう。
「皆には言わんといてな。私が転校してから小室先生から言うてもらうことになっとるから」
「わかった……誰にも言わない。すぐに転校するのか?」
「1週間以内に転校する予定……もう、むこうの住先も決めてきたし」
「そうなのか……香織がいなくなれば寂しくなるな……」
雄太と武彦も口では言わないが香織のことを気に入っている。
渚と若菜とも仲が良くなっていた所だ。
皆が落ち込む姿が目に浮かぶ。
「1学期に転校してきて、あまり皆と一緒にいなかったけど、楽しい思い出がいっぱいや」
「そうか、三雲高校が香織にとって良い学校だと思ってもらえたのなら良かったよ」
「大失恋した場所やけど……」
「……そのことはゴメン」
光輝にはひまりがいる。
ひまりのことを黙っておくことはできない。
「今日は学校帰りにひまりと一緒に、私に付き合ってや。それぐらいええやろう?」
「たぶん、大丈夫だ……ひまりにも伝えておく」
「それじゃあ、私、少し先に教室へ戻るな」
そう言って香織は光輝の顔を見ずに走り去っていった。
どうすれば良かったのだろうと光輝は悩む。
ひまりと付き合っていることを隠せば香織に嘘をつくことになる。
香織と付き合えば、ひまりに不義理を働いたことになる。
これはどうしようもなかったんだと、光輝はため息をつく。
教室へ戻ると雄太と武彦が光輝を待っていた。
「香織が、俺達と一緒にスィーツ店に行こうって誘ってきたぞ。その後でカラオケにも行きたいって」
「そうなのか、ひまり……俺達も雄太達と一緒にスィーツ店へ行くか? 香織が誘うなんて珍しいだろ」
「私は光輝が行くなら、どこへでも行くし」
◇
HRが終わり、クラスの生徒全員が帰り支度を始める。
渚と若菜も光輝達の机に集まってくる。
全員に香織が声をかけたのだ。
「皆でスィーツ店へ行くなんて初めてね。香織も一緒だし、楽しくなりそうだわ」
「早くに行かないと、お店が混みそうですね」
渚と若菜が嬉しそうに話し合っている。
そこへ香織が歩いてきた。
「皆、今日は私のワガママでゴメンな。それじゃあ、行こか」
三雲高校の校舎を出て7人で駅前まで歩いていく。
スィーツ店は駅前のモールの近くにあり、高校生の女子の間では人気の店である。
スィーツ店へ入って、大テーブルに座る。楕円形になっている大きなテーブルだ。
光輝、ひまり、渚、若菜、武彦、香織、雄太の順に座る。
香織は武彦と雄太の両腕を握って笑っている。
「両手に男子やで」
「俺と雄太からケーキを取るつもりだろう。絶対にやらないからな」
武彦が香織をけん制する。
確かにいつもの香織ならやりかねない。
香織は2人に両腕を組んで、自分のスマホを取り出して、スマホで自撮りするが上手くいかない。
「私がちゃんと撮ってあげる。香織、スマホを貸して」
渚に香織はスマホを渡して、渚が3人の写真を写す。
皆の前にケーキと飲み物が運ばれてくる。
さっそく、香織が武彦のイチゴのミルフィーユを切って、自分の口へと運ぶ。
「あー……俺のミルフィーユが……だから香織の隣は危険なんだよ」
「早いモン勝ちやで」
香織はにっこりと笑う。
「私のチョコレートケーキ、少しやろうか」
香織がチョコレートケーキをフォークで、すくって武彦の口元へ持っていく。
武彦は恥ずかしそうにしながら、香織にチョコレートケーキを食べさせてもらう。
そのシーンを渚がスマホの写真に収める。
「やめろよー。恥ずかしいじゃないか」
「ええ思い出になるわ。おおきに渚」
香織は次に雄太の食べているイチゴのパイケーキを狙う。
雄太は必死で香織からパイケーキを守ろうと防御する。
それを見た皆が笑う。
渚が、皆の笑っている顏をスマホのカメラで撮る。
武彦と雄太が香織にほんろうされている姿が楽しくて、面白い。
香織は本当に雄太と武彦のことを友人として好きなのだろう。
雄太も武彦も口は悪いが、女子に対して優しい。
香織が懐く気持ちも理解できる。
「香織……今日はちょっと甘えすぎー」
「今日の香織は少し変だぞ」
武彦と雄太の悲鳴が聞こえてくる。
香織はとても楽しそうだ。
スィーツ店を出るまで3人のじゃれ合いは続いた。




