55話 2人だけの夜
光輝1人で悩んでいたが、やはりひまりに話しておいたほうがいいと考えた。
家に帰った光輝は、ひまりに、香織に告白されたことを話して、きっぱりと断ったことを告げた。
ひまりは少し寂しそうな顔をして、光輝に体を寄り添わせる。
「香織に悪いことをしちゃったかも……1学期のはじめに私が付き合っていなかったら……」
「そうであったとしても、俺が香織を選ぶことはなかった。香織は俺の幼馴染なだけで、恋愛対象じゃないからね」
それを聞いて、ひまりは上目遣いに目を潤ませる。
「俺が好きなのはひまりなんだ。他の誰でもなく、ひまりのことが好きだよ」
そう言って、軽くひまりと唇を重ねる。
「光輝は優しくて、気配りも上手だから、もっと良い女性が現れるかもしれない。もし、私がイヤになったら、私のことをフッてくれてもいいからね」
「ひまりのことをフッたりなんかしない。俺が大事なのはひまりだから。だから安心して」
光輝はひまりをギュッと強く抱きしめて、髪をなでて落ち着かせる。
「私だけ幸せになっていいのかしら? 私、皆から幸せをもらってる気がするの……光輝のご両親からも……香織からも」
それは気のせいだと光輝は言いたかった。
しかし、それを言っても、ひまりは認めないだろう。
ひまりには、幼少の頃の怖い思い出や、ショックのトラウマがある。
光輝はひまりが、もっと幸せになればいいと思った。
「私、仏壇に手を合わせてくる……光輝のお父様とお母様に感謝してくる」
そう言って、ひまりは光輝の腕の中から抜け出して、隣の部屋へ入っていった。
光輝は自室へ戻って、制服から私服に着替えて、ベッドに横になる。
香織のことを考える。
光輝のことを想ってくれていたのは嬉しいが……まさか転校してくるとまで思っていなかった。
光輝が初恋の男子だということは理解できた。
しかし、いつまでも小学生の頃の光輝を想い続けていた香織の気持ちがわからなかった。
中学生の時には良い男子はいなかったのだろうか。
香織も美少女に入るほどきれいな顔立ちをしている。
男子からも多く声をかけられていただろう……それを断り続けていたのだろうか。
ひまりが私服に着替えて部屋へ入ってきた。そして光輝の寝ているベッドに一緒に転がる。
「こうして2人で一緒にいられるなんて、とても幸せなことなんだって、思っちゃった」
「そうだなひまりとこうして、2人で一緒にいられるなんて幸せだな」
ひまりを抱き寄せると、体から良い香りが漂ってくる。
光輝はひまりを抱き寄せて、やさしく髪をなでて、軽く唇を重ねる。
「もうすぐスーパーへ行かないと、夕飯が夜遅くになっちゃうよ」
「もう、そんな時間なのか……それじゃあ、一緒にスーパーへ行こう」
家に鍵をかけて、2人でスーパーへ出かける。
歩道がないので、2人で寄り添って車道を歩く。
夕暮れ時だというのに、7月も近くなり、かなり蒸し暑い。
「香織……また学校を転校するのかな?」
「それはわからない。夏休みに田舎へ戻ってから両親と話をすると言ってた」
「せっかく友達になれたんだし……また転校していくのは、寂しいよ」
「まだ転校すると決まったわけじゃない。深刻に考えないでおこう」
香織は既に2年A組のクラスメイトだ。
香織がいなくなれば、雄太と武彦も寂しがるだろう。
香織がいつも一緒にいるグループの女子達も寂しい思いをする。
今は感情で考えているが、時間はかかるかもしれないが、香織も冷静に考えてくれることを期待する。
スーパーに着いて、食材を買って、両手に荷物を持って家へと向かう。
夏場は食材が腐りやすい。
毎日、スーパーへ行ったほうが、新鮮な食材が手に入る。
ひまりと2人でスーパーへ買い物に出かけるのは、散歩をしているようで気分がいい。
家に帰って、ひまりが夕飯の用意をして、光輝が風呂の掃除をする。
そして2人で雑談をしながら、ゆっくりと夕食を食べる。
こんな他愛もない時間が、ひまりと一緒にいると楽しい。
ひまりはいつも光輝に楽しさをくれる。
ひまりはいつも笑顔で光輝を包んでくれる。
今の光輝にとって、ひまりは光輝を照らす太陽のような存在だ。
今ではひまりのいない生活など考えられない。
互いに交代で風呂に入って、寝間着に着替える。
そして、それぞれの部屋へと別れた。
しばらくすると、ひまりが、光輝が寝ているのを確かめるように部屋の中へ入ってくる。
光輝は寝たフリをして、そのまま横になっている。
するとひまりは、いつものようにベッドの中へ入ってきて、光輝の体をギュッと抱き寄せる。
「毎日はダメだと言ってるだろう」
「だって1人で寝るのがさびしいんだもん」
ひまりが上目遣いで目を潤ませる。
光輝はこの目に弱い。
「今日だけだからな」
「うん……ありがとう」
光輝はひまりをギュッと抱き寄せ、軽く何回もキスを重ねた。




