49話 香織との仲直り
中川香織は祖父母の家の隣に住んでいた、光輝の幼馴染である。
香織は中学に入ると父親の仕事の都合で、家だけ残して関西地方に引っ越していた。
だから、香織が知っている光輝の記憶は、幼少期から小学生時代となる。
その頃の光輝は両親の他界もあり、色々と知られたくないことが多い。
その全てを香織は幼馴染の立場で知っているというわけだ。
関西地方に引っ越していったので、もう2度と会うこともないと安心していたのに、最悪の出会いだ。
まさか、同じ三雲高校へ転校してくるとは思わなかった。
光輝には不幸なことに、香織は2年A組のクラスメイトになった。
元気で明るい香織は、他の生徒達とすぐに仲良くなっている。
ひまりと険悪な仲なのに平気な顔で、光輝達にも近寄ってくる。
いつの間にか、光輝達の昼食会にも混じって、光輝の幼稚園の頃の話を暴露している。
「ほんまに体の小さい子やってん。はじめに出会った時は女の子やと思ったぐらいやもん」
「そんな出会った時のことなんて忘れたよ。どこまで記憶力がいいんだよ」
ふつうは幼稚園の頃の幼児の記憶なんて、小学校の時には忘れているもんだろう。
覚えている香織のほうがおかしい。
ひまりも機嫌は悪いが、光輝の幼少時代を聞けるとなると、途端に大人しくしている。
「光輝は両親も、光輝の祖父母も、武道に熱心やったから、光輝は小さい頃から、お爺ちゃんに武道をしごかれて、よう泣いてたわ。それでも毎日、武道の稽古をさせられてたけどな。毎日、ボロボロになって泣いとったわ」
無理やり爺ちゃんに武道を教えられていたんだから仕方がない。
特に爺ちゃんの教えは厳しく、決して逃がしてくれなかった。
幼稚園から戻ってくると、爺ちゃんの特訓が夕方まで続いた。
幼馴染の香織も一緒に参加していた。
香織のほうが光輝よりも上手かったことも覚えている。
「幼稚園の頃までは、光輝の両親が警察官やったから、光輝も警察官になるって言うてたけど……小学生になってから警察官になるのは止めたみたいで、光輝は常に目立たない子供になったんよ」
もちろん香織は光輝の両親が他界したことを知っている。
昼食時に話す話題ではないと察して、話を濁してくれたのだろう。
「小学校の時の光輝は人見知りが激しくて、決して人前で実力をみせなくなったんや。勉強でも、運動でも、平均以上を取ったら、光輝は上を目指さない子供になったんよ……あの時は悔しかったわ」
確かに小学校時代から、自分の実力を隠す癖がついたことは覚えている。
別段、自慢したい相手もいない。
適当に学校生活を暮らしていければいいと思っていた。
それは今も同じかもしれない。
「あんまりやる気のない態度に、腹が立って、何回も光輝に挑戦したけど……小学生高学年の時には、何一つ、光輝には勝てへんかった。光輝が本気で相手してくれたんは私だけやったけどな」
それは香織が本気で勝負をしないと怒ってきたからだろう。
何度も挑戦されるのはイヤだし、1回で済ませようと思っただけだ。
それでも、何回も挑戦されたけど……
「中学に入って、あたしのお父ちゃんが関西地方に転勤になってん。だから、家だけ残して、あたし等は中学に入ってすぐに関西地方へ引っ越してん。だから光輝の中学時代のことは知らんのよ」
中学時代だけでも香織に知られなくて良かったと思う。
光輝の中学時代は常に平凡を装い、特に目立つことを極力避けて、3年間を通していた。
ひまりがお弁当を食べ終わって、香織に質問をなげる。
「光輝が香織とキスをしたのはいつ?」
「幼稚園の年長の頃や。あの時は結婚の約束もしたんやで」
それは幼少期の気まぐれというか、気の迷いだろう。
友達も香織しかいなかったし。
そんな話をひまりにドヤ顔で言わないでくれ。
次に渚が香織に質問をぶつける。
「なぜ三雲高校を選んだの? 大学へ進学するんだったら、もっと都会の高校へ転校したほうが良かったわよ」
「それは光輝の爺ちゃんから、光輝の通ってる学校を紹介されたからや。あたしも知り合いが誰1人もおらん学校よりも、光輝がいる学校のほうが通いやすいと思ってん……まさか光輝に彼女がいるとは思ってへんかったけど」
ひまりが真剣な顔をして、香織に質問する。
「小さい頃は、香織も光輝のことが好きだったみたいだけど……もう、高校生なんだから、今でも光輝のことを好きとは言わないわよね?」
「今の光輝の性格を詳しく知らんしな……でも、あんまり変わってないような気もするし……まだ、転校してきたばかりやから、彼氏については深くは考えてないわ」
「もし、あたしが光輝を好きになったら……ちゃんと彼女さんにいうから、安心して」
「俺はひまり一筋だ……他の女子とは付き合わない。香織も変なことは言うな」
「光輝も彼女さんにはゾッコンなんやね。覚えておくわ」
少し香織は寂しそうにしているが、そんなポーズには騙されない。
光輝はひまり以外を彼女にするつもりはない。
その他の女性は、眼中にない。
光輝は香織にハッキリと言っておくことにした。
「香織も三雲高校に転校してきたんだから、わからないことがあれば相談には乗る。とにかくひまりと俺達の仲間とは仲良くしてくれ」
「ありがとう……仲良くさせてもらうわ。光輝の彼女さん……ひまり……さっきはゴメンな。私と仲良くしてくれたら嬉しいわ」
「私も光輝の幼少時代の話が聞けて良かった。香織と友達になれたら楽しそうだし……よろしくね」
ひまりと香織は静かに互いに微笑んだ。




