48話 突然の転校生
ひまりとの同棲を始めて1週間が経った。
学校中に、ひまりと光輝が正式にカップルになったことは噂で広まっていった。
既に皆の公認であったので、カップルになったからと言って、騒ぎ立てる生徒達もいなかった。
ただ、光輝の靴箱には、得体の知れない手紙が多数置かれていた。
その手紙を開けてみると、全てがひまりのファンからの怨嗟の手紙だった。
光輝は震える手で、手紙をゴミ箱に入れることが日課となった。
今日はいつもよりも早くHRのため、小室先生が教室へ入ってきた。
その後ろに、茶髪のミディアムボブで、少し目尻が吊り上がり目の美少女が立っている。
「今日は転校生を紹介する」
「中川香織と言います。よろしくお願いします」
少女は元気よく、深々と一礼をする。
その明るくて、元気の良い態度に、クラスの生徒達は好感を持って拍手する。
ただ1人、光輝だけは香織の名前を聞いて呆然としていた。
すると中川香織は勝手に教壇を離れ、光輝のところまで歩いて来る。
光輝は必死で隠れる場所を探して、席を立つ。
「香織……どうして、この学校に転校してきたんだよ」
「光輝……逃げてもあかんよ。光輝がおるって爺ちゃんから聞いたから転校してきたんやから。やっぱり田舎の学校より、都会の学校のほうが大学に合格しやすいやろうって、父ちゃんも母ちゃんも賛成してくれてん」
「だからって、うちの高校に入学しなくてもいいだろう。都会ならもっと良い高校があるじゃん。今からでも遅くない。そっちの学校へ入学しろ」
「せっかく幼馴染が一緒の学校に転校してきたっていうのに、光輝はそんなこと言うん?そんなことやったら、光輝の小さい頃の話を全部バラしてもええん? 昔、あたしに散々泣かされたことも言うてもええの?」
最悪だ。
中川香織は祖父母の家の隣に中学の時まで住んでいた娘で、光輝とは幼馴染だ。
光輝の幼少期の頃から小学生時代の全て知られている。
「昔の光輝は可愛かったわ。あたしの可愛い子分やったし。「大人になったら香織と結婚する」って言うてくれてたのに。あれ嘘やったんやね」
誰でも幼少期にはある間違いだろう。
ただ、近所で仲良しだった女子に、そんなことを言ってしまう年頃というものは皆もあるはずだ。
ひまりがそれを聞いて眉を寄せて立ち上がった。
「どこの誰だか知らないけど、あんまり光輝に馴れ馴れしくしないでほしいし……今は私の彼氏だし」
「え! そうなん! 光輝のことやから、彼女なんて絶対におらんと思って、田舎から出てきたのに、光輝ってば手が早すぎへん。そんなんアタシ許されへんわ……絶対に認めへん!」
今にも香織とひまりのキャットファィトが起きそうなほど2人は盛り上がっている。
雄太も武彦も、迫力に負けて、呆然と2人を見ている。
光輝はひまりの前に立って両手を広げる。
「香織……いい加減にしろ。ひまりは俺の彼女だ。絶対に喧嘩することは許さないぞ」
「なんや……自分の彼女ばっかり守って……ムカつくわ……昔は私にキスしたやん」
「幼稚園の小さな頃の話を持ち出すな」
ひまりがガシッと光輝の肩をわしづかみにする。
「光輝……キスってどういうこと? 私達、キスもまだしてないよ……先を越された――!」
幼稚園の時のキスなんてノーカウントだろう。
あまり覚えてもいないし。
ひまり、そんなに目を吊り上げて見ないでくれ。
教壇で氷室先生が冷静に光輝達を見つめている。
「そこの3人、少しは冷静になれ。光輝とひまりは自分の席に座るように。香織は少し話があるので職員室まで一緒に来るように」
「先生に呼ばれたから仕方ないわ。後からまた来るわ。光輝またね」
そう言って、香織は教壇へ戻っていった。
隣の席を見ると、ひまりが悔しそうな顔をして、目に涙を浮かべている。
光輝は呆然と自分の席に座った。
小室先生と香織は教室から出ていった。
「おい……あれ誰なんだよ。光輝の知り合いか。スゲー気の強そうな女子だったな」
「でも美少女だったぞ……スタイルも良かったし、光輝……紹介しろよ」
雄太と武彦はそれぞれに光輝に話しかけてくる。
まさか香織が転校してくるなんて思ってもみなかった。
光輝からすれば悪夢でしかない。
香織は光輝の中学時代までの全てのことを知っている。
「光輝……香織って誰? まさか昔の彼女なの?」
「違う……祖父母の家のお隣さんで、俺の幼馴染っていうだけ」
「でもキスって言ってた……あれはどういう意味?」
「まだ幼稚園の頃の話だよ。俺も覚えてないよ」
「でも光輝のファーストキス……香織としてるじゃん……気分最悪」
そんなことを言っても幼稚園の頃の話だ。
皆も経験あるだろう。
ひまりも忘れていると思うが、幼稚園の頃に好きな子とキスぐらいしているだろう。
「まさか初恋が香織なの?」
「だから違うって言ってるだろう……全て幼稚園の幼児の頃の話……ひまりもいい加減、俺のことを信じてくれ」
「わかったわ。後から香織に聞けばいいんじゃん。光輝の昔話を全部聞かないと納得できないし」
その最悪な展開は何とか回避したい。
できれば、幼少の頃から小学生時代のことを誰にも知られたくない。
香織には絶対に昔話をするなと、約束させよう。
昔話を香織にバラされるなんて最悪だ。




