37話 体育祭、昼休憩
午前の部の日程が終わり、皆、教室へ戻って昼休憩を過ごすことになった。
今日はひまりと渚が昼のお弁当を作ってきているので、光輝、雄太、武彦の3人は手ぶらだ。
皆で机を寄せて大きなテーブルのようにして使う。
その上にひまりが大きな重箱をだしてきて机に広げる。
3段重ねのお重を広げると色とりどりのおかずがギッシリと詰まっている。
「今日は家政婦さんと料理長に作ってもらった特製のお弁当でーす」
「オオ――!」
「ひまり、少し食べるのは待って、1人、紹介する人を忘れているわよ」
テーブルには光輝達の他に、眼鏡をかけた影の薄い女子が座っていた。
「この子が倉木若菜ちゃん。さっきお友達になったんだけど……2年生になってから、今まで友達がいなかったんだって……若菜と友達になったの。皆にも紹介するね」
それを聞いて、武彦は机に手を隠しながら、ガッツポーズをしている。
「初めまして……若菜です……皆さんとお友達になれて嬉しいです……よろしくお願いします」
予想以上に人と話すのが苦手なようだ。
今でも光輝達相手に緊張しているのだろう。
声がとても小さくて、よく聞いておかないと聞き逃してしまいそうだ。
「どうして、今まで友達がいなかったんだ? 若菜ぐらい可愛ければ、男子からも女子からも誘いがあっただろう?」
「はい……誘っていただいたのですが……私、あまり大勢の人と一緒にいるのが苦手で……それに見た目の通り、どんぐさいですし……影も薄いですから……忘れられてしまいました」
光輝も他人から影が薄いと言われ続けたモノだが、若菜のほうが影が薄い。
他の生徒達は待っていても若菜から積極的に行動しないので、そのまま放置したのだろう。
光輝も1年生の時はそうだったと、1年前の過去を思い出す。
ひまりが笑顔で、若菜が食べる分を皿に盛って、目の前に置く。
「そんな過去はどうでもいいじゃん。もう若菜と私は友達だし。1人でも友達が多くなったほうが楽しいし」
「そうね。ひまりの言うとおりね。私も若菜と友達になれて嬉しいわ。皆で食事を食べましょう」
そう言って、渚は持ってきた3つのお弁当のフタを開けて、皆が食べやすいようにする。
若菜はニッコリと微笑んで、とても嬉しそうだ。
あまり話すタイプではないらしい。
本当に大人しい女子のようだ。
どうやって武彦は見つけ出してきたのだろう。
「若菜はこう見えても、本当は歌とダンスが上手なんだぜ。特にダンスは地区予選も通過するぐらいの実力者なんだ。俺が読んでるダンス雑誌に、若菜の記事が載っていてさ。それで見つけたんだよ」
「それはすごいな……隠れた才能ってやつだ」
武彦の説明に雄太が驚いている。
それよりも、もっと驚いているのが話題にのぼった若菜だ。
まさか武彦がダンス雑誌なんて読んでいるとは思ってもみなかったのだろう。
「俺は遊ぶことなら何でも好きだからな。自分のやらないことでも雑誌で読むことがあるんだ」
確かに武彦が、学校の得体の知れない雑誌を持ち込んで読んでいる時があった。
「それは私の秘密なので……学校では誰にもいわないでください」
人見知りの激しい若菜だ。
そんな噂が広まって皆から注目を浴びるのはイヤだろう。
注目を浴びる辛さはわかっているつもりだ。
「大丈夫だ。この秘密はここにいる6人だけの秘密にしよう。誰にも言わないから安心して」
「やったー。既に2人だけの秘密を持っちまったぜ」
「2人だけじゃなくて、6人全員との秘密だけどな」
武彦が変なテンションで浮かれている。
後で雄太にヘッドロックをかけてもらおう。
武彦に暴走されても困る。
若菜は自分専用の小さなお弁当を持ってきていたが、テーブルに置いて、皆に差し出す。
「私だけ1人でお弁当を食べているのは変だから、私のお弁当も皆さんで食べてください」
それを聞いた武彦が、即座に動いて若菜のお弁当からおかずを取ろうとする。
それをひまりに止められる。
「武彦……もっと上品にしてよ。若菜に嫌われても知らないよ」
「俺としたことが焦っちまったぜ」
ひまりと武彦の会話を聞いて、若菜はクスクスと微笑んでいる。
少しずつだが、光輝達に馴染んできたようで良かった。
「沢山、食べるものはあるから、皆で適当に食べてね。沢山あるから、男子はいっぱい食べてもいいよ」
「やったぜ。ひまりと渚の料理も美味いしな。とりあえず皆で食べることにしようぜ」
雄太がそう言いながら、取り皿の上に渚のおかずを乗せて、大量に食べていく。
それを見て、渚は楽しそうに微笑んでいる。
ひまりは光輝の隣に座って、光輝の皿から、料理を取って、口の中へ入れていく。
その姿はとても嬉しそうだ。
武彦は若菜と少しずつ話をしながら、若菜からおかずをもらって、笑顔で食べていく。
「若菜……料理、ウマー!」
「あんまり大きな声で言わないで……恥ずかしいです……」
雑談をしながら、皆で楽しく食事をしていると、あっという間に昼休憩は過ぎていった。




