29話 体育祭の選手選び①
次の日の朝のHRと1限目は体育祭の競技に誰を選出する時間となった。
小室先生は窓際の定位置に立って腕を組んでいる。
教壇の上に立っているのは、いつもの通り浩平と凛香だ。
黒板には体育祭の競技が書かれている。
①男子200走
②女子100走
③二人三脚
④玉入れ(女子)
⑤学年別綱引き
⑥障害物競争
⑦借り物競争
⑧学年別棒倒し(男子)
昼休憩
⑨騎馬戦(男子)
⑩男女別400mリレー
⑪クラス別400mリレー
⑫学年混合400mリレー
競技が多いので、運動神経の良い生徒は、競技をかけ持ちすることになる。
浩平は教壇に手を置いて教室内を静かに見回す。
「体育祭は学校の行事で、お遊びと考えている生徒も多いと思う。でも僕はそう思わない。良い成績や積極的成績を取れば、内申書にも記録が載る。体育祭でもクラス一丸となって優勝を目指したい」
その言葉を聞いた生徒達からざわめきが起こる。
「ここは、普段の体育の結果を踏まえて、能力主義で競技に参加するメンバーを決めていったほうがいいと思う。皆がバラバラに競技を選んでも、良い結果を得られるとは限らないからね」
凛香が後ろから浩平の説明の補足をする。
「体育の科目担当の先生から、皆の体育の能力について簡単なメモをもらってきています。それを元に競技の配置を決めていこうと思っています。異議のある人は申し出てください」
ひまりが挙手をして、席を立ちあがる。
「体育祭って、もっと皆で楽しむ場所でしょ……体育祭ぐらいは自由に楽しく競技を選ばせてほしいわ……運動神経の悪い女子なんて玉入れぐらいしか、出る競技がないじゃん」
雄太も席から立ち上がる。
「俺は運動神経だけはいいからさ。それに陸上部だから足も速い。だから、かけもちで競技に出てもいいけどさ……参加する競技が少ない者達は体育祭を楽しめないだろう。それって楽しくないじゃん」
浩平はひまりと雄太の言葉を聞いて、ゆっくりと首を縦に頷く。
「君達は運動神経が良いから、そう思うんだよ。運動神経の悪い生徒からすれば、体育祭は地獄だ。苦痛でしかない。そういう苦手な生徒達には逃げ場を用意するのも優しさだろう……運動神経の悪い生徒は言ってくれたら、出る競技を減らしてあげる。それは約束する」
確かに浩平の言っていることも的を射ている。
全ての生徒が体育祭を嬉しく、楽しく思っているわけではない。
1つでも出る競技を減らしたいと考えている生徒も中にはいるだろう。
なんとかひまりの援護をしてあげたい。
常は発言を控えている光輝だが、挙手をして、席を立つ。
浩平は光輝を見て表情を消す。
「浩平の言っていることも納得できる。しかし普段の体育の結果をもとに、強制的に出場する競技を決めていく方法は独断的で、支配的だ。だからそれには反対だ。複数の候補を選出することを提案する。後は選出された生徒達の間で、相談するというやり方が妥当だと思う」
「選出する生徒を1人に絞るのではなく、候補を多くすることで、その中で相談させろと言いたいんだな」
「そうだ。そうすれば相談している間に、本当に競技に出たいか、イヤなのかわかるだろう。皆の意見も反映されることになる。ここが妥協点だと思うぞ」
光輝の意見を聞いて、浩平や凛香のグループの中でも「それがいい」と賛同の声があがった。
しばらくすると、クラスの生徒のほとんどが、光輝支持となっている。
それを見て、浩平は無表情で頷く。
内心では妥協点を言ってきた、光輝のことを面白くないと思っているに違いない。
それでも、表情に出さないのは立派だ。
凛香は浩平の後ろで、悔しそうに光輝を睨んでいる。
「候補の中で、競技に出る、出ないの相談もできるし、候補に選ばれているんだから、誰が出ても競技にはそれほど支障はないだろう」
「光輝の意見はわかった。クラスの生徒達も光輝の意見に賛同しているようだ。僕も候補を多く立てることに賛成しよう。候補は体育の科目教師のメモを参考に選ばせてもらう」
運動が苦手な生徒が、運動神経の必要な競技に出たいと考えることはないだろう。
浩平の案で進めても問題はないと光輝は感じた。
「それでは、今から候補の生徒を書いていくので、皆、自分のノートに競技とそれに出る候補を書いておいてほしい。そして自分が選ばれた競技が何なのか、しっかりと覚えておいてくれ」
浩平は競技の候補者を読み上げ、凛香がそれを黒板に書いていく。
競技に出場する生徒の候補者がどんどんと決まっていく。
後は候補者の中で相談すればいいだけだ。
窓際で見守っていた小室先生が、小さく拍手をしながら教壇にのぼってきた。
「私は、昨日の時点で浩平と凛香から、自分達の案を聞いていた。確かに能力主義で選ぶのは1つの方法だ。そこまで能力主義に偏らないでもよいのではないかと思っていた。君達がどういう妥協案を出してくるのか楽しみに、今日は聞いていた。実に有意義な議論だったし、良い妥協点だと思う」
それを聞いた浩平の顔が歪む。
そして、候補案を出した光輝を睨みつける。
小室先生に光輝の案が評価されたことが気に入らないのだろう。
「体育祭は競うものだが、楽しむ行事でもある。皆で大いに盛り上がってもらいたい。以上だ。今日はここまでとする」
そう言い残すと、小室先生は満足そうに微笑んで、教室を去っていった。




