26話 ひまりのお父様
光輝を迎えに来たリムジンに乗り込んでひまりの家へ向かう。
もちろん、ひまりも光輝を迎えに来ている。
「お父様のスケジュールの都合で、急に呼び出してゴメンね」
「大丈夫だよ……どうせ、家にいても暇していただけだから」
一般道から高速へ乗り、高速を30分ほど走り、光輝達の街よりも大きな街に豪邸が建っていた。
リムジンを駐車場に入れて、駐車場でリムジンから降りる。
邸内は和風庭園になっていて、とても庭の眺めがいい。
家令の柴田さんとひまりが邸内を案内してくれる。
邸内は広く、いくつ部屋があるんだろうと光輝は思う。
その中の1つの客室へ案内され、大きなソファにひまりと2人で座る。
しばらくすると、壮年の整った顔をした男性がスーツ姿で現れた。
「待たせたね。私は伊集院秀樹という。俳優をさせてもらっている。君は私のことを知っているかい?」
「はい、テレビや映画でお顔だけは拝見させていただいています。俺の名は高賀光輝と言います。ひまりさんと同じクラスで同級生をさせてもらっています」
「高賀とは、高低の高と書いて、滋賀県の賀と書いて、高賀かね?」
「はいそうです」
ひまりの父、伊集院秀樹はソファに座り込んだまま、少し複雑な顔をして黙ってしまった。
「俺の名に何か問題でもあるんですか?」
「いや……すまない。昔の知人に高賀という苗字の人がいてね。その人には世話になったんだ。もしかすると、私の知人の息子さんなのかと考えてしまってね」
「高賀という漢字の苗字は少ないですからね」
「そういうことだ」
部屋のドアが開いて、家政婦の女性が紅茶とショートケーキをトレイに乗せて入ってきた。
そしてひまりと光輝が座っているソファの前のテーブルに紅茶とショートケーキを置く。
伊集院秀樹の前には紅茶だけだ。
「急に呼び出して悪かったね。最近、ひまりは家にいても、君の話ばかりを私にするんだよ。それで少し嫉妬してしまってね。どんな男子か会いたかったんだ」
「お父様、それは光輝には言わないでって約束したじゃん」
家の中で、両親にまで、ひまりが光輝のことを話しているとは思わなかった。
ひまりは明るくて自由奔放な所がある。
それはひまりの魅力ともいえる。
しかし、自分の両親に光輝の自慢をするのは止めてほしかった。
「光輝くんは年齢の割に冷静なタイプだね。私と会っても驚いたり、焦ったりしないのだから」
「緊張しているだけです。ひまりさんのお父様ですから」
目の前にテレビで見ていた芸能人がいるのだ。
光輝も十分に驚いている。
しかし、ひまりの父親という印象のほうが大きい。
だから緊張もしているが、落ち着いていられる。
「ひまりは君のことが好きらしいが、君はひまりのことをどう思っているんだ?」
「俺には勿体ない美少女だと思っています。内面の性格も明るくて、元気で、素直ですし、やはり俺には勿体ないです」
ひまりは三雲高校の中でも学年NO1美少女ギャルだ。
性格も素直で良い子だと思う。
やはり光輝には勿体ないと思う。
「君は自分のことを過少評価するタイプのようだね。もう少し自分に自信を持ってもいいと思うね」
「俺は高校1年まで、影が薄いと言われ続けてきた普通の学生です。平凡で、特技の1つもありません。だから自分に自慢できる部分があると思っていません。全てが人並みで平凡だと自分で思っています」
「そんなことないよ……光輝は強くて……優しくて……頭も良くて……最高に格好いいんだから」
「娘のひまりは君のことを、評価しているようだが?」
「ひまりさんの過大評価だと俺自身は思っています」
ひまりは光輝のこととなると過大評価する癖がある。
そのことをひまりの父親にも理解してもらう必要がある。
「君はどこまでも謙虚だね。もう少し、自分を自慢する男子が来ると思っていたよ。気に入った。ひまりのことは任せたよ」
「え?」
「君のような謙虚で、慎重な少年なら間違いは起こすまい。安心してひまりを任せられる。これからも、ひまりと仲良くしてやってくれ」
意外な展開になってしまった。
ひまりは大喜びで、父親の伊集院秀樹に抱き着いている。
伊集院秀樹は優しい眼差しで、ひまりを見つめて、優しく髪をなでる。
「これでも、ひまりは人一倍、警戒心が強いんだ。それに他人を信用しない。そのひまりが、これだけ信用しているのだから、ひまりの見立てに間違いない。これからも娘を頼んだよ」
伊集院秀樹は席から立ち上がると、腰を屈めて、右手を差し出してくる。
ここで握手を断ることはできない流れだ。
光輝は立ち上がって伊集院秀樹と握手をする。
「君のお父さんの名前は高賀充さんじゃないかい? そしてお母さんの名前は高賀真由美さん? 違うかな?」
「はい。そうです。父の名前は高賀充、母の名前は高賀真由美と言います。どうして俺の両親の名前を知っているんですか?」
「さっきも話したと思うが、昔に君のご両親に世話になったことがあるんだ。今でも本当に感謝している。また家に来るといい。その時にでも、ゆっくりと君のご両親について話をしようじゃないか」
ひまりの父である伊集院秀樹が、光輝の両親のことを知っていることに驚いた。
光輝はあまり両親のことを覚えていない。
伊集院秀樹が両親のことを知っているなら、教えてもらいたい。
「あのお二人の息子さんだ。間違ったことをするはずがない。私もこれで安心した。ひまりとの交際を許す。ひまりのことを頼んだよ」
あの……まだ付き合ってもいないんですけど……
はっきりと言うタイミングを逃してしまった。
これで、ひまりの父親公認の仲となったわけか。
既成事実だけが積み上がっていく。
「できるだけ、ひまりさんを守ります」
光輝の言葉を聞いて伊集院秀樹は、嬉しそうに優しく笑んだ。




