二十七話
「雄飛!」
今日もまた縁側に横たわって惰眠をむさぼっていた雄飛は明るい声に叩き起こされる。
勢いよく上にのってきた桜花を薄めで確認してから、再び目を閉じる。昼寝の時間を邪魔するものは、たとえ桜花でも許さない。絶対寝るのだ。固い決意のもとに再び瞳を固く閉じた雄飛に、それでも桜花は諦めないで揺すってくる。
何度話しかけても無視を決め込む雄飛に桜花は上体を起こして馬乗り上体になって更に声を張り上げる。
「ねー雄飛。なんかごめんね。芙蓉がすっごい怒っている」
どうしてそれを俺に報告して、謝ってくる?
桜花が怒らせたなら助けを求めてくるだろうが、こちらに謝罪をいれるのはどうもおかしい。何かがあったのかと、雄飛が瞳を開けるとそこには困った顔をした桜花の顔があった。
「……何をしたんだ?」
「あのね、昨日のこと話たんだけど――」
「昨日のこと……?」
雄飛が日差しですっかりぬるくなってしまった頭を回転させながら昨日起こったことを思い出していると、そこにいつもだったら足音一つ立てない芙蓉の怒りに満ち溢れた足音が近づいてくる。
雄飛はそのぞっとするような妖気に、思わず反応して顔をそちらに向けてしまう。
そこには目と口を全開に開き切った芙蓉の姿があった。
酷い顔である。
そのままだと顎が外れてしまうのではないだろか。いつまでたっても固まったまま動かないでいる芙蓉に、雄飛が声をかけようと口を開こうとするより芙蓉が動き出した。
「何をしているのですかっっ!!??」
草木を揺らすほどの大音量に雄飛はびっくりして思わず上体を起こす、不安定になったことでころがり落ちそうになった桜花を抱き寄せると更に芙蓉は金切り声をあげる。
「ぎゃー! 雄飛様、いくら雄飛様が私のご主人様であろうと、桜花様の保護者であろうと、それは許せませんわ」
わなわなと身体全体を震わせる芙蓉に、雄飛と桜花は思わず更に身を寄せ合う。
「今すぐ離れなさい!!」
芙蓉は目をひんむいたまま、雄飛の腕の中から桜花を奪い取る。そして桜花の乱れた着物(雄飛の上にまたがったために)を手早く直すと背にかばう。
「………えっ」
芙蓉のその一連の動作に、思わず手を伸ばしたまま固まってしまった雄飛を芙蓉がゴミを見るような目で見下ろしてくる。
その迫力に思わず両手をあげてしまった雄飛に、芙蓉は声を潜めて言葉を続ける。
「桜花様はまだ子供です。……いくらなんでも手を出すのは早すぎますわ」
今度は雄飛が目を見開く番だった。言葉が見つからなくて黙り込んだままの雄飛に芙蓉は嘆かわしいと頭を横にふる。
「桜花様はもう子供じゃないのですから、雄飛様に昔のように飛びついたりしたら駄目だと申しあげたでしょう! いいですか。こういう時に傷ついて責任を問われるのは女の方なのですからね! 痛い目に合う前にちゃんと理解してないと駄目です! と言うか痛い目にあったら駄目なのです! そもそも!」
雄飛はようやくそこで、自分が芙蓉の中でひどい扱いをされていることに気がついた。屈辱で震える手で芙蓉と桜花の方に手を伸ばすが、芙蓉がそれを汚いと言わんばかりに桜花を背中にしたまま後ろに引きさがる。
「雄飛様も、雄飛様です! 女性が必要なら桜花様ではなく昔のように他の女性の所に通われればいいでしょう!」
「口を、ちょっと吸っただけだ」
息も荒く最後まで言い切った芙蓉と自分にかけられた不貞行為を必死で否定する雄飛に、今度は後ろの桜花が目をかっと開く。
何も知らないだろうが、男女の間には何かがあることはわかっているらしい。口を吸ったという言葉に少し落ち着いた様子の芙蓉と変わって、今度は桜花が一気に不機嫌になって、雄飛を更に慌てさせる。
「雄飛、彼女いたの? それにちょっとって、なに?」
「まじさいてーだよね! 雄飛ったら」
いつの間にか桜花と芙蓉のチームに紛れ込んだ神出鬼没な狐がうざったい口調で口を眇めながらついでに詰ってくる。「お前には関係ないことだろう」雄飛はそう叫びたい気持ちを抑えてそれよりもなによりもと、低い桜花の声に雄飛は悲鳴じみた声をあげる。
「昔のことだ! 口づけの方は小さい時もやっていただろう! ……似たものだ!!」
「「ふ~ん」」
桜花と橘の瞳が細められる。値踏みするように見つめてくる二人の視線に耐えきれなくなって雄飛は立ちあがる。こんな居づらい場所にこれ以上いるなんて、たまったものではない。逃げ出した雄飛の背に桜花と芙蓉と橘の三人の声が飛んでくる。
「雄飛様! それでもまだ話は終わっておられませんよ」
「そうだよ雄飛!」
「逃げるなんて男らしくないよね!」
雄飛は決して逃がさないぞ言わんばかりに後ろをぞろぞろとついてくる喧しい三人に、今夜は死ぬほど酒を飲みたいなと遠い眼をすることしかできなかった。
9月13日ようやく修正しました~。
完結です。
10月12日追記
桜花、雄飛、芙蓉はー日本軍の戦闘機の名前から。(だよね??)
最初に書いたシーンが雄飛が桜花に人里に行くよう促すシーンで「お前はお前でお前の人生を謳歌しろ」という、えっ………なにそれうまくいったつもり??というシーンがありました。ありました、が、そこを無くしました(あれ、なくしたよな…??)
人と鬼、子供と大人、女と男。
隣にいるような、一番でいたいような、離れたくないけれど、大切なんだけれど……。いろいろな障害、障害のというか隔たり(決して交わることができない、絶対的なもの)が二人の間には存在していて、それでも好きだからそばにいたくて、でも好きだからそばにはいれない。
ごちゃごちゃ自分一人で考えて勝手にお前のためだといって結論をだしてしまう人を、不器用で無口な人と。色々考えるけど伝えずにはいられない、幼いというかまっすぐというか単純というか、感情的というか……そういう人を書きたいなーと。
全く考えを、全てが違う二人が一緒にいられることができるのか??
あら、、、なにかいてるんだろう、わたし。。。。。
とらあえず、大人と子供。その他もろもろの障害がある二人を書きたかったのでっっっす!!
読んでくれてありがとあございました!!




