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桜下奇譚  作者: 森 彩子
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十話

 桜花は目の前に用意された御馳走の数々に目を輝かせた。

雄飛が開くといった祝いの席は、桜花の体調が戻ってからおこなわれた。

「酒も飲むか?」

「うん」

桜花が肉にかぶりついていると、隣に座った雄飛が笑いながら杯を軽く持ち上げてこちらに差し出してくる。止めるかと思われた芙蓉だったが、桜花が大人になった宴だからか口出しはしてこなかった。

桜花は差し出された杯を両手で掴んで、ぺろりと舌で舐めあげる。

「なんだ、猫みたいだな」

笑う雄飛はすでに結構飲んでいて、ご機嫌らしい。何が面白いのか、更に笑い続ける。

桜花は初めて口にした酒に、舌をだして苦悶する。こんなものを雄飛はおいしい、おいしいと言って朝から飲んでいるのか―――。

大人の味覚感覚がわからないと、首をかしげる桜花の手のうちから雄飛が杯を奪い取る。そして桜花がほとんど残してしまった杯を一気に傾ける。

「よく一気に飲めるね」

「桜花にはまだわからんだろうな」

馬鹿にしたように笑う雄飛に桜花が頬をふくらませると、何がおかしいのか雄飛は再び笑いだす。

笑い続ける雄飛に桜花が文句を言っていると、芙蓉の後ろに現れた使用人の一人が芙蓉に耳打ちをしている。桜花はそれを横目で見ていると、それまでこちらを見ているだけだった芙蓉がしずしずとこちらに近寄ってくる。

「雄飛様。客人が――」

「…そうか。通せ」

雄飛は杯を煽りながら芙蓉に指示をだす。

足早に立ち去って行く芙蓉の後ろ姿を見送りながら、桜花は口を開く。

「客人って、だれ? ここに通すの?」

今日の宴に自分たち以外の誰かがくるなんて初耳だった。不安に顔を曇らせる桜花の頬に雄飛が手を伸ばし撫であげる。

「あぁ。別に怖くないから大丈夫だ」

雄飛のその言葉に、桜花はうんと頷くとそのまま雄飛の腕にしがみついて頬を当てる。

「なんだ、あんなちょっとで酔ったのか」

笑う雄飛に桜花は違うよと言葉少なに返すと、頭をくしゃりと撫でられた。



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