ビアンコ18歳 シーデンの森 pt.8
僕たちは九階層の休憩所に泊まることにした。ダンジョンの中だから外はもう暗くなったかどうか知らないけど、僕たちはもうあと一歩でも歩けないぐらいへとへとになったし、お腹がすいた。まずい携帯食しかないけど、何も食べないよりマシだった。こんなにもくもくと携帯食を食べるのは冒険者になって初めてだったのかも知らない。
「このダンジョンって何階層までですかね?ダンジョンを制覇したいんです。とりあえず九階層までの魔物はスムーズに退治できていたけど、これからどうなるでしょうかね」
「今まで情報があるダンジョンだけ行っていたから、情報がないところだとどう判断すればいいのかわかるもんじゃないですね~」
「このダンジョンはなんだかばらばらだよな。ガーゴイルの後にもっとヤバいやつ出ると思ったらスケルトンとかゾンビだった。他のダンジョンと違って、ヤバい魔物がどんどん出てくるってわけではなさそうだから、確かに判断難しいよな。これからスライムがでちゃったりしてさ」
「でもやばいやつが出てきても僕たちに魔剣があるんじゃないですか?あれで魔物を倒してもいいですよね?」
「そうだな。Sランクの魔物が出てきたら、魔剣を使おうか」
「うっ!」僕たちが話している途中、さっきまで普通に座っていたケリーさんは急に倒れこんで、動かなくなった。
「け、ケリーさん!どうしたんですか!?ケリーさん!」
「おー、この魔法すげぇな!これ重力魔法って言って相手に何十万倍もの負荷をのっ掛かるみたいっすよ!」
「えっ?ぶ、ブライアンさん?」
「うっ!ぶ、ブライアン・・て、てめぇ・・・あとで・・うっ、ぶっ・・ころす・・くそ・・うごけ・・」
「ブライアン、仲間にそんな魔法を使うな!やめろ!」ブライアンさんはミハイルさんに言われた通り、重力魔法を解除した。
「ビアンコ、オリハルコン短剣を俺に貸せ」ケリーさんは何とか立ち上がって僕に短剣を借りた。本気でブライアンさんをぶっ殺すつもりらしい。それでも僕はオリハルコン短剣を貸した。ブライアンさんには罰が必要だと思ったから。夕食中、ブライアンさんがずっと黙っていて魔導書を真面目に読んでいるなと感心していたら、これか・・・
ケリーさんはそのオリハルコン製の短剣を持ってブライアンさんのところにゆっくりと歩いて行く。
「け、ケリー、落ち着けって!話せばわかるって!」ブライアンさんが後ずさっていく
「ブライアン、てめえをぶっ殺す。後悔して死ね」ケリーさんはオリハルコン短剣を持ち上げ、ブライアンさんを刺す体勢に入った。
「まあまあケリー、落ち着け!次の戦いに回復魔法をかけてやらなきゃいいんじゃないか?」ミハイルさんは仲裁に入った。これはおそらくミハイルさんもブライアンさんに罰が必要だと思っているんだろうね。
「いやだ!回復魔法をかけてくれ!」
「オリハルコン短剣か回復魔法かどっちか選べ、ブライアン」ケリーさんはぷんぷん怒っていた。
翌日、僕たちは十階層を降りて高原に出た。特に出迎えた魔物はいない。三階層みたいに幻を見せる魔物が潜んでいる可能性もあるから、僕たちは油断せず、高原の向こうへ進んだ。そしたら、半透明の銀色の物体が出てきた。
スライムだった。
「じゅ、十階層はスライムなんですね~久々のスライムですね。久しぶりに見るとなんだか可愛いです」
「スライムでよかった!Aランク魔物とかSランク魔物とかじゃないかって正直まだ心配してたんっよねー」
「スケルトンの後はスライムか〜。なんだか癒されますね〜。高原でスライムがぴょんぴょんと飛びまわるなんて~可愛いね~」
「スライムだけで終わればいいんだが・・・」
僕たちはそんな呑気な会話をしている間、スライムがどんどん現れてきて、僕たちがまだその呑気な会話が終わらない頃、周りは百以上ぐらいのスライムが集まってしまった。多すぎて実際どれぐらいいるか目測できない。しかも色がばらばらで銀色、紫色、青色、赤色、緑色、黄色、黒色、白色のスライム軍団だった。
「な、なんだか気持ち悪い光景ですね。さっきまで可愛かったのに・・・」
「す、スライムでもこう来るとちょっときついかもしれないっすね」
「百以上の虫に、百匹以上のスケルトンに、百匹以上のスライムとか、このダンジョンってずる賢いね〜数で相手を殺そうとしている意図がものすごく伝わってきちゃってますね~」
「おまえら!無駄口やめろ!さっさとスライムを倒せ!」
スライムにはあまり武器によるダメージを与えられないから、ミハイルさん、ブライアンさんと僕はひたすら魔法を放った。面倒なのは出没したスライムの属性がばらばらで一度に一つの魔法で倒せなかったことだ。
赤色のスライムは火属性だから、ミハイルさんは水魔法で赤色のスライムを倒した。
水色のスライムは水属性だから、僕は火魔法で倒した。
緑色のスライムは風属性だから、ミハイルさんは水魔法で退治して、黄色のスライムは土属性なので、僕は火魔法で退治した。
紫色のスライムはポイズンスライムで、特にこれといった弱点がないみたいなので、僕はとりあえず土魔法を使って退治した。
銀色のスライムはメタルスライムで、ブライアンの攻撃魔法と僕の火魔法で、黒色と白色のスライムは無属性で、みんなやりたい放題だった。
ケリーさんはスライムから出た魔石を拾いながら、僕たちに回復魔法とヒールをかけてくれた。僕たちはスライムを倒しながら、徐々に前に進んでいく、と思ったらスライムがまた後ろから現れて僕たちを襲ってくる。相手がスライムなのに、一息つくことなく、必死でなんとか前へ進み、言葉通り本当に一息つく余裕がなかった。ケリーさんはずっとミハイルさん、ブライアンさんと僕に回復魔法をかけっぱなしにしていた。
僕たちは何とか高原の向こうまで辿り着くと宝箱が見つかった。しかし誰も宝箱を見向きもせず、全員倒れこんだ。
「ぼ、僕の眼がチカチカしています・・・・何百匹以上のスライムのいろどりのせいでしょうか・・・それともポイズンスライムの毒のせいでしょうか・・・」
「うぇぇぇぇぇーーッゆ、夢までスライムが出てきそう・・・うぇぇぇぇーーーッ」
「あ、あれないわ・・・マジでないわ・・・うぇぇぇーーーっーーーー」
「あんな数のスライム・・・二十年間の冒険者人生・・・初めて見たわ・・・スライム・・キライ・・」
僕たちはしばらく寝転んだあと、何とか立ち上がって宝箱の方へ歩いて行き、僕がいつも通りブライアンさんとミハイルさんに守られながら恐る恐る宝箱を開けた。『ふぅーー』と音がすると同時に真っ黒な煙が漂った。
「うわぁ、今、ブライアンの魔法がなければ俺たち死んでいたな」
「僕はみんなより先に死ぬところでしたね。あっまあまあお金が入っていました。うーん、お金か・・・十階層なのにちょっとがっかりですね・・・」
「相手がスライムだからね~」
「今度こそ聖剣だと思っていたのに・・・」
「相手がスライムだからな」




