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僕の中の悪魔を殺してください  作者: あまね
ダンジョン編
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現在 シーデンの森 pt.3

 このシーデンの森の探索は、ケルレナ街の図書館の司書からもらった魔導書がなかったら、とてもとてもきつい冒険だったかもしれない。しかし、その魔導書の数々の魔法はとても役に立っている。飲み水を出す魔法のおかげで、僕たちはいつでもきれいな水を飲める。体をきれいにする魔法のおかげで、僕たちはずっと清潔を保てている。荷物を軽くする魔法のおかげで、僕たちはずっと身軽で歩いても荷物からの疲れが全くない。汚れを落とす魔法のおかげで、僕たちの服は常にきれいで着心地がいい。寝床をふわふわにする魔法と快眠させる魔法のおかげで、僕たちの睡眠は毎晩毎晩快適だ。そして僕のアースウォールのおかげで、見張りはもちろんやるけど、それでも毎晩毎晩安心して眠れる。


 そのすべてのおかげなのか、そのすべてのせいなのか、はっきり言えないが、『冬の精霊』のメンバーは緊張感が欠きすぎていると僕は気づいてしまった。緊張感がなさすぎると、急にやばい魔物が現れたり、不測の事態が発生したら、僕たちの反応が鈍くなり、対応できずに危険な状況に陥る可能性が高い。それに冒険者としてゆるゆる冒険はあまりよくないんじゃないかな?今後のためにも、何か対策が必要だ。どうしようか。


 別にみんなに過酷な冒険をして欲しいわけじゃないし、快適な旅だからこそこれからもずっと一緒に旅できるから、アニーの数々の役立ち魔法はいいとして・・


(あれ?アニーの役立ち魔法が良しとしたら、残りは僕のアースウォールじゃないか?そしたら原因は僕のアースウォールじゃないか?これ、僕のせいだったのか・・うーん、どうしようかな?早速今夜からでもアースウォールをやめようかな?)


 アイアンナイトのときはアースウォールを使ってもまったくゆるゆる冒険にならなかったから、アースウォールはこんなに悪い影響を与えていることに僕は今まで気付かなかった。


(これは・・メンバーの個性によるものなんだろうね。冬の精霊はみんな呑気だもんな。それに対して、アイアンナイトはみなさん真面目だったもんな。ブライアンさんは遊び心が豊富な人だったけど、冬の精霊のメンバーと比べたら、真面目な人に見えてしまうよな)


 ギルドマスターが北方の森の入り口から歩いて三日ぐらいで中央の山に到着すると言っていたけど、あれはおそらくどこにも寄り道せず、森の中央の山に向かってまっすぐ道を進む場合に限ると思う。なぜなら、僕たちはシーデンの森で七日目になったけど、なかなか山に辿り着かないのだ。その理由は魔物の退治には少しだけ関係している。主な理由はメンバーたちがまっすぐ歩かないからだ。


「見てみて〜あの木歩いているよ〜どこに行くかな〜」アニーはトレントを見つけて、トレントに付いていった。ほかのメンバーもトレントを見たことがないみたいで、面白がっていて誰もアニーを止めずにトレントについていく。


「歩く木って、なんかかわいいわね。ほら、足の方を見て。短くて小さくてかわいくない?おもしろすぎる~あれが魔物なの?」


「あれはトレントという魔物ですが、木の精霊とも言われています。私たちはトレントに何もしなければ、向こうも私たちに何もしないはずですよ」


「あいつ、どこまで行くか、俺らもついてこう!」


「「「おっー!」」」


 僕は首を傾げた。僕が初めてトレントを見たとき、かなり驚いたのに、このメンバーたちはまったく動じなかった。解せないな。しかも5年前のアイアンナイトはまったくトレントについていく発想も微塵もなかった。本当にこのメンバーたちはどういう神経をしているのか気になる。そして僕もトレントはどこに行くのか気になってきて、メンバーたちと一緒にトレントについていった。


 トレントはセシルが言った通り、足が短くて小さいから移動には時間がかかった。トレントについていってやっとトレントの住処のようなところに辿り着いた。そこには小さな川があり、何本ものトレントもあった。トレントの生息地かもしれない。


「トレントの住処かな~トレントってこんなにいるんだね~すごいね」


「この川、すごくきれいだよ。魚もたくさんいるわ。食べてもいいかしら?食べちゃったら、トレントに怒られるかしら?」


「ちゃんと許可を取ったら、食べれるじゃないでしょうか。どうやって許可を取るのかわかりませんが」


「俺、とってみる!」


「とるって何?魚?許可?」


「魚に決まってんだろう!」


「「「「それはやめて!」」」」


 僕たちがそんなどうでもいい会話をしている間、僕たちの近くに魚二匹が飛んできた。


「「「「「・・・えっ!」」」」」


「と、トレントさんがくれたかな~優しいな~木の精霊は人間のお友達なのかな~?」


「や、優しい木の精霊だわね。トレントって人間の言葉なんて分かるの?知らなかったわ」


「せ、せっかくいただいたのですから、ありがたく食べましょうか?でなきゃ失礼になりますよね?」


「トレント兄さん、ありがとうございます!おいしく食べるよ!」


「君たち、落ち着け。魚がただ僕たちの気配を感じてあそこに集まっていて跳ねてあがってきただけだ。トレントが僕たちに魚をくれたわけじゃない」


「な、なんだ~。びっくりしちゃった~」


「だ、だよね。そうだよね。そう思っていたわよ。トレントは人間の言葉なんてわかるわけないじゃない」


「に、人間とトレントが仲良くなれると一瞬夢見てしまいました。残念です」


「ビアンコ、おまえつまんないよな」


「僕はただ事実を言っただけなのに、ひどいな。せっかく魚が上がってきたし、早めの昼ごはんを食べようか」


「「「「いい(です)ね!」



 僕たちは川から僕たちの人数分の魚を更に捕り、川のそばで魚の処理をして焼いて食べた。森の中で確保できた魔物の肉もついでにこの川で下処理をしておいた。アニーの『水を出す魔法』があるから、別にここでやる必要はなかったけど、せっかく川を見つけたから、少し長い休憩を取ろうと思った。


 そして僕たちは今川のそばで昼ご飯を食べながら、たわいない話をしている。


「シーデンの森ってヤバくて危険な魔物しかいないって噂しか聞いたことがないけど、噂ほど危険な魔物は多くないね〜。あたしね、森に入る前、結構緊張していたんだけど、なんだ、こんなもんかと思っちゃったよ~」


「そうね。もっとこう、休む暇もなく、常に戦わないといけなくて、ギリギリまで生き残って、やっとダンジョンに辿り着くって想像していたけど、普通に余裕の時間がたくさんあるよね。街の間を移動しているのと変わらなくない?結構楽しいんじゃない、シーデンの森って?」


「一人でコカトリスとかロックバードとかオルトロスとか高ランクの魔物を倒せる人はそんなことを言えるかもしれませんが、できない人はやはりここは過酷な森ですよ。そしてほとんどの人はそれができないんですよ。まあ、実は私も森に入る前、緊張していましたけど、みなさんのおかげで安心してシーデンの森の探索ができます」


「どのパーティーでもシーデンの森に入ったら、魔物を討伐しなきゃならないから、魔物の討伐自体は平等で別にいいんだけどさ〜。でもビアンコがアースウォールを作れるからさ〜。ずるいよね〜。それで俺たちはアースウォールに囲まれて、安心して眠れるじゃん?アースウォールがなければ、もっと緊張感のある森の冒険になっていたんだろうね~もったいないよね~」


「そうか、みんなの気持ちがわかった。じゃ早速今夜からアースウォールをやめるよ。君たちは今までずっとその緊張感をそこまで求めていたのに、気付かなくてごめんな。謝るよ。僕、リーダーとして失格だね〜。それにしてもみんながそんなに積極的だったなんて知らなかった。でも僕はうれしいよ」僕はニコニコしてみんなに謝った。やはり僕は今までずっと余計なことをしてしまったんだな。気付かなかった。反省反省。


「「「えっ!」」」


「えっ!じょ、冗談だよ!拗ねるなよ!アースウォールをやめるな!」


「・・・・」僕はメンバーたちの喚き声を無視して、魚を食べ続けた。


「び、ビアンコ!お願い!今夜からもアースウォールお願い!」


「フィル、あなたはそこまで緊張感を求めているかもしれないけど、私たちを巻き込まないでよ!ビアンコ!私たちはそこまで言っていないよ!アースウォールをやめないで!」


「そうだよ〜そうだよ〜じゃ、フィルがアースウォールがいらなかったら、今夜からフィルだけアースウォールの外で寝てね~。あたしたちは今まで通りアースウォールの中で寝るよ~」


「ビアンコはリーダーとして申し分なく完璧です。どうか今夜からもアースウォールをお願いします。フィル、今夜からアースウォールの外で寝てくださいね」


「おまえたち、薄情すぎるだろう!俺を捨てるな!ビアンコ、俺もアースウォールの中に入れて!ごめんなさい!謝ります!冗談です!二度とそんなこと言いません!お願い!許して!」


「・・・・」僕はメンバーたちの喚き声を無視し続け、魚を食べ続けて、そしてみんなに向けてニヤッと笑った。僕がさっきまで心配していたゆるゆる冒険はこれで解決できそうだ。いきなりみんなにそんなことを伝えることができてよかった。みんなのおかげで僕の心配はなくなりそうだから、お礼として今夜から緊張感のある冒険をたっぷり与えよう。


「「「「ビアンコ、お願いっー!」」」」みんなの顔が面白いぐらい絶望的だった。


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