現在 シーデンの森 pt.1
僕たちはケルレナ街を出た。出発したときに、街の中央通りから大門までたくさんの街の人が道に沿って並んでいて、僕たちの名前とお礼の言葉を大声で言いながら手を振っていた。僕は特に何も反応せず、ただ微笑みながらそのまま歩いていたけど、他のメンバーは上機嫌で街の人に何度も大きく手を振っていた。特にフィルはやっと、『フィル様は腕を失った』という噂を上書きして、今は『フィル様は剣を振るい、勇敢に魔族と戦った』という噂に訂正できたみたいだから、めちゃくちゃ歓喜していた。僕はそんなフィルを心の中で祝ってあげた。本当に冒険者パーティー『冬の精霊』のメンバーは呑気な人ばかりだ。
「アニーにお土産あるよ」僕は言いながら、アニーに一冊の本を渡した。
「うん?魔導書?どうして?」
「うん、ケルレナ街の図書館でいろんな魔導書を読んでいたら、そこの司書は僕にこの魔導書をくれたんだ。魔王城までの旅には役に立つかもってさ」
「どれどれ〜?塩を出す魔法、飲み水を出す魔法、汚れを落とす魔法、食器なしで料理を温める魔法、服をきれいにする魔法、体をきれいにする魔法、寝床をふわふわにする魔法、物を探す魔法、快眠させる魔法、荷物を軽くする魔法、などなど」アニーは魔導書を捲りながら、魔法の名前を音読した。
「ちょっとなにそれ!すごくいい魔導書じゃないの?絶対便利よ!絶対役立つよ!アニーこれからお願い!」
「本当にそうですね。寝床をふわふわにする魔法ですか。早速今夜その魔法を試してもらえますか?今夜野宿確定でしょうから」
「いいね!いいね!これだったら、野宿でも快適に眠れるね!」
「荷物を軽くする魔法だって~すごく便利じゃないの〜今試してみる〜」
「体をきれいにする魔法もあるわよね。アニー、今夜からそれお願いできる?」
「「「(私)(俺)(僕)も〜」」」
「ふふ、了解~これでみんな毎日きれいになれるね~ビアンコありがとう~」
「服を綺麗にする魔法もあるんだね。これで私たちはもう洗濯しなくても済むんじゃないかしら。ずっと街の外を旅してもずっときれいなままでいられる!最高じゃないの!」
「もっと早くこの魔導書に出会いたかったですね。アニー、私は回復魔法をかけますから、いつでもその魔法たちを使っても大丈夫ですよ」
「だね、そんなに便利な魔法があったら、今まで俺たちは何のために我慢したのかって思うよね」
「フィル、そんなことをはっきり言うな。悲しくなるじゃないか」
「あっ!鞄が軽くなったわ!マジックバッグがあるから、この魔法は必要ないと思ったけど必要じゃないの!」
「アニー、ありがとうございます!これ最高な魔法ですね!」
「アニーすげえぇぇ、鞄めっちゃ軽っ!」
「あの司書から魔導書をもらってよかった。すげえ役に立つじゃん。すげぇ感動した」
「えへへ〜喜んで〜」
僕たちはケルレナ街を出て、3時間歩くと大きな森が見えてきた。
「ねぇあの森じゃないかな〜?」
「そうですね。南東に向かって歩き続ければ着くみたいですし、着いたらすぐこの森だとすぐわかるともギルドマスターは言ってましたしね」
「ひっろいね〜この森ってどこまで続くのかしら。確かにやばい魔物しかいなさそうだわ。大丈夫かしら、私たち」
「森に入る前に休憩しようよ!」
「そうだね。森の中はやばい魔物ばかりだから、入り口でしばらく休憩しよう」
この森はシーデンの森という大きな森だ。シーデンの森は北方、東方、西方、中部の間に存在する。ちょうど各地のど真ん中に位置するから、人々にとって邪魔な森とも言える。しかも危険な魔物がたくさん棲みついているし、道も整備されていなくてほとんど獣道だから、反対側の地に行く時は遠回りしなければならない。冒険者さえ入りたがらない森だから、一般人にとってはこの森は邪悪な存在だ。
東方と北方の間の移動にはシーデンの森を通って移動することができなくはないけど、もう少し遠回りすれば、シーデンの森を通さずに移動できるから、一般の人は森を通らずに遠回りする道を選ぶ。
西方と東方の間の移動も一般的に北方か中部まで遠回りして西方か東方へ移動する。北方か中部を通らず、直接西方から東方まで行くと、シーデンの森の真ん中にある山を避けて移動しなければならない。危険度が更にグッと上がる上に逆に遠くなったり道に迷ってしまったりするからこのルートも使われていない。
北方と中部の間に移動する場合も同じく、西方か東方まで遠回りして移動する。直接北方から中部まで行くと、このルートも森の真ん中にある山を避けなければならない。危険度が上がるだけで時間の節約にもならないから、このルートもまったく使われていない。
そんな邪悪な森に僕たちはこれから入る。理由は、僕たちが出発する前日に冒険者ギルドのギルドマスターがこの森のある話を『冬の精霊』のメンバーに話してしまったからだ。
ケルレナ街から出発する前日
「おまえたちは南に向かうんだよな?なら、東方か西方の地を通らずシーデンの森に入ってみたらどうだ?」
「シーデンの森って、危険な魔物が多くて人が入らない森じゃないの?」アニーは首を傾げた。安全な道があるのに、シーデンの森に入る必要はないよな。
「シーデンの森にはさ、真ん中に山があるだろう?あそこの山に実はダンジョンがあるんだぞ」
「「「「ダンジョン?」」」」
「そうだ、あの山にダンジョンがあるんだ。何年か前にある冒険者パーティーがそこのダンジョンを発見したんだ。しかもその冒険者パーティーはそのダンジョンを制覇したんだぞ。確か西方の地で活躍していた冒険者パーティーだったな。その冒険者パーティーはダンジョンを発見したことを報告して、それで知られるようになったんだ」
「そうなの?でも全然シーデンの森のダンジョンの話が聞いたことがないんだけど・・」
「あんな森の中だからな。確か難易度が高くないと聞いたんだが、シーデンの森の中にあるせいで、全く人気が出なかったわけだ」
「その冒険者パーティーは誰だったの?シーデンの森に入ってダンジョンを見つけて、しかも制覇したなんてかなり強い冒険者パーティーだよね?」
「結構有名な冒険者パーティーだったぞ。Aランクの冒険者パーティーだった。北方まで名を知られていたんだからな。しかし今その冒険者パーティーはもう活動していないんだ。どうだ?そのダンジョン、興味あるか?」
「「「「あたし(((私)))(俺)たちもそのダンジョンを制覇しよう(しましょう)よ!」」」」
「なぁ、別にダンジョン制覇を目指すのはいいんだけど、君たちがいつも言っている魔王討伐はどうなの?その目標はもう無しにしてもいいかな?」
「そんな話はダンジョン制覇の後で話そうね~」
「私はこんなにやる気があるんだから水を差さないでよ、ビアンコ」
「魔王討伐はダンジョン制覇の後でも大丈夫だと思いますよ。一、二週間ぐらい遅れても状況は変わりませんよ」
「そうだぞ、ビアンコ。魔王の前にダンジョンだろう?」
「・・・・」まあ、予想通りの回答だな。
実は僕はギルドマスターがシーデンの森の話を言い出した瞬間から、こうなると予想できていた。僕は何年もこのメンバーと一緒にいるから、物事の展開は大体予想できるようになった。




