現在 神様の街の異変 pt.8
「じゃ、そのお金はどうなっているんだ?」フィルは首を傾げてアダムに聞いた。
「私も知らないんです・・・ただ命令された通りにしかできなかったんです・・・」
「そうですか。今の司祭は他にどんなことをしているんですか?ヴァルモアってやつに何か命令されて?」
「ヴァルモアは私たち司祭に興味なんて持っていないんです。あいつにとって私たち、街の人たちはただの虫けらです。あいつはただこの街に魔族が存在していることを街に絶対に漏れないように司祭にお互いの監視をさせるんです。そしてもし街に騒動が起きたら、街の人の制圧もさせるんです」
「魔族はこの街を支配してどうしたいのかしら?」
「この街は一番近い街からでも丸々二日もかかるところにある。こんなところを魔族の拠点にしても誰にもバレなさそうだし。魔族はこの街を魔族の北方の拠点にしたがっているのかもしれないね」
「なるほど、あり得るわね。去年のテロウ山間部の村と同じだね」
「そうだな」
「えっ、も、もしかしてあなたたちはあの勇者一行『冬の精霊』の方々ですか!?テロウ山間部の話はよく聞いています!強い魔族を倒して、村の人を助けたとか。冒険者たちが街の酒屋ですごくその話をしていたんですよ!どの居酒屋でも持ちきりの話題です!勇者様ご一行に実際に会えるなんて幸福です!この街を助けてください!お願いします!勇者様!」
「・・・・」最悪だ。あんな噂話がこんなところまで広がっているのか。しかもこの男がメンバーの前で堂々と言っていたから、どうなるのか予想がついてしまう。思ったより面倒なことになりそうだ。
「そうだよ〜私たちは勇者一行『冬の精霊』ですよ〜」アニーは急にいつもの調子に戻ってしまった。
「そうだね、私たちは勇者一行『冬の精霊』だから、ビアンコこの街を助けよう!ほっておけないわ!」いつもクールなのに、目の前で賞賛されてつい調子に乗ってしまった姉御のセシル。
「賛成ですね。このまま街を出ても魔族に追跡されると気持ち悪いですからね」さすがパスカルだ。目の前で称賛されても、ちゃんと正しい意見を述べた。
「アダム、その噂にはフィル様の腕はどうなっているのか?」フィルはまだ腕の話を気にしているのか。
「えっ、えーと腕を失っていても魔族と戦って村の人を助けたとか・・」
「失ってねえぞ!くそ!なんで俺だけがかっこ悪いんだよ!」
「あ、あなたはそのフィル様ですか?腕が・・失っていないようですね?」アダムは首を傾げた。
「だから、失ってねぇって言ってんだろうが!」
「フィル、腕の話は後にしてくれ。そうだね、魔族をこのままにしておくのも気持ちが悪い。ギルドマスターが僕たちにこの街の異変に何とかしてほしくて、僕たちにあんな曖昧なことを言ったんだね」
「そうだね〜この街にいてくれって言ったよね~変だと思ったよ~」
「魔族を討伐したら、報酬をもらえるかしら」
「直接依頼されたわけじゃありませんし、私たちは自ら討伐しようとしていますから、報酬がないでしょうね」
「はぁ・・・ないか・・・」
「魔族を討伐して、フィル様の腕が失っていないって噂を流そうじゃないか!」フィルの目的は他のメンバーと違うようだ。
「僕はデュトラス教会の奥から強い魔力を感じた。あれはヴァルモアの魔力かもしれない。あの魔力はテロウ山間部の魔族より強いから、みんな気を引き締めて油断せずに行こう」
「「「「おうっ!」」」」
「アダムさん、あなたはひとまず冒険者ギルドに預けてもらいます。あそこでおとなしくしていてくださいね」
「は、はい!わかりました!ありがとうございます!」
僕はアダムを冒険者ギルドまで連れて行き、ギルドマスターに魔族のことを話した。
「ま、魔族が関わっているのか!?・・そうか、そうなのか・・あの主教はもともと評判が悪いから、あいつのいつものバカな行動だと思っていた。ま、まさか魔族がこの街に潜り込んでいて・・しかも一年も?それに街の正門にも追跡魔法をかけられているのか・・だから冒険者も街の人も誰も戻ってこなかったんだ・・・はぁ、おまえたちがこの街に来てくれて本当に助かるよ。本当にこの街に来てくれてよかった・・よし、魔族の盗伐に俺も行くぞ。相手が魔族なら冒険者ギルドのギルドマスターの立場はもう関係ない。むしろ魔族と戦わないと冒険者ギルドのギルドマスターだと胸を張って言えねぇ!冒険者ギルドの本部に教会に乗り込んだって知られても絶対に褒められて給料をあげてくれるわ!」
「それはうれしいんですが、僕たちだけで行こうと思っています」
「どうしてだ?おまえたちは五人だけだろう?強い魔族だっておまえが言ったんじゃないか?無理するな」
「冒険者ギルドのギルドマスターがいなかったら、街の人が余計に不安を感じてしまうからですよ。僕たちは負けたときにギルドマスターに街の人を守らないといけませんからね。魔族討伐に参加しない代わりにと言うのもあれですけど、街の人の避難と庇護をお願いしたいんです。ギルドマスターが一番適任ですから」
「そ、そうか・・・しかしお前たちだけ行かせるのはやはり・・」ギルドマスターはしばらく考えこんだ。
「はぁわかった・・俺が魔族討伐に行かない代わりに、俺にできることがあれば何でも言ってくれ。はぁ、それにおまえたちがこの街に来てくれて本当にこの街にとって幸運だな。よかった。助かるよ。まさかこれは魔族の仕業だと思いもしなかった・・」
「ははは、かなり強い魔族だと思いますから、結果がどうなるかわかりませんよ。僕たちは死ぬかもしれませんしね。そのときはすべてギルドマスターに任せますよ。うーん、そうですね、とりあえずギルドマスターに最初のお願いがあります。その司祭のアダムさんを保護お願いします。デュトラス教会から連れてきましたから、魔族が何かしてくるかわかりませんから」
「あぁ、わかった。お安い御用だ。問題ない。他には?」
「思いついたら伝えますね」
「あぁ、いつでも言ってくれてもいいからな」
「ギルドマスターは僕たちにこの街の異変を何とかしてほしかったんですよね?最初から正直に話してくれたらよかったのに」
「いやぁ、俺が直接言うより、おまえたちがこの異変を自分で感じたほうが興味をそそるんだろう?教会のことで冒険者に依頼できるわけじゃねぇし。それに魔族もかかわっているとかこれっぽちも思ってもみなかったからな」
「まあ確かにそうですね。魔王城は北方のまったく反対側の地にあるのに、まさか潜り込まれているとはね。ではこれで失礼しますよ」
「あー、ありがとうよ。何かしてほしいことがあったら、いつでも言えよ」




