現在 神様の街の異変 pt.7
「あー、デュトラス教会の礼拝堂で見つかったんだ。いろいろ聞き出せると思って連れてきた。この一年間、この街に何があったのか、みんなに話してください」
「は、はい、私はアダムと言います。この街の『イグナス教会』の司祭です。イグナス教会は街の南にある小さい教会です。一年前、デュトラス教会の主教のマッテオ様からデュトラス教会以外の教会の活動を禁止するとのいきなりそんな指令が出たんです。そして司祭全員がデュトラス教会に集まるようにと。私たちはわけがわからず、とりあえず指令通りデュトラス教会の礼拝堂に全員集まったんです・・・あの礼拝堂は扉が全部閉じられていて、息苦しい空間でした。そして礼拝堂の聖壇にマッテオ様とヴァルモアっていう魔族が現れて、マッテオ様は神様への信仰をやめ、世界の幸福のために魔族に協力することになったとそんなことを言い出したんです」僕たちは静かに話を聞いた。
「意味が分からなかったんです。教会が魔族に協力なんてできるわけないじゃないですか。そもそも人間が長い間魔族に侵入されていて苦しまれているんですから、魔族に協力するなんてありえないです。あの場の何人かの司祭も主教に反対したんです。そしたら、別の魔族がその司祭たちを殺したんです。みんな驚愕してただ見ることしかできなかったんです・・・」アダムはしばらく沈黙した。
「そのあとは?」僕は促した。
「そのあと、主教と一緒にいた魔族は、あのヴァルモアは微笑んで『逆らう人がいたら、ここで処分するから、おとなしく命令に従え』と一方的にそんなことを言ったんです」
「あのヴァルモアって魔族は他の魔族に従われているんだな」
「はい、ヴァルモアの命令は絶対的でした。あいつはまずこの街の神様の信仰を禁止するって、街の人に教会の出入りも禁止するって言ってました。街の人がそんなことに素直に従うわけないじゃないですか?この街は何百年もずっと神様を愛して信仰してきたんですよ。急にそんな命令されても街の人は聞くはずがありません。そしたら街の人がデュトラス教会に集まって抗議したんです。そこに来た街の人間を誰も気付かれないように始末しろってヴァルモアが魔族と司祭に命令したんです」
「司祭もそのヴァルモアの命令に従ったんですね」
「・・・はい、もともとこの街の司祭は全部で七十人ぐらいいたんですけど、今は二十人ぐらいだけ・・・亡くなった人は魔族に反対した人とか、街の人を助けた人とか、魔族の情報を流そうとした人とかです。わ、私は死にたくなくて・・だ、だから魔族の言う通りに従ったんです・・」
「誰もが自分の命が大事ですから、そんなことはいいんです。フィル、そのことについて、冒険者ギルドのギルドマスターが何か言っていたか?」
「あー言っていたよ。ただ冒険者ギルドと教会はお互い干渉しないという決まりがあって、ギルドマスターが直接何かできるわけじゃなかったんだ。あの騒ぎには何人もの冒険者を至急に派遣して、街の人を避難させたみたい。それでギルドマスターがこの国の首都にある冒険者ギルドの本部にこの街の状況を連絡したんだって。でも何回も連絡しても音信不通で返信が全く来ないんだって」
「それは、ヴァルモアは街の外への連絡は一切させないようにと命令したんです。街の人はそれに気づいていないはずです。それに魔族のことは一言でも漏らしたら、殺すって」
「なるほどね〜。それでギルドマスターは自分で冒険者ギルドの本部へ行こうと思ったけど、そのとき乱暴な出来事が続けて起きていたから、冒険者ギルドのギルドマスターまで不在にしたら街の人に余計な不安と危険を与えてしまうと思ったみたい。それにギルドマスターの立場で教会のことを首都まで報告することもできないみたいだ。そもそも教会が神の信仰を禁止するなど、冒険者ギルドが口出しすることじゃないってさ。だからギルドマスターがあえて『ケルレナ街冒険者ギルドの定期報告書』という名目で他の冒険者パーティーに本部までその報告書を届けるように依頼したんだけど、その後の冒険者の連絡もなかったし、もちろん本部からの連絡もなかったって」
「それもヴァルモアの仕業です。この街の門は魔法を掛けられて誰か外に出て行ったら追跡されてそして魔族によって殺されてしまうんです。街の人は気づいていないでしょうが、この街はこの一年他の街と隔離されているんです。魔力のない人はこの街の近くに来てもこの街の存在に気づかず、通り過ぎてしまうとか魔族がそんな話をしたのを偶然聞こえたんです」
「この街の貿易はどうなの?材料の仕入れは教会を通してやらないといけないとか、昔の何十倍もの値段で仕入れないといけないとか聞いたけど・・・」アニーはアダムに聞いた。
「特定の商人のみ教会と取引するんです。その商人の対応は司祭の一つの仕事です・・・値段についてヴァルモアに言い渡された通りにしないといけなかったんです・・・魔族はお金がいらないでしょうから、あいつら魔族にとっては仕入れのことがただの遊びかもしれません」




