現在 神様の街の異変 pt.5
僕が宿の部屋に戻ると、セシル、パスカル、フィルがいた。
「アニーは?」僕は聞いた。
「まだ来ていないわよ。いつも時間ぴったりな子なのに。どうしたのかしら・・」
「まだ聞き込みしているかもしれませんね」
「何かあったかな。俺、情報収集していたらさ、確かにこの街の人たちは変だよね〜。まったく街の外の人を歓迎していないし、避けようとしている感じ~」
「実はさ、僕は中央街のアレクラス教会に調べに行ったんだ。礼拝堂にも告解室にも誰一人もいなくてさ。おかしいと思ったから、教会の中を調べてみて、教会の一番奥の部屋の事務室まで行ってみたんだ。そしたら魔族に遭ったよ。もしかしてこの街は魔族に潜り込まれていて、街の人が気付かずに魔族に支配されいているのかもしれないな」
「えっ?ま、魔族!?この街に?本当に!?」
「あー、僕が事務室に入ったとき、魔族が一人の司祭を殺したところだった。僕は魔族を倒したけど、あの司祭はもうダメだった。あの教会に行くのがちょっと遅かった」
「そ、そうか。確かにその可能性があるわね。私が西側で食堂とか居酒屋に行って、街の人に教会のことを聞いてみたけど、みんなは教会のくそ野郎とか言っていてすごく教会を憎んでいたよ。神様への祈りは一年前から禁止されていたみたいで、教会に訴えても抗議しても、逆に教会から痛い目に遭わされて全く相手にされなかったって。教会は神様への祈りを禁止するなんてそんなことをするわけがないじゃない?あり得ないでしょう?まったく理解できなかったけど、ビアンコの話を聞くと納得したわ。ビアンコが教会で魔族に遭ったっていうなら、魔族が一年前から裏で教会を操っているってことでしょうね」
「私もそんな情報を聞きました。神様への祈りの禁止のことでたくさんの街の人がデュトラス教会に抗議を訴えていて、街の中で大騒ぎになったそうです。デュトラス教会の司祭たちは魔法で街の人を追い払ったくせに、それが教会の自己防衛だって主張していたとか。デュトラス教会に抗議に行って戻ってこない人もいたみたいです。これが魔族が教会を操っているというなら納得できますね。教会が自ら進んでそんなことをするはずがないのですから」
「あー俺もそんな話を聞いたよ!それにあちこちにある神様の銅像だってひどい状態じゃん?俺が行った東側には壊された神様の銅像もあったよ。びっくりしちゃったよ。何か月か前に何人かの司祭が壊したってさ。あと、汚れきっていて全然掃除されていない銅像も結構見かけたんだろう?街のおばあちゃんに聞いたら、掃除して教会の人たちにバレたら司祭に呼ばれて重罰されるんだって。ひどいよね~」
「私たち、何とかしたほうがいいよね?このままにしたらこの街は完全に魔族に浸食されるんじゃないかしら。そしたらこの街は終わりじゃないかしら」
「そうですね。私たちは魔族からこの街を助けたほうがいいと思います。そうしないとこの街の魔族がまた他の街に侵入して、被害もさらに広がってしまいますから。その時は私たちは何かしようとしてももう遅いでしょう」
「俺たち、勇者一行だしね!」
「僕が心配しているのはアニーだ。この街で一番大きい教会は街の北側にある。あの教会は魔族の拠点の可能性が高い。もしかしてアニーがその教会に行って、魔族に遭遇してしまったのかもしれない。ただ食べ歩きしていて、道が迷っているだけならいいんだが」
「確かにそうだわ。私たちは早くアニーを探しに行こう!」
「いや、セシルはここにいてくれ。アニーがただ道に迷っていて遅れているだけかもしれないし、何かに遭ってアニーがここに逃げてくるかもしれない。もしそうだったら誰かがここでアニーをサポートしたほうがいい。念のためにね」
「わ、わかったわ」
「フィル、冒険者ギルドに行って、ギルドマスターにこの街の事情を聞いてくれるか?」
「了解!」
「パスカルは僕と一緒に来てくれ。もしアニーに何かあったら治療が必要かもしれないから」
「わかりました」
僕とパスカルは急いで、北側にあるデュトラス教会に向かった。この教会もアレクラス教会と同じく人の気配が全くなかった。僕は昔アイアンナイトと一緒にこの教会に入ったことがあったけど、雰囲気は昔と今、百八十度変わっていた。
僕たちは念のためこの建物の前にある案内看板を確認した。確かにこの案内看板にはちゃんと『デュトラス教会』と書いてあった。
「裏口から入ろう」
「えぇ、そうしましょう。相手が魔族なら礼儀正しく堂々と真正面から入る必要はありませんから」
僕とパスカルはぐるっとデュトラス教会を回って裏口を探した。そして裏口から中に入ると、すぐ魔族の気配を感じた。僕は剣を抜き、ゆっくりと静かに歩き、部屋を一つまた一つ調べていく。でもアニーの姿が見つからなかった。
デュトラス教会はさすが一番大きい教会だ。アレクラス教会より広く、部屋も何十室もあって、二階へつながる階段もあったし、さっき外から見たら、塔みたいな部分もあった。アニーが本当にここにいるのかはっきりわからない。いるとしたら、こんな広いところを全部探さなければならない。魔族も近くにいる。僕は不安になってきて、だんだんいらいらしてきた。
(僕の家族に何かあったら、魔族も教会もまとめてぶっ殺してやる)
僕は次の扉を開けて中に入った。ここは物置部屋だった。さっと中を歩いて調べてみると、アニーが神具類の棚の間に倒れていた。僕は血が引いた気がした。
「パスカル!」
「任せてください!」
「おい、さっき侵入した人間を見つけたか?」
「いや、まだだ。もう裏口から出ていたかもしれない」
「とりあえず教会全部探せ」
外から話し声が聞こえた。
「魔族か。パスカル、僕はあいつらを片付けに行く。治療が終わったら、アニーを宿まで連れて行ってくれ」
「ビアンコは?」
「片付けてから行くよ。まずアニーを優先して連れて行ってくれ」
「・・わかりました」




