ビアンコ22歳 魔物討伐依頼 pt.6
僕たちは冒険者ギルドを出て、話ながら、宿に向かった。
「ビアンコ、私たちはあんなきつい依頼を成功させたし、ご褒美としてこの街に二、三日ぐらいゆっくりしない?」
「あー僕もそう思ってるよ。フィルがまだ休んだほうがいいし、みんなも結構へとへとになったし」
「やった~お菓子を食べに行く~、この街にすごく評判がいいケーキ屋さんがあるみたいだよ~」
「やはりアニーはお菓子ね。今日オークの処分を手伝ってくれたから、明日お菓子を奢るよ」
「本当に?やった~いっぱい食べちゃおう~」
「報酬は結構もらえそうだし、散財しようかしら~」
「フィルは二、三日静養しなければなりませんから、賛成ですね」
「はぁぁぁ、あんな依頼、二度と御免蒙りたいよ、ビアンコ。もう二度と引き受けないでよ」
「フィルは結構ノリノリだったんじゃなかったの〜?『オークぐらい俺たちの敵じゃないよね~』とか言っちゃってなかった~?」
「こうなると知っていたら、絶対にそんなことを言わなかったしノリノリしなかったよ、アニー」
翌朝、僕たちはまた冒険者ギルドに報酬を取りに行った。冒険者ギルドのギルドマスターが難しい顔をしながら、こう話し始めた。
「おまえたちが喜ぶかどうか知らんが、おまえたちは強い魔族を倒したってことを街全体に知られていて、それでおまえたちはいま、勇者一行『冬の精霊』になっているぞ」
「「「「「・・・はい?・・・」」」」」
「逞しい勇者のビアンコ様に、可愛らしい魔法使いのアニー様に、美しい女戦士のセシル様に、博識な治癒魔法師のパスカル様に、魔族と戦って両腕まで失ったフィル様、ってさ」
「「「「「・・・マジ?・・・」」」」」
「マジ」
「・・・・・」
「えへへへ~~可愛らしいだなんて~」
「美しいって褒められて悪い気はしないわね~というか事実だしふふふ~」
「私はそんなに博識に見えるんですね。うれしいです。貫禄があるということですねふむふむ」
「なんで俺だけ雑なんだよ!?ってか腕失ってねえぞ!」
「困りますね。何とかやめてもらうことができますか?僕たちはただの冒険者パーティー『冬の精霊』です。勇者ではありません」僕は勇者になる資格なんかないよ。
「無理だろうな。もう街全体に広がっているぞ。冒険者ギルドの中や食堂、薬局、防具屋など、そんなありとあらゆる場所におまえたち『冬の精霊』の噂が広がっているんだ。それにああいう場所にいた冒険者たちも絶対その話を聞いていて、また他の人に話しているはずだ。この噂はもうやめられないから、諦めろ。でもまあいいじゃないか、勇者一行『冬の精霊』って、悪くないだろう?かっこいいじゃないか」ギルドマスターはなんだかニヤニヤしたように見えた。自分のことじゃないからっていい加減にしないでくれよ。
「うんうん!かっこいいと思うよ~勇者一行『冬の精霊』って、いい響きね~」
「そうだね、いいじゃないの、ビアンコ?冒険者パーティー『冬の精霊』兼勇者一行って。かっこいいじゃない」
「そうですね。それにこれから、私たちは魔王討伐という大きな目標ができたということですね。これからも一緒に旅できますね」
「ギルドマスター、俺、腕失ってねえぞ。そこだけ情報を訂正してください!」
「君たち、かわいいとかきれいとか博識とかほめられたからって軽々しく勇者一行なんて受けるな」
「いいんじゃないの〜、いいんじゃないの〜、はい、あたし勇者一行に一票入れます~」
「私も勇者一行に一票~」
「私もです」
「俺、全然褒められてねえぞ、ビアンコ。勇者一行に一票だ」
「はぁ・・わかったわかった。言っておくけど、僕は自ら勇者一行なんて絶対言わないからな」
「まあまあまあまあ、何にでも慣れが必要だよ~そのうち慣れるよ~」
「はぁ・・信じられない」
「そうだ、おまえたち、あの村の長老がおまえたちに話したいことがあるそうだ。この通りの宿に泊まっているから、時間があったら会いに行ってやれ」
「そうですか。まあ時間あるし、みんなで行こうか」
「「「「おっ!」」」」
『冬の精霊』は本当にとんでもない噂になってしまった。勇者だって?僕が勇者にふさわしくないことぐらい自分が一番知っている。今日、冒険者ギルドに一人で来ればよかったかもな、失敗した。『冬の精霊』のメンバーはいつもノリがいいから、こういう時は困ってしまう。でもみんなはあんなに嬉しそうだし楽しそうだしな。パスカルの言う通り、僕たちが大きな目標をもってこれからも一緒に旅することも悪くない。むしろ楽しそうじゃないか。まあいっか、勇者一行で。
そして僕はあの村の長老の部屋についた。
「勇者様そして皆様、昨日はわしたちを助けてくれてありがとう。みんな久しぶりに眠ることができたわい。この恩を一生忘れない」
「冒険者ギルドのギルドマスターがあなたが僕たちに話したいことがあると聞きましたが」
「そうだった。わしはあの洞窟で魔族が話していたことを思いだしたのだ。勇者様がこれから魔王城に行くかもしれんから、話しておこうと思ってな」
(僕は魔族にも魔王にも魔王城にもまったく興味ないけどな)
僕はそんなことを考えていても口にするはずもなかった。
「どういう話ですか?」
「あの女の魔族と部下が話した話だが、魔王が『消滅魔法』という古の魔法を蘇るつもりだと言っていた。魔王が人間をこの世界から滅亡させると言っていたみたいだ」
「どういう魔法かわかりますか?」僕はアニーとパスカルをちらっと見たけど、二人とも首を傾げた。この魔法のことを知らないみたいだ。
「わしは小さい頃、消滅魔法の伝承を聞いたことがある。消滅魔法は特定の場所から特定のものを消滅することができる魔法だそうだが、わしが知っているのはそれぐらいだ。ずっと昔にあった魔法だから、もう存在しないだろうが」
「どんな場所でも特定のものを消滅できるんですか?どんなものでも?」
「さあ、わしにもわからん。魔王がその魔法を使って人間を滅亡させると言っていたみたいだから、魔王が一番詳しいかもしれんな」
「なるほど。僕たちに話したいことはそれだけですか」
「人間が魔王に滅亡されるまえに勇者様に魔王を討伐してもらいたいのだ。勇者様、どうか人類を助けてください」
「・・頑張りますよ」いきなり重役を押し付けられてしまった。僕たちは勇者じゃないから、本物の勇者たちに言ってほしいものだ。
僕たちは長老がいる宿を出て、街に向かった。今日から3日間、僕たちは自由行動する予定だ。僕は長老の話を聞いた後、ずっと消滅魔法のことを考えていた。街で特にしたいことがないし、アニーにお菓子を奢ったら、街の図書館と本屋で調べてみるとしよう。
「パスカルとアニーは『消滅魔法』を知っている?」
「聞いたことない~」
「私も聞いたことがありません。でも魔王が本当にそう言っていたなら、実在しているでしょうね」
「二人とも聞いたことないのか。特定の場所から特定のものを消す魔法か。あの長老の説明だけだと、普通にどこにもあるような魔法だけど、他の魔法とは何が違うんだろうな」
「ものを消す魔法というと除去魔法とかかな〜それなら知っているよ〜例えば汚れを消すとか、ニキビを消すとか。あと浄化魔法かな~空気をきれいにするとか、川をきれいにするとか」
「そうか。でも長老が言っていたのともっと規模が違うような魔法だったな。人間を滅亡させる魔法って言っていた。だったらめちゃくちゃ莫大な魔法だと思うけどね。まあ魔王にとって人間がただの汚れだと思っているなら、アニーが言っていた魔法と同じ魔法かもしれないけど」
「ビアンコはかなり興味を持っているわね、あの消滅魔法のこと」セシルは聞いてきた。
「まあな、聞いたことがないし、人間をあの魔法で滅亡させるとか言っていた。本当にあの魔法があったら、人類はやばいだろう?さすがに興味が湧くよ。むしろ長老が魔族から聞いた話はものすごく大事なことじゃないか。あの魔法が本当にあってそれで魔王に使われたら、人類は一発で終わりじゃないか」
「黒魔術の可能性はないかな?なんだか危険そうな魔法だし」フィルは言った。
「黒魔術か。そうだね。ほとんどの国で黒魔術は禁止されているけど、どこかにまだ残っている可能性もあるよね」
(特定の場所から特定のものを消滅する魔法か・・もしかして僕の中のものも・・?僕の役にたてる魔法かもしれない。これからずっといろんなところに旅するから、あの『消滅魔法』のことをできるだけ情報を収集してみよう)




