ビアンコ22歳 魔物討伐依頼 pt.5
僕たちが四本の分かれ道でこの人たちを落ち着かせている間に、僕はもう一つやらなければならないことをしようと思った。それはオークの残骸を処分することだった。そのままにしておくと、他の魔物がまたテロウ山間部を巣にしてしまうかもしれない。
僕はアニーと一緒にオークの残骸の処分のために山間部に出ていった。アニーには浮遊魔法を使ってオークの残骸を麓の外の平原まで運んでもらいたかったからだ。こんないやな作業はできればアニーにさせたくなかったけど、オークが百匹近くいたから、僕が一体ずつ処分するとものすごく手間だし今日中に終わらないかもしれない。それに麓の中でやると火が周りの木々に移って森自体が燃えてしまう可能性もある。アニーにお願いしてみたら喜んでこのいやな作業を引き受けてくれた。
アニーが麓の中から麓の外の平原まで何周も行き来していて、オークの残骸を運んでくれた。僕は平原でアニーが運んできてくれたオークをひたすら燃やしていた。僕が火魔法と風魔法で炎を作ってオークに残骸を燃やすのは簡単だったけど、アニーにとってかなり重労働だったと思う。街に戻ったら、アニーが満足するまでお菓子を奢ろうと決めた。このオーク残骸の処分作業は一時間ぐらいかかった。
すべてのオークの残骸を処分した後、僕とアニーはまた麓に入って、4本の分かれ道に戻った。捕虜にされた人たちは落ち着いてきたように見えた。
「みなさん、太陽がだんだん落ちてきましたから、そろそろ出発しましょう」僕は人間たちに声をかけた。
森の中でずっと魔族とオークと戦っていたから、時間の経過にまったく気づかなかったけど、さっき麓の外の平原まで出たら、太陽が落ちてきているのがわかった。この人たちも連れて街に行かないといけない。テロウ山間部は僕たちだけで片道二時間かかるところだから、この人たちもいると三、四時間かかるかもしれない。そうすると、今夜ここに泊まるか、街に戻る途中のどこかで野宿するかということになってしまうかもしれないし、遅い時間に街に到着してしまうかもしれない。僕たちだけなら別にどっちもいいけど、この人間たちがいるといろいろ不便だ。それにこの人たちだってもうこんなところに泊まりたくないんだろう。
この人たちは僕についてそろそろと麓の道に出てきた。この人たちは長い間魔族に監禁されていたから、回復魔法で体を治しても、やはり気力が失ったままだった。僕はもっと早く移動したいし、早く街に戻りたいけど、この人たちがいるから、そうはいかない。
移動の集団は、セシルとフィルは後方で歩いていて、アニーは子どもたちと一緒に歩いていて、僕とパスカルは前方を歩いた。街に向かっている途中にパスカルはこの人たちから事情を聞きだした。僕はあまりこの人たちのことに興味がないから、ほとんどパスカルに丸投げした。
「どうして皆さんは魔族に捕まったのですか?いったい何があったのですか」
「わしたちはこのテロウ山間部近くの村に住んでいたんだ。2ヵ月前にあいつらが村に突然現れた。あの女の魔族たちだ。あいつらはわしたちの家を燃やして、ここに連れてきたんだ。怖くて怖くて・・」
「あいつらは人間を食料にするとか言っていたんです・・」
「わしはこんな老いぼれだから、あいつらが興味なかった・・おかげで助かったが、他の若いのが・・」
「魔族の拠点を作るとか言っていました・・」
「他の村の人がどんどんあの洞窟から連れ出されて、全然戻ってこなくて・・シク」この人たちはだんだんすすり泣き始めた。
「逃げ出した人もいたんです・・その人たちは全然戻ってこなかった・・逃げ切れたらよかったんだけど・・」
「あと少ししたら・・おそらく俺たちも・・」
「どうしてオークもあそこにいたのかわかりますか?」
「最初から魔族といたんです。私たちの村を襲ったときもいたんです・・」
「村の一番強い人がオークにやられたんです・・・」
「そうでしたか・・村に何人いましたか?」
「百人ぐらいでした・・・今は・・これだけ・・シクシク・・」
「私たちはこれからどうすればいいでしょうか・・・」
「もう帰る場所がない・・」
「それについては、冒険者ギルドに相談してみましょう。民が魔族に襲われたから、国が助けてくれると思いますよ。安心してください」僕は微笑んで答えた。この人たちの住む場所については僕たちがなんとかすることじゃない。
「そうですか・・あの魔族は強かったです。魔族が話しているのが聞こえたんです。ほかに冒険者が来ていたみたいですけど、あの女の魔族が片づけたとか言っていたんです」音信不通になったBランクとCランクの冒険者か。運が悪かったな、可哀そうに。
「でもあなたたちはあの魔族を倒したんですね・・。まるで勇者様みたいです」勇者ねー
「あなたたちは勇者様ですよね?あんなに強い魔族を倒したんだもの」勇者ねー
「勇者様、助けてくれて本当にありがとうございました」
「えーと、僕たちは勇者ではありませんよ。ただの冒険者です。僕たちは冒険者パーティー『冬の精霊』です。勇者ではありません」
「はい!勇者様ご一行の『冬の精霊』ですね!」
「・・・・」僕は困った顔でパスカルを見た。パスカルも苦笑いした。
「まあ、皆さんは長い間、ひどい目に遭ってきましたから、今は良しとしましょう」
「うん、そうだな・・」
僕たち『冬の精霊』がテロウ山間部に来たときは二時間かかったけど、帰りはこの人間たちもいたから、そのせいで三時間もかかり、日がすでに暮れた頃に街に着いた。すぐに冒険者ギルドに行ってギルドマスターに報告して、村の人たちを保護してもらった。
「ま、魔族!?本当なのか!?魔族もいたのか!?」冒険者ギルドのギルドマスターは目を瞠った。魔族もいたから、こういう反応になるよな。
「はい、オークが百匹近くいて、魔族が18体と魔族のボス1体いました」
「ギルドマスター、村一つが襲われたのに誰も気付かなかったのですか?」
「テロウ山間部がここから遠いし、それにあそこに関する依頼が今までほぼなかったから、情報がまったく入ってこなかったんだ。そもそもあの村のこと自体、あまり知られていないんじゃないかな。俺もなんとなく存在を知っているだけで、詳しく知らないんだ」
「だから標的にされたんだろうな。襲っても誰にもバレないから」
「おまえたちがいて本当に助かったよ。本当にありがとう。魔族のことは冒険者ギルド本部に早速報告しなければならない。本部の指示が来るまで、村の人たちは冒険者ギルドが保護する」
「よろしくお願いします」
「本当に助かった。おまえたちがこの街に来てよかったよ。依頼を受けてくれてありがとうよ。討伐の報酬を準備するから明日の朝また来てくれ。魔族もいたんだから、結構な額だと思うぞ」




