現在 怪しい廃墟屋敷 pt.2
僕は日記をもとの場所に置いた。この実験室の持ち主は黒魔法師の可能性があるから、たくさん魔導書があるかもしれない。そして僕の目当ての魔導書があるかもしれない。そう思って僕は魔導書をさっと読んだ。魔導書は10冊あって、僕は順番に読んでいった。『大魔法の時代』『古代魔法と現代魔法』『治癒魔法の使い方』『古代人間はどうやって魔法を作ったのか』『魔力の説明書』『魔力の高め方』と言った魔導書で、2階の書斎と同じく僕にとって特に知りたいことが書かれていない。
僕は若干諦めながら、10冊目の魔導書『古代魔法集』をめくっていくと、そこに『抹消魔法』という魔法が書いてあり、僕はドキッとした。
この魔導書『古代魔法集』では『抹消魔法』は特定の物体の中の物を完全に消去する魔法。古に使われていた魔法だが、魔力量の調整が少しでも間違ったら魔法師も対象物体も死ぬもしくは消滅してしまう。使用範囲が広ければ広いほど魔力が大量に消費される。長所と効果が低いのに対して大量の魔力を使う上に危険度が高いため、いつのまにか使われなくなり、幻の魔法となった。
(『消滅魔法』の効果は似たような魔法だな。呼び名だけ違っていて実は同じ魔法か?うん、ありえるかも)
「ねぇ~ここはもう何もないみたいし、そろそろ行く~?」
「ビアンコ、どうする?」
「そうだな、もうそろそろ行こうか。できれば今日中にケルレナ街に到着したいしね」僕は言いながらこの魔導書をこっそり自分のマジックバッグに入れた。
僕は廃墟の建物を出て、またケルレナに向かった。建物を出たときは、太陽が若干西に傾き始めた。あの建物にちょっと時間をかけすぎたかもしれない。今日中にはケルレナ街に着かないかもしれない。
それにしても周りの風景は似たようなものばかりだった。野原、岩、林、野原、岩、林のものばかりで、歩いても歩いても進んでいないような気がしてくる。
(みんな疲れているみたいだし、そろそろ休憩したほうがいいな)
「そろそろ日が暮れる~今日も野宿か~」
「結構歩いたのに、全然街の気配がないわね」
「じゃちょうどいいところがあったら、今日はあそこに泊まっちゃう?なんか疲れてきた~」
「賛成です。今日は朝からずっと歩いたし、そろそろ限界かもしれません」
「俺も賛成!」
「じゃちょうどいいところが見つかったら、今日はそこに泊まろう」
僕たちは1時間ぐらい歩いて、やっと僕たちの休憩所を見つけた。
「あっ!あの岩のところ、ちょうどいいじゃない!?」
「そこにしよう。もう無理。無理無理無理」
「そうですね~賛成です」
「俺も賛成!もう無理!」
僕たちは岩のところに着くと、他のメンバーはまっすぐに岩の下に倒れこんだ。
(今日は昼ごはんとあの建物以外でまったく休んでいなかったもんな。今日の僕はリーダーとしてダメだった。魔導書に気を取られすぎたかもしれない)
「本当はずーーーっと前から疲れてきたけど、あとちょっとで着くかも、我慢しようと思ったの~でもまったく着かなかったんだよね~結局全然休憩していなかったし~」
「わかるわ。私もなの。だって野宿より宿のほうがいいからね〜。結局野宿になったけど。すっごく疲れた~」
「明日からちゃんと休憩を入れましょう。無理やりして途中魔物と魔族に遭ってしまったら大変ですから」パスカルは言いながら、みんなに回復魔法をかけている。本当にいつも助かる。
「そうだな。僕は反省しているよ。もっと休憩を入れるべきだった。明日ちゃんと休憩しよう」僕は話しながら、マジックバッグから食材と調味料を出して、火魔法で火を熾して、夕食を準備しはじめた。
「いつもいつもパスカルが回復魔法をかけてくれて、助かる~」
「私は戦闘系魔法師ではありませんから、こういう時じゃないとなかなか魔法を使う機会がありませんからね」
冒険者のご飯は冒険者用の携帯食の固いご飯と固い肉だけで、まずいものだ。おいしいものだと荷物になるし邪魔だから、冒険者はいつもそんなまずいもので我慢する。それにほとんどの冒険者は誰も野宿をしたくない。ちゃんと体を洗って寝床で寝るほうが気持ちいいし、ちゃんとおいしくて暖かいご飯も食べたい。
僕たちの場合はマジックバッグのおかげで他の冒険者より少しマシなものを食べられる。でも味付けはだいたい塩だけだし、調理は焼くだけだから、毎食同じものを食べるとさすがに飽きる。僕たちの食事は他の冒険者よりずっといいし、別にまずくはないけど、おいしいともはっきりと言えない。
メンバーが早く街に到着したい気持ちもよくわかる。僕もできれば宿に泊まりたい。ちゃんとしたご飯を食べたい。でも休憩を無視したら逆に良くない。パスカルがいう通り、疲れ切った状態で万が一魔物や魔族に遭遇してしまったら大変だ。パスカルに回復魔法をかけてもらえるけど、でもそれは体を回復させるのであって、頭の回転まで回復できないのだ。体も頭も精神状態もいい状態に保たなければならないのだ。僕は本当に反省している。明日からは一定の時間に休憩を入れよう。
ちなみに僕たちが使っているマジックバッグはとてもレアなアイテムの小さなバッグのことだ。僕が以前たまたま入手した代物だ。何個か持っていたから、他のメンバーにもあげた。小さい袋のようなものだけど、たくさんのものが入るから、僕たち『冬の精霊』はこのマジックバッグのおかげで他の冒険者パーティーより身軽だ。でも完全に荷物がないわけじゃない。大きいものはマジックバッグに入らないから、普通に持たないといけない。重いものは重いのだ。
僕が夕食の準備が終わってみんなと一緒に夕食を食べているとき、セシルが突然僕にこんなことを僕に聞いた。
「ビアンコ、あの建物にいたとき、熱心に本を読んでいたけど、何の本だったの?」僕はドキッとした。夢中になりすぎて周りを忘れていたかな。
「魔導書だったよ。あんなところにあったものだから、おもしろいものがあるかもと思ったけど」僕は平然と答えた。
「おもしろかった?」
「うーん、本屋にもあるようなものばかりだったな。『魔法の説明書』とか『魔法と文化』とか『魔法の歴史』とか。こういう魔導書は本屋にいっぱいあるじゃん。興味をそそるようなものがなかったな」
「そうか〜確かにあんな気味悪いところだと、『禁断魔法の使い方』って魔導書があってもおかしくなさそうだけどね」セシルは眉間に皺を寄せて話した。
「僕もそう思ったよ。それを期待して読んでみたら、普通の魔導書ばかりだった」
「蘇生魔法だっけ?あんなものがあるわけないのに、人間を実験体で使ったなんてひどいよな」
「あーよくあんな魔法を考え出したものだ」僕には文句を言う資格がないけど。
「そういえば、最近ビアンコは魔導書に興味を持っていますね?どうしたのですか?」今度はパスカルが言ってきた。このメンバーは時々僕の虚を突くから、ドキッとする。
「うーん、特に理由はないけどね。去年オリアンヌ街で聞いた『消滅魔法』って魔法があったじゃん。パスカルもアニーも聞いたことない魔法だったみたいだし、かなりやばい魔法みたいだから、つい覚えちゃったんだよね。それでどんな魔法なのか知りたくなったんだ」
「あーーあれですか?そうでしたね。あの村の長老ぐらいしか聞いたことないみたいですしね」
「だろう?魔王城に向かう途中に何かわかればいいなって思ってさ」
「オリアンヌか~懐かしいね~~」
「ね〜あの時、大変だったよね。あんな依頼は二度と極力遠慮したいわね」
「俺、二度とあんな依頼はごめんだ」
「それはみんなもそう思っていますよ、フィル」




