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ゴミ箱
寝不足だろうが仕事はある。
クソが。
クソみてえなコンディションでの出勤中、ゲロを吐くゴミ箱と遭遇した。
あっちへふらふら、こっちへふらふらしながら駅の構内にゲロを吐いていた。
清掃員さんが日頃丁寧に集めているというのに、全ての努力が水の泡である。
体を折り曲げて中身を全て吐き出しているゴミ箱は、やがてごろりと手首を吐き出した。
きつく拳を握った形で固まっている、青黒い色の皮膚をした右手である。
ゴミ箱は右手を吐き出してから、じっと周囲を伺うように立ち止まって、それきり動かなくなった。
誰も通報しなかった。誰も通報しなかったし、駅員も呼ばなかったし、面倒くさそうにゴミ箱を避けて、立ち止まったやつは突き飛ばして進んでいた。
時間が悪いよ、時間が。
通勤ラッシュど真ん中だぞ。進まないやつは鞄で殴られても文句を言えない修羅の軍団だぞ。
かくいう俺も特に眺めるだけで終わった。
帰宅の際にはゴミ箱はすっかり元の位置に戻っていた。




