実家
実家に行った。
生肉がいなくなったからである。
バカと一緒に行った。
理由はない。
我が家は形状記憶呪物系一軒家なので、燃え尽きたとしても幻覚作用として以前の家が保たれている。
誰かが一人でもあれを家だと認識していればそうなる。
俺が代表して、一刻も早く燃え滓のゴミだと思ってやらねばなるまい。
でも、まあ、燃え滓のゴミに住んでるのは可哀想だろ。
流石に。
要らん一般人を巻き込んでいるだけ時点で可哀想もクソもないが、そもそもひとんちに入らなきゃいいのである程度は自己責任である。
親とか何も言わねーのか。人様んちに入ったら不法侵入なんだよ、クソみてえな真似はやめようね、って言ってやらねえのか。
生肉がなんとかしてやったらしく、巻き込まれたやつは無事だった。
首と胴体が離れて置いてあることを無事と言っていいかは迷ったが、くっつけたら戻ったからまあ無事だった。無事だ。いいか。無事なんだよ。
代わりに生肉はぜんぜん無事ではなかった。
この世に同じ人間がふたり存在してはいけないのだ。
そんなことはみんな誰に言われるでも知っている。
ドッペルゲンガーがどうだとかこうだとか、そういう話ではない。
見れば分かる。
俺は生肉を生肉と呼んだが、█が認めずとも█であるように、生肉を生肉と認めたとしても、あれが真に生肉で居続けることは叶わなかった。
その結果がこれだ。
あれは生肉でも█でもないものになった。
俺が形を与えられないものになった。
同時に、この家はもう二度と誰かを呼ぶこともなくなった。
コトナミさんのお家で好き放題できるのは、コトナミさんだけだからである。
あれはもう何でもなくなった。訳が分からん。
原材料は同じなのに混ぜると違うものになるのなんで? 謎すぎない?
人の肉と皮で出来たウミウシみたいなそいつは、のんびりと家の中を散歩していた。
もう何も覚えていないみたいだった。
俺はきっと生肉に怒るべきなんだろう。
余計なことしやがって、と。
いや。
違うな。
叱るべきなんだろう。
勝手なことしやがって、ふざけんじゃねえぞと。
何処ぞの知らねえガキが死んだってそんな気にしねえよ。
ちょっと後味悪いな、くらいだろうが。
なんでわざわざ知らねえガキを助けるのに命張る必要があるんだよ。意味分かんねえな。
仕方がないので、俺はうん年ぶりに専門家に連絡をした。
は?
全然連絡つかん。
十六回くらい掛け直した。
「もしもし、弟と生肉を引き剥がしたいんですがどうにかなりませんか」
『君も大概説明をしないな』
「弟と生肉を引き剥がしたいんですけどどうすればいいですか」
『剥がした後はどっちを選ぶんだ?』
「……………………」
『どちらもは無理だ。君も分かってると思うが』
「……でしょうね」
『じゃあ、俺が着くまでには決めておいてくれ』
呑気なウミウシは、のんびりと階段を下りている。




