【夢】
掃除をしていたら、小学生の時に書いた作文が出てきた。
引っ越しの時に、母さんが今の部屋にも持ってきていたらしい。
わざわざとっておく必要ないだろうに、とは思いつつ、懐かしくなって目を通した。
その作文によると、僕の将来の夢は『ひこうきを作る人になること』だったらしい。
今となっては欠片も頭にない夢なので、きっとドラマかニュースか、何かテレビの影響だったのだろう。
現在の僕は、とにかくお金になる仕事に就きたかった。
しかして残念ながら、そういう職につくには大抵、そこに至るまでにお金がかかってしまうものだ。
呉宮家から貰ったお金は、目的も何もない僕の進学先よりも、妹の学費や生活費に回すべきである。
ただ、高卒で働くとなると僕には何も向いていることがなかった。接客も苦手だし、営業なんてもっと苦手だ。
一体どうすればいいのだろう、と悩みを抱えて訪ねた僕に、琴浪は吐き捨てるように言った。
「は? 向いてることを仕事にしてるやつなんざほとんど居ねえが?」
琴浪は続ける。
「大抵の人間は自分の中でまだこれはマシかもなってもんをなんとかこなして生きてんだよ。そこにクソみてえな上司とかクソみてえなクライアントクソみてえな客だとかクソみてえな下請けだとかクソみてえな親会社だとか色んなもんとクソみてえな社長とかクソみてえなパーティが混ざって互いにクソだと思いつつちょっとした休みにささやかな楽しみを噛み締めるためにやってんだよ、甘ったれんなバカが。つーか向いてることねえなら尚更大学出とけバカが。もしくは資格取れバカが」
穴だらけのスウェットでベッドに寝転んだまま、琴浪は言った。
とてもささやかな楽しみを享受しているとは思えない顔で言った。
「次にそのクソアホな面でバカなこと言ってみろ、お前を代わりに出社させるぞ」
琴浪は先程まで社長が主催するパーティ?の使いをしていたので、随分と機嫌が悪かった。もう言いません、と答えても特に興味はなさそうである。
生肉は、座った僕を囲むようにしてくるくると周りを走っていた。
とちとちと響く粘質な足音を聴きながら、僕はただ沈黙を埋めるためだけの問いを口にした。
「琴浪は、無かったんですか。将来の夢」
「無い」
断固とした響きだった。
絶対に、と頭につきそうなほどの声音だった。
だからきっと、あるのだろう。
そしてなくなってしまったのだ。
きっと。
立ち止まった生肉が、ただじっと琴浪を見つめていた。




