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寸借詐欺
改札前に、腰の曲がったジジイが立っていた。
ジジイはなんとも哀れな様子で、『帰れないところまで来てしまったから、ちょっとだけ貸して欲しい』と道ゆく人に頼んでいる。
終電前という時間帯なので、大抵の人間は疲れ切って相手にしていないようだった。
俺は疲れ切りすぎて改札を通れないバグが発生しているだけなので、当然ジジイの相手はしなかった。
五分ほどバグと戦っていると、酔った大学生らしき集団が、ジジイに「いくら欲しいんだよ」と絡み始めた。
「ちょっとだけで良いんだよ」と繰り返すジジイを五人組は最初けらけら笑いながら揶揄っていたが、じきに飽きたのか、「しょうがねえからやるよ」と百円玉を投げた。
同時に、ジジイは笑顔になった。
「五年」
ジジイはそれだけ言い残して、消えた。
誰もいなかった。ちょうど、瞬きの間にいなくなった。
酔いは覚めたらしい。
五人組はなんだか気まずそうにしながら改札を出て行った。
五年で何処まで帰るつもりなんだろうな。
というか、五年はちょっとではねえよ。
まあ、出した方が悪いので仕方ないね。




