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XXX日後に呪われるだけの誰かさんの日記  作者: 寝舟はやせ
日記
28/97


 傘が歩いているのを見かけた。

 土砂降りの中ひとりで何とか進んでいるもんだから、何となく不憫に思って声をかけた。

 なんか、骨とか折れてるし。

 頑張ってるもんだから。


 コマイケ タイガくんとやらに会いに行きたいんだそうだ。

 タイガくんのところには三年ぐらい居て、婆ちゃんが買ってやったとかで、大事にしてくれてたのに一月くらい前の雨の日に盗まれて、そっからすぐに骨が折れたので捨てられてしまったんだそうだ。


 お婆ちゃんが選んだというだけあって、それなりに上等な傘だった。数年で意思を持っても不思議ではない程度には。


 傘はお利口なことにタイガくんの家を覚えていたので、無事に辿り着くことはできた。庭付きの古風な一軒家である。

 問題は、俺がどんな理由で訪ねた用件を伝えれば良いかはさっぱり分からないことだった。


 色々と面倒になったので、適当に庭にぶん投げようかとも思った。

 躊躇ったのは、ボロボロの傘は放り捨てられていると尚更ゴミにしか見えない、という点からだった。


 一月前に失くしたのだ。タイガくんとやらもとっくに新しい傘を買っているだろう。

 骨の折れた擦り切れた傘が戻ってきたからと言って、はたして喜んで受け入れるだろうか。

 受け取ったとして、そのあとゴミに出されないと言い切れるだろうか。


 今更ながら、拾ったことを後悔し始めていた。

 どう言えば傘が傷つかないかも分からない。そもそもなんで傘なんぞに気を遣わにゃならないのかも分からない。


 門に立て掛けて帰ろうかな、と思ったところで、声をかけられた。

 学ランの中学生だった。『うちに何か用ですか』と、明らかに不審者を見る目で言われた。

 無理もない。完全に不審者だからな。


 傘が小声で呼んだので、中学生はタイガくんだと分かった。

 タイガくんは、真新しいビニ傘を差していた。


 愛想笑いを浮かべても全く警戒心が解けないので、仕方なくバキボキの傘を差し出した。

 これが落ちてるのを見かけて、柄に名前シールがあった(誤魔化してる最中に気づいた)から、もしかしたらお宅の傘じゃないかと思って、と伝えると、タイガくんは戸惑った様子だが丁寧な手つきで傘を受け取った。


 言い訳としては大分穴だらけである。名前だけで特定して持ってきたら逆に怪しむべきだ。

 ただまあ、この傘は正真正銘タイガくんが取り戻したかった物のようだし、俺は事実、親切として届けに来ただけだ。

 お婆ちゃんから貰った傘を大事にするような良い子のタイガくんとしては、飲み込まざるを得ない話になったようだった。

 良かった。精々詐欺とか気をつけろよ。


 どうやらマジで心からの礼を言っているらしいので、ついでに近場の傘修理店も伝えておいた。

 だって傘のやつ、満足そうにお別れの言葉とか吐いてやがるし。俺がわざわざこんな土砂降りの日に裾をずぶ濡れにしてまで親切を働いてやったのに秒で諦めてやがるし。


 まあ、タイガくんの様子からすると捨てられるような心配はなさそうだった。

 よかったね。



 

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