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未知の肉を求めて(前)

ありがたくもリクエストをいただいたので、三話投稿します。(∩´∀`)∩

「ドラゴンの肉、食べてみたい」


 思わずといった様子で呟かれたセシルの声に、その場にいた全員がセシルへと視線を向けた。とある日の午後、今日もセシルは執務をしているレオを描いており、レオは地方を統括する部門の長から報告を受けていたのだ。国の南にドラゴンが出没し、被害が出ていると。


 ドラゴンは基本的に山奥や火山の麓に群れで住み、人里に降りることはない。だが時たま群れからはぐれたドラゴンが集落に近づき、畑を荒らしたり人を襲ったりすることがある。その時は討伐するのだ。

 肉に興味を示したセシルに、レオはため息を返す。


「お前……肉なら何でもいいのか」


 顔をセシルの方に向ければ長い銀糸の髪がさらりと肩を流れ落ちる。呆れ顔さえも美しく、セシルはこの構図もいいわと頭の片隅にメモをする。聞かれていたことは少し恥ずかしいが、今さら取り繕ってもしかたがないので「だって」と口を開いた。


「いろいろな魔物や動物の肉を食べてきたけど、まだドラゴンはないもの。肉好きとして試したくなるじゃない」


 その発言に、全員の頭の中にセシルの異名である「肉乙女」という単語が浮かんだ。


「……いや、そもそも食べられるのか?」


 ドラゴン自体が珍しいうえ、その肉は一般的ではない。レオの疑問に隣で補佐をしていたジルバがあごに手をやって、「そうですね」と難しそうな顔をする。


「火山に近い村ではドラゴンの料理があるとも聞きますし、食べられなくはないのでしょう」


 そこにちょうど書類を届けに来ていたガランがひげをピクピクさせて、渋い顔を作った。


「前に一度食べたけど、筋張っていてすごく硬かったんだよね……食べるなら、下準備がけっこういるかも」

「そうなんだ。でも、食べられるんでしょ? 丸焼きは無理そうだけど、熟成ステーキでもいいわ」


 食べられると聞いてセシルの目は輝く。セシルはドラゴンの肉が食べたいのであって、味は二の次のようだ。そして周りは丸焼きがよかったのかと、乾いた笑みを浮かべていた。放っておけばセシルの肉語りが始まるので、ジルバが具体的な話を進めていく。


「では、討伐隊を派遣して肉を持ち帰ってもらいましょうか」

「え、行っちゃだめ? ドラゴンをスケッチしたいんだけど」

「セシルさん……危ないですよ。隊を組んで一匹仕留めるのがやっとなんですから」


 ジルバが静かに首を横に振ると、セシルは唇を尖らせて「でもぉ」と言葉を返す。


「ドラゴンのスケッチがあれば、今後レオ様と一緒に描くこともできるわ。それに絵本にだってドラゴンを登場させられるのよ」


 ドラゴンを描いた絵は城内にもいくつかあるが、角度が固定されているのでやはり実物が見たい。できるなら戦っている様子も見たいとセシルが訴えれば、ガランとジルバが悩ましそうな顔をした。


「確かにレオ様とドラゴンはいい絵になるだろうね」

「見たくないといえば嘘になります。そうなれば、護衛を増やさないといけませんが……」


 ジルバが部屋の隅に控えていたユリアに視線を向けると、心得たとユリアは頭を軽く下げた。するとそこに、おもしろくなさそうなレオの声が割って入る。


「俺が行く。それなら討伐の戦力も護衛も問題ないだろう」


 すでにセシルとの仲は公になっており、誰も疑問を挟まず「なら具体的に」と日程と人数が決まっていった。流れるように話が進み、ドラゴン討伐はレオ、ジルバ、ユリア、ガランにセシルといういつものメンバーとなった。ドラゴンのことを報告した男は「過剰戦力ですね」と顔を引きつらせていたが、セシルとの楽しい旅行を譲るものはいなかったのである。


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