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妖艶な魔女

番外編、始めます(*'▽') 不定期です。

 セシルとレオが恋人同士になり、三か月が経った頃。冬の寒さが緩んできて、春を感じさせる陽気となった。今日は休日で、セシルはレオとガランの絵を描いている。二人は一人がけ用のソファーに座り、斜めに向かい合う形で話していた。仕事ではないので、クッキーを食べたり、おしゃべりしたりと気ままに筆を進めている。


「セシルさん。春が来たら、アルシエルの風景画を描いてもらうために小旅行をしてもいいね」


「あ、それいいですね。私、王都以外知りませんし」


「ついでに俺も各地の視察をする」


「え、レオ様もいらっしゃるんですか?」


「当然だろ」


 わいわいとおしゃべりは進み、セシルは春を楽しみに思いながら筆を持ち替えて仕上げにかかった。父親であるトラストに技術を指導してもらったおかげで、レオの髪やガランの毛並みを表現する腕があがっている。トラストは既存の絵具に別の素材を混ぜて、微妙に艶や透明度が違う絵具を作り出す技術に長けていた。


 そして話はアルシエルの名所へと移った時、ひかえめなノックの音が聞こえた。ガランが返事をすると、静かにドアが開かれ侍女が礼をして入ってくる。ちらりとガランに視線を向けてから、魔王に向かって頭を下げた。


「レオ様、お客人でございます」


「……誰だ。予定にはなかったはずだが」


「はい……ララ様でございます」


「え? ララ?」


 その名前に反応したのはガランで、髭をピンと伸ばしてからヒクヒクと動かす。魔力を感じ取ったのか、ほんとだと呟いた。


(えっと……ララさんって確か、ガランさんの彼女よね)


 一度ガランに馴れ初めを聞いたことがあり、それ以来会ってみたいと思っていたのだ。セシルは筆を置き、会えるのかしらと期待した眼差しをレオに向ける。


「連れて来い」


 セシルの期待が伝わったのかは分からないが、レオはそう侍女に指示をした。侍女が「かしこまりました」と答えて部屋を出て行ったところで、レオはソワソワとしっぽを揺らしているガランへと顔を向け尋ねた。


「ガラン、何か訊いているか?」


「……いえ。たぶん、気まぐれだと思います」


「……だろうな」


 二人は何とも言えない微妙な空気になったが、勢いよく開いたドアの音に顔を上げた。セシルも驚いて顔をドアへと向ける。


「ガラン、レオ様。会いに来たわよ!」


 ドアを開けて仁王立ちをしているのは、目が釘付けになる美女だった。すぐに来たということは、近くで待機していたのだろう。


 背が高く、体の曲線を美しく表すシルクのワンピースは、ワインレッド。自分の体が宝石と言わんばかりに、一切装飾はない。素晴らしいデコルテで、豊満な胸が作り出す谷間にセシルは圧倒された。金糸のような髪は短く、首筋で切りそろえられている。目力が強く、灰色の瞳には自信が溢れていた。紅が引かれた唇は弧を描き、妖艶な雰囲気を醸し出す。歳はガランと同じくらいのはずなのに、若く見えた。だが大人の魅力は溢れており、しっとりとした色気がある。


(すごい……魔女だ)


 人間が想像する魔女のイメージをそのまま体現したような人だった。彼女は高いヒールを履いていて、誘うような腰つきで歩いてくる。


「レオ様~。うちのガラン、ちゃんと働いてます?」


「……あぁ。よくやってくれている」


「それにかわいい恋人ができたんですって? なんですぐに教えてくれなかったんですか。居ても立っても居られなくなって、飛んできましたわ!」


 よく通る声でハキハキと話す。顔が整っていることもあって、迫力がすごい。珍しくレオが押され気味だった。ララはそこまで言うと、カッと目を見開いて二人の向かい、キャンバスの裏に座っているセシルに顔を向ける。なぜか見つかった気持ちになって、セシルはビクッと肩を震わせた。


「……レオ様。まさか、この子?」


「は、初めまして。セシルです」


「私はララよ……ふ~ん」


 ララは鋭い眼光を絵、次にセシルへと向ける。その目力に、セシルは背筋を伸ばして顔を引き締めた。


(え、レオ様に相応しくないとか、言われる!?)


 セシルの今日の服はいつも同じ、白いシャツに茶色いズボン。絵を描くために薄汚れたスモックを上から着ていて、お洒落とは無縁の格好だ。しかも化粧もしていない。

 ララはさらにセシルへと近づくと、顔を寄せてじっとセシルの顔を見つめた。至近距離で見ても素晴らしい造形で、セシルはスケッチ欲が湧いてくる。セシルが緊張した顔をしていると、ララはにこりと相好を崩し、レオ達を振り返った。


「いい子を見つけたじゃない。素直そうで、何より下手に飾り立てていないのがいいわ。それに評判通り、素敵な絵を描くのねえ」


 ララは満足したのか踵を返すと、レオ達の向かいに用意されたソファーに座った。壁際に控えていたユリアがさっと新しいソファーを用意したのだ。


「セシルちゃんも、一緒にお茶を飲みましょうよ」


「あ、はい!」


 ララの一言でもう一つソファーが追加され、セシルたちは丸テーブルを囲んでお茶をすることになった。


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