47 秘密を明かす白猫
そして夜も深まったところでお開きとなり、ジルバとユリアは魔力を使い果たして眠っているレオの様子を見に行くとレオの自室の方へと向かった。ガランが部屋まで送ると言うので、セシルは言葉に甘えて一緒に廊下を歩く。そしてほろ酔い状態で機嫌のいいガランにチラチラと視線を送り、聞いてもいいかなと伺っていると胡乱気な視線が返って来た。
「何か言いたいことがあるの?」
髭がひくひくと動き、しっぽが揺れている。白い毛並みに深緑の瞳。可愛らしいこの姿とイケているおじさんが同一人物とは思えない。
「……えっと、何でガランさんは猫の姿をしているのかなって思いまして……あちらの姿も良かったと思うのですが」
セシルが素直に気になっていることを口にすると、ガランは深々と溜息をついた。
「もう、そんなことだろうと思ったよ……別に、そんなおもしろい話でもないよ?」
「それでも知りたいです」
もしかしたら、以前酔った時に口にしていた女性と関係があるのかもしれないと、セシルの好奇心がうずうずしてきた。訊きたいが、セシルはぐっと我慢してガランの言葉を待つ。
「他の人には言ったらだめだからね」
「もちろんです」
セシルは即答し、じっと期待に目を輝かせてガランを見つめた。そんな目で見られたらガランも後には引けない。それにほろ酔いで気分もいい。諦めたように溜息をつくと、トーンを落として話し出した。
「昔、若い頃に魔女と呼ばれる女の人に恋をしたんだ。すごく美人で、魔力が強い人でね……何度も告白したけどだめでさ。いつも魔法でどっかに飛ばされてた。けど、10回目ぐらいに、猫でもいいから側に置いてって縋りついたんだよ……。いや、今思うとすごく恥ずかしいんだけど、彼女、猫が好きでいつも撫でてたからさ」
「魔女さん……」
セシルは思いがけない話が始まって、相槌を打ちながら続きを聞く。
「それで、その人は大笑いしてさ、それなら猫になればいいって僕に魔法をかけたんだ。猫になる魔法をさ。そしたらこの姿になって……きっとこうすれば諦めると思ったんだろうね。けど僕は、これで側にいられると思って嬉しくなってさ、抱き着こうとしたら魔法で飛ばされた」
ガランの一途で情熱的な面に、セシルは驚きを隠せない。いつも落ち着いて、大人の余裕を見せるガランからは想像がつかなかった。
「その魔法は一週間で切れるって言われたから、急いで魔道具屋に行って、猫化の魔法の効果を魔道具に移してもらったんだ。それがあの袋ってわけ」
その魔道具屋は猫化の魔法を研究して、ガランのために肌身離さず持って魔力を注げば効果が持続するように改良した。
「それで、私が嗅いだら猫になったんですね」
「そう……そこからはなんか、半分くらい意地になってね。今でもこの姿を貫いてる」
「今もその魔女さんに会うんですか?」
そう何気なく訊いたところ、ガランは髭をひくつかせて間を置く。
「……今は恋人だよ」
「え、すごい」
「猫の姿になって20年くらい経ったころに、根負けしたって言って、告白を受けてくれた」
「ということは、20年間ずっと一途に?」
セシルからすれば恋の大先輩だ。ただの可愛い癒しの白猫と思っていたのに、思わぬ一面があった。ガランは少し照れたのか髭を動かし、鼻に皺を寄せた。
「まぁ、引けなくて……」
「それで、今どれぐらいつきあってるんですか?」
セシルは興味津々で、恋バナモードになってきた。
「……もうすぐ20年くらい」
「かっこいい」
それは率直なセシルの感想で、少し感動してしまった。まさか猫の姿にそんな胸に迫る話が隠されているとは思わず、絵の構図が次々と浮かんでしまった。
「絶対素敵な絵にしますからね」
「ちょっと待って、なんでそうなったの?」
しみじみと話していたガランは驚いて目を丸くする。それに対してセシルは任せてくださいと胸を張り、自分の部屋にたどり着くと「ではまた明日」と手を振って部屋に入っていった。そして後に、レオから恋人になっても猫の姿のままでいるのは、魔女が人間の姿を独り占めしたいからだと教えてもらい、セシルはラブラブだぁとますますガランを尊敬するのだった。




