1973年8月20日 月曜日 13:21
「この食器洗浄機、音が凄いからメンテナンスした方がいいわよね。ところで、今夜の首尾は?」
「上々だよ。いやあ、まさか国際的な鬼ごっこになるとはね。どこに片付ければいい?」
「ああ、ありがとう。お皿は上の棚にお願いね。鬼ごっこ? ジェイク、あなた、そんな気楽な言葉で済ませていいの?」
「ここだね? 気楽じゃなきゃやってられないだろう? 彼女は皆へ『もう自分はオーストラリアで別の人生を歩いてる』ってことにしたいんだ。でも出くわす。それを、偶然て言葉で済ませる。さあ、エミー、君ならどう調理する?」
「調理? 材料は嘘と秘密と愛情と来たわね。どれも消化に悪そう」
「消化に悪いのは覚悟の上さ。ずっと彼女を騙している罪はわかってる。けど、最後はやっぱり、皆で送り出したいんだ。これって僕の我儘かい?」
「――我儘なもんですか! 寧ろあなたは今、南半球で一番いい男だわ! あ、カトラリーはこっちの引き出しよ」
「光栄だね! ボストンへ戻ったら北半球も制覇するんだが」
「いつ帰国するの?」
「できれば、このままここに住みたいんだ。観光ビザを延長するか、就労ビザを取得出来ないか、入国管理局に文書で問い合わせている所。これはどこ?」
「壁のラックへ引っ掛けて。そうなの? 陽気な隣人が定住するのは歓迎よ」
「ありがとう。その前に、今日のディナーだよ」
「本当に、送り迎えしなくてもいいのね?」
「もちろん。こんな日の為に右側ハンドルの運転だって練習したんだ。ボストンで」
「あら? 右ハンドルの車があったの? コーヒーを落とすわね、濃い目で」
「ありがとう。リリとの共通の友人が、日本車好きでね。カローラっていう可愛い名前の車だよ」
「よく貸してくれたわねえ!」
「リリの為だって言ったら、渋々ね。何せ女王様なんだ、僕達の」
「色んな人を魅了して回ってるわね、リリは。もちろんわたしもよ!」
「そうだろうとも。美人なだけでなく、性格もいいからね。僕の奥様は」
――ねえ、二人、何の話をしているの? あたしの悪口?
「リリ、マイカーの調子がいいようだね。キッチンまで来られるなんてさ。君は美人で器量良しだって話をしていたんだよ」
あらあ、そんな話なら、もっと大きな声でしてちょうだい! いつでも大歓迎よ。
コーヒー、いい匂いね。あたしもいただける?
「もちろん。でも、今夜はいつもより遅い時間のディナーなんでしょう? 今少し、休んでおかなくていい?」
大丈夫よ。コーヒーで眠れなくなるなんて、13歳までだわ!
「あら、すごいわ。わたしは18まで飲めなかったもの! じゃあキッチンでお茶にしましょうか」




