ジェイクとリリの両親の往復書簡(1973年3月~7月)、リリから親友アンへの絵ハガキ(封書にて)
宛先:ミスター、ミセス ジョンソン
差出人:ジェイク・モーリス
消印日付:1973年3月13日
親愛なる ミスター、ミセス ジョンソン様
初めまして。突然の手紙を失礼いたします。お二人の御息女、リリさんの婚約者であるジェイク・モーリスです。このような形での挨拶になり申し訳ありません。
この手紙を書くのは心苦しいのですが、リリの健康について重要なことをお伝えしなければならず、筆を取りました。どうか最後までお読みいただき、リリのことを共に考えていただければ幸いです。
リリは昨年末、マサチューセッツ総合病院で検査を受け、膵臓に進行性の腫瘍が見つかりました。医師によれば、病状はかなり進んでおり、肝臓やリンパ節にも広がっているそうです。
余命は1年程度と診断されました。現在、化学療法や痛みの管理を受けていますが、治療は症状の緩和が主で、完治は難しいとのことです。
リリは、お二人を悲しませたくないという強い思いから、このことを両親に話さないでほしいと望んでいます。彼女の優しさと気遣いは、いつも変わりません。
しかし、私は彼女の婚約者として、傍で彼女の痛みや疲れを見てきました。リリは私に黙っているよう頼みましたが、彼女がこれから必要とする支えを考えると、皆さんに知っていただくべきだと考えます。
リリは強い女性です。ですが、今、彼女には家族の愛と支えが何よりも必要です。彼女は8月、オーストラリアへの旅行を計画しています。私達は、その旅先で結婚することを約束しています。そして、彼女はそこで最後を迎えるつもりでいます。
彼女の「最後の思い出」を大切にしたい気持ちを尊重しつつ、お二人が傍にいてくれることで、彼女の心がどれほど安らぐかと私は考えます。
どうか、この手紙をリリに知らせないでください。彼女の意向を無視した私の行動を、彼女が知れば傷つくかもしれません。
ご質問は、いつでも私のアパート(電話:617-555-9012)までご連絡ください。罵りも、お叱りの言葉も受け留めます。
リリを愛する皆さんの心に、深い敬意を込めて。
敬具
ジェイク・モーリス
追伸
これはお伝えするか迷ったのですが、私は以前個人的に、ミスタージョンソンに大変お世話になりました。
退役軍人の失業訓練プログラムのご成功を祈念しております。
宛先:ミスター ジェイク・モーリス
差出人:ロバート・ジョンソン、エリン・ジョンソン
消印日付:1973年3月20日
親愛なるジェイク様
あなたの手紙を読み、また電話でもお話を伺い、私たちは深い衝撃と悲しみに包まれました。リリの病状について教えてくれて、ありがとう。こんなつらい事実を伝えるのは、どれほど心苦しかっただろうと想像します。あなたがリリの傍で支えていることに、心から感謝します。
リリが膵臓がんで、余命が残り僅かと知り、現在私達は何も手がつかない思いです。彼女が私たちに何も話さなかったのは、きっと私たちを心配させたくないという彼女らしい優しさなのでしょう。あなたの書いた通り、リリは強い子です。でも、彼女がひとりでこんな重荷を背負っていると思うと、胸が張り裂けそうです。あなたがこのことを教えてくれたことで、私たちもリリを支える準備ができます。本当にありがとう。
リリがオーストラリアへの旅行を計画していると聞き、驚きました。彼女の「最後の思い出」を作りたいという気持ちは、彼女らしい前向きさの表れですね。私たちは、彼女の希望を尊重し、旅行のことを知らないふりをして、いつも通りに振る舞います。あなたのお願い通り、この手紙や病状の話はリリへ絶対に知らせません。彼女が自分で話したいと思うまで、待つつもりです。
これからどうやってリリを支えればいいか、正直、戸惑っています。あなたと相談しながら、リリが穏やかに過ごせるよう、できることをしたいと思います。もし私たちにできることがあれば、いつでも教えてください。あなたのアパートに連絡しますし、必要なら病院の先生やソーシャルワーカーの方ともお話ししたいです。ジェイク、あなたはリリの大切な人です。彼女を愛し、守ろうとしているあなたの気持ちが、手紙から伝わってきます。私たち家族は、あなたと一緒にリリを支えます。どうか、体に気をつけて、リリの傍に居てあげてください。
心からの感謝と祈りを込めて
ロバート・ジョンソン
エリン・ジョンソン
追伸
職場の記録を探して思い出しました。あなたは背の高い、気の良い青年でしたね。近々どこかでお会いできると嬉しいのですが。どうぞ電話をください。
宛先:ミスター、ミセス ジョンソン
差出人: ジェイク・モーリス
消印日付:1973年7月22日
親愛なるロバート様、エリン様
思いがけず暑いと思えば、冷え込む日もありますね。体調を崩されていませんか?
この手紙では、リリのオーストラリア旅行の計画が、以前お伝えしていた日程で決まったことをお伝えします。来月、8月6日からです。そしてきっと彼女の助けになりたいと願っておられるお二人に、提案がございます。
彼女の体調は、膵臓がんの進行で以前より弱っていますが、ハリス医師の許可を得て、慎重な準備のもとで旅行が可能と判断されました。リリはシドニーを訪れ、できればオペラハウスやボンダイビーチを見て、心穏やかに過ごしたいと願っています。彼女の強い意志と前向きな気持ちに、私も励まされています。
以下が旅行の詳細なスケジュールです。
8月6日(月):ローガン国際空港からロサンゼルス経由でシドニーへ出発。パンアメリカン航空のフライト(便名:PA123、ボストン発午前8時、ロサンゼルス経由、シドニー着8月7日午後3時)。所要時間約22時間(乗り継ぎ含む)。リリの体力を考慮し、航空会社に車椅子と優先搭乗を依頼済みです。シドニーで車椅子に対応した一軒家を借りられました。別紙に住所と連絡先を載せます。
8月7日〜11日(火〜土):初日は体力回復に努めます。観光は1日2〜3時間に限定し、オペラハウス見学、ボンダイビーチの散策、シドニー動物園を予定。現地の病院と連絡済みで、緊急時に備えます。リリの薬は、医師の証明書で持ち込み、シドニーの薬局や病院で補充可能。専属の看護婦も現地で雇いました。電話で話しましたが、とても腕と気の良い、信頼できる女性です。13日(月)から通いで来てくれます。
8月14日(火):現地病院でフォローアップ受診。体調と化学療法の継続を評価。
リリは、引き続き病状を皆さんに知らせないことを望んでいます。滞在中、彼女の体調管理を最優先にし、ソーシャルワーカーのカーターさんから提供された緊急連絡先リストを持参します。万一の事態に備え、リリには私達の共通の友人(マシュー・ウィルソン、617-555-4321)を、米国の緊急連絡先に指定してもらいました。あなた方への連絡は、リリの希望を尊重し、必要最小限にします。
お願いがあります。リリへ会いに来ていただけませんか? 彼女は「普段通り」に過ごしたいと言っていますが、あなた方の笑顔や温かい時間が、彼女の心をどれほど癒すかと思います。
もしよければ、23日(木)に私が計画しているセレモニーに、お二人も参加して欲しいのです。もちろん私も同席し、彼女が疲れないよう気を配ります。何かアイデアやご都合があれば、ぜひ私までご連絡ください。リリの旅行が、彼女の心に美しい思い出を刻むことを願っています。あなた方の愛と祈りが、彼女を支える大きな力です。どうか、私と一緒にリリを見守ってください。
心からの敬意を込めて
ジェイク・モーリス
宛先:ミスター ジェイク・モーリス
差出人:ロバート・ジョンソン
消印日付:1973年7月26日
親愛なるジェイク
連絡をありがとう。すぐに手配した。19日(日)の早朝の便で妻と共にシドニーへ向かう。到着は20日の夜だ。実は夏季休暇を申請済みでね。90日の滞在期限ギリギリまで逗留するつもりだ。リリも、そのつもりなのだろう?
ところで、一緒にリリの親友のアンを連れて行っても構わないだろうか。まずは君にお伺いを立てたい。一度電話で話してみてくれ。番号は妻が知っている筈だ。
私達の滞在先の情報を別紙にて同封する。
取り急ぎ。また電話する。
ロバート
宛先:ミス アン・ミラー(米国、マサチューセッツ、ボストン)
差出人:リリ・ジョンソン(豪州、シドニー)
消印日付:1973年8月8日
ハロー、リリよ!
オーストラリアに移住したの
こっちで結婚することにしたわ
キレイな絵ハガキがあったから、送るわね!
愛してるわ、元気でね!




