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これから死ぬ女 √ もう死んだ男  作者: つこさん。


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陳述書

 リリ・モーリスによる陳述書

 代筆:ロバート・ジョンソン(父)

 日付:1973年8月27日

 宛先:米国退役軍人省/関係各位


 私は、リリ・モーリス(旧姓:ジョンソン)と申します。以下、私の夫であるサミュエル・グレイヴズ一等兵(以下「夫」)の精神状態および渡航経緯について、事実に基づき宣誓いたします。

 夫は1973年3月、ベトナムより帰還いたしました。その後の精神状態には、明らかに戦闘の影響が認められます。


 1.行動および表情の著しい変化

 帰還後の夫は、感情表出が著しく乏しく、硬直した表情を常に示していました。日常的な会話においても口数が極端に少なく、周囲に注意を払わない様子が続いています。

 以前からの友人であるマシュー・ウィルソン(マサチューセッツ州ボストン在住)も同様の所見を確認しており、「別人のようだ」と述べています。


 2.夜間の覚醒発作

 同居期間中、夫には以下の症状が繰り返し見られました。

 ・就寝中に突然叫び声を上げて起きる

 ・「伏せろ」「着弾する」といった戦闘時の言語を叫ぶ

 ・発作は10~15分間継続

 ・その後、周囲を認識できず混乱状態に陥る

 私が観察した限りで6回以上発生しました。

 私の入院後、夫は病院ラウンジで寝泊まりをしていたため、多くの医療従事者もこれを目撃しています。


 3.過度の警戒・動作障害

 ・落とした陶器片を見て「トラップワイヤー」と繰り返す

 ・歩行時、地雷を警戒する兵士のような挙動を示す

 ・突然立ち止まり周囲を確認する行為が頻発

 これらは、家政婦エマ・スミス(オーストラリア・シドニー)も証言可能です。


 4.医師による精神状態の判断

 私の担当医アレン・トンプソン医師は、夫の状態が『戦闘に起因する精神疾患』に一致すると述べており、継続的な精神科治療を要するとの診断を行っています。

 詳細な診断書を別添いたします。


 さらに夫は、戦場で親友を失った精神的混乱から、自身をその友人である『ジェイク・モーリス』であると誤認しています。その状態のまま、彼はジェイク・モーリス名義で渡航し、私と結婚いたしました。

 私は現在、末期疾患により余命が限られております。そのため、私は夫の混乱した状態を理解した上で、私の看取りを夫に託しました。

 よって、夫が誤った身分で渡航し、私の介護に従事したことについては、すべて私の判断と責任であります。


 本陳述書の目的は以下の通りです。

 1.戦闘疲労と混乱に起因する身分誤認について、恩赦・寛大な措置を求めること

 2.夫が本来の氏名『サミュエル・グレイヴズ』として合法的身分を回復すること

 3.夫の継続的な精神科治療を、米国外で確保すること

 4.必要に応じて、将来的な永住許可の申請を行うこと


 本申請により、私とジェイク・モーリスとの婚姻が無効となることを、私は十分に理解し承知しております。

 私は、自らの意思に基づき、上記を正式に証言いたします。


 宣誓の上、署名

 リリ・モーリス

 1973年8月27日

(筆記不能のため、父ロバート・ジョンソンによる代筆署名)


 代筆者:ロバート・ジョンソン(父)

 1973年8月27日


 証人1:エリン・ジョンソン

 証人2:アレン・トンプソン

 証人3:イヴリン・テイラー

 証人4:ハリー・ブルックス

 各署名/1973年8月27日


 本陳述書は、患者リリ・モーリスの口頭指示に基づき、父ロバート・ジョンソンが手書きにて作成したものである。

 患者本人が全文読み上げを聞き「正しい」と口頭にて承認した。

 アレン・トンプソン医師は、患者の意識および判断力が明瞭であり、宣誓能力があることを確認した。

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