表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これから死ぬ女 √ もう死んだ男  作者: つこさん。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/37

1973年8月29日 火曜日 13:33

 ――……ジェイクね。


「うん。僕だ。……起こしてごめん」


 ――……待ってたから。……いいのよ。


「待ってた? 僕を? ……嬉しいな。アンとはちゃんと話せたんだよね。よかったよ。……僕に何か、言いたいこと、ある?」


 ――……サイドボードに。……封筒。……見て。


「――これだね。……読むよ?」


 ――……うん。


「……………………」


 ――……読んだ?


「…………リリ。…………リリ」


 ――……何よ。


「…………言葉がないよ。何て言えばいいのか、わからない」


 ――……思った事……言ってよ。


「……サミュエルの名は、マシューから?」


 ――……そう。……聞き出した。


「……リリ。……何て言おうか。あの、胸がいっぱいになって」


 ――……聞いてる。……言って。


「聞きたい事が沢山ある。でもどう言えばいいのかわからない。ちょっと待って」


 ――……うん。


「……まず。……一昨日の朝、ロバートとエリンと、三人で話し合ったのは、これ……遺言書の事なんだね」


 ――……うん。……そう。


「……どうして、ここまで……してくれるの? ……リリ」


 ――……あんたが……旦那じゃない。……あたしの。


「……うん。うん。僕が、君の夫だ。君を支える為に君と結婚した。……ジェイクとして」


 ――……そうね。


「ねえ、僕は、君にとって良い夫であれただろうか。怒らせてばっかりだった気がするよ」


 ――……ふっ、そうね。


「御両親とアンを呼んだこと……まだ怒ってる?」


 ――……もう、済んだ事。……良かったのよ。……これで。


「ありがとう……ありがとう。そう思ってくれて嬉しい。……それと、聞いていい?」


 ――……なに。


「……何故、僕に、サミュエルに戻れって言うの? ……君はサミュエルの僕を、知らないのに」


 ――……知ってる。


「えっ」


 ――……臆病で、後ろ向きで……悲観的。


「……あはは、バレてる」


 ――……自分を、ジェイクだって思わなきゃ……あたしと……話す勇気もない。


「……うん。……うん。……サミュエルは、そんな奴だ」


 ――……あんたそのものだわ。


「……参ったな。これでも頑張っていたつもりなんだけれど」


 ――……ねえ、手紙。


「……手紙? ……僕がドレスと一緒に渡したやつかい?」


 ――……棺桶に入れて。……持ってくから。


「……うん。……わかった」


 ――……あんたとあたし。……ほんと……割り切れないわね。


「……うん。……整数みたいに単純には行かない」


 ――……だから、連れてくから。


「……なに? 何を連れてく?」


 ――……ジェイクを。……あんたが、気取ってた、ジェイクを。……もう死んだ男として。


「リリ……?」


 ――……あんたは、生きなさいよ。……あんたとして。


「……リリ。リリ。僕は……何も言えない」


 ――……単純な事でしょ。……あんたは、サミュエルよ。……ずっとそうだった。


「……何も、繕えてなかったんだね。僕は。……リリには全部お見通しだったんだ」


 ――……そうよ。……馬鹿みたいだったわ。


「恥ずかしいな。一生懸命ジェイクっぽく、明るく振る舞っていたんだけれどな。君に笑顔で居て欲しかったから」


 ――……面白かったわ。……おどおどして……でも陽気で。


「あははは! 楽しんでくれたなら、いいや。……僕は、君の助けになれた?」


 ――……まあまあね。


「ふっふふ。最高評価だね、ありがとう。……ありがとう。リリ」


 ――……どういたしまして。


「僕の、妻になってくれた事。こうして、僕を……ジェイクじゃない僕を……夫にしてくれた事」


 ――……いやね。……泣くなんて。……笑って送ってよ。


「うん。うん。――リリ。大好きだよ。愛してる」


 ――……ふっ、知ってる。


「沢山感謝している。これまでのこと。それに、僕のこれからの事も。……感謝してる。ありがとう」


 ――……わかってるわ。……ねえ。


「なんだい」


 ――……あたし。……最後があんたでよかったわ。


「………………」


 ――……ジェイクでも。……サミュエルでもなくて。……あんたで。


「うん。……うん」


 ――……言っておくわね。……あたしからも。……ありがとう。


「うん。ありがとう。そう言ってくれて、ありがとう、リリ」


 ――……愛しているわ。……多分ね。


「――うん。……うん。僕も。愛してるよ。多分、ずっと、ずっと、君を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ